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11ー1 コンシダレーション Episode 10

ほんの数時間前まで、ここには百数十人とはいえ、人の営みがあった。


SWD前にあった街とは比べ物にならないが、宇宙人に何もかも焼かれてから、生き残った人たちが1年かけてやっと、あそこまで作り上げた村が、ここにはあった。


今となっては一面の焼け野原だが…



エイジ隊の4人も、すぐ近くへ来てたらしい。カオリが連絡するとすぐやって来て、寒河江の炭化した遺体と、形見となったブリスターバッグを回収し、最後にシノブが一礼して去って行った。


シノブを介したエイジへの連絡も、エイジ達への対応も、全部カオリがやった。


アユムはずっと俯いたまま、話のできる状況では無かった。


『落ち着いたらでいいから話を聞かせて欲しい。』そう言い残して、エイジ達は去って行った。本当は仲間を殺した奴の情報が、今すぐにでも欲しいのだろうが、アユムの心境を察して、遠慮してくれたのだ。


これだけの大虐殺を目の当たりにしたのだら、しょうが無いと…


実際のアユムの心痛の原因は別のところにあるのだが…


     ※     ※     ※


「アユム………」


アユムは膝を抱えて座り込んでいる…


「ご飯、作るけど食べる…!?少しでも、お腹に入れておかないと…」


俯いたまま、何やらブツブツ言ってる。


「アユム…!?」


「カオリさんっ!!」


カオリの声に跳ね起きるかの様に、アユムはいきなりカオリの両腕を掴み、



「今すぐ東京へ行きましょう!!」

血走った目でそう言った。



「………はぁ…!?」



「は…早く行かないと、あいつが…あいつがルリさんを殺してしまう………でも、カナコの車椅子も作らないと…カオリさんのお母さんも探さないと……そ、そうだ!仙台!!仙台に戻ってあいつが襲うのを迎え撃たないと!!!僕は………僕はどうすれば………」


取り留めのない事を口走るアユム。『生きたおもちゃ』という、自分のアンチテーゼの様な存在を知った事が、彼に受け止めきれない過度のプレッシャーを与えてしまったのだ。


「カオリさん……あ、あいつは、クラスメートの引越し先まで正確に調べて…い、一体どうやって……」


「アユムっ………!!」



パシーーーーン!!


アユムの言葉を遮るかのように、カオリの平手打ちが飛んだ。頬の鋭い痛みに、アユムの意識が一瞬飛び、カオリの両腕を掴んでいた手が離れる。


「カオリ………さん…!?」


「アユム………いい機会だから教えてあげる…人を好きになるって言うのはね………


他の何を差し置いてでも、その人のことを第一に考えるって言う事よ!!」


そんな事を言われても、受け止めきれない…


「何もかも…文字通り何もかもよ!!例えそのせいで世界が滅ぶとしても、好きな人の事を最優先に考えるの。それが、人を好きになるって事よ!!なのにあんたは何!?あっちにフラフラ、こっちにフラフラ………しっかりしなさい!!」


酷だがアユムには、ここで立ち止まらせる訳にはいかない。


「………」


気まずい雰囲気が、2人の間に流れ、上空に黒い雲が立ち込めてきた…


「あと、あいつ………『生きたおもちゃ』って名乗ってた………あいつと関わるのはやめなさい。」


アユムが一瞬ビクッと震えた。


「あんたにとってもあいつには思う所があるかもしれないけど、あいつは平気で街一つを滅ぼしたそうじゃない…あんな奴と関わるのは危険よ。」


「あいつは…仙台に引っ越せなかった僕なんです………」


「あんたはああならなかったし、ああならない!」


「でも…でも…あいつは僕が止めないといけないんです………」


不意にゴロゴロと雷が鳴ったかと思うと、上空に立ち込めた雲が、にわか雨を降らせた。村を焼いた業火による上昇気流が、雨を呼んだのだ。


「………やっぱりあんたのせいじゃないわよ。それに、あいつを止めるって事は、『殺す』って事でしょ!?血に汚れた手で、ルリさんを抱きしめられるの!?」


「………」力なく俯くアユム…


雨が強くなってきたわ。雨除けを作りましょう…カオリに促されて、アユムは、村外れの焼け残った樹の下に逃げ込んだ………


     ※     ※     ※


激しい雨の中では火を炊くことが出来ず、食事は簡単なものしか作れなかった。アユムは雨よけのテントの中で、それをモソモソと食べた。


「………雨が、止んだら、南に…郡山へ行きましょう。」

アユムがボソっと言った。


「仙台には………戻らなくていいの!?」


「車椅子を完成させて、カオリさんのお母さんと、ルリさんを探さないと…」

(あれだけ大げさに出ていった手前、今更戻れない…)


「………そうね。」

(…とか、思ってるんでしょうね………)


「あいつの事は…もういいの!?」


「…どこへ行ったかさえ分かりませんからね…それに、『もう一人の僕』の考えてる事は、僕自身がよく分かりますよ。あいつのアレッツはボロボロです。戦う力を無くしたら、もう、復讐も出来ないでしょう…」


それを言うなら、あんただって、アレッツはボロボロでしょう…


やがて、食事は済んで雨は上がり、2人は『生きたおもちゃ』が焼いた復興村の焼け跡に深々と一礼すると、スクーターに乗って、南へと走り去っていった………



第十一話 曇り無き弦月

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