10ー6 俺にとっての SWD
西暦2052年、8月14日、夜…
『誰か』が、俺の願いを聞き届けてくれた。
窓の外から聞こえる轟音と閃光で、微睡んでいた俺は覚醒した。何年ぶりかに開けたカーテンの外では夜空から星が降ってきて街が燃えており、ネットもテレビも情報は混乱していた。
もう何年かぶりに、俺はドアの外へ出た。最初はここにいたら死ぬと思ったからだった。が、まばゆいばかりの光が空から落ちてきたかと思うと、それは隣の家に落ち、轟音とともに辺りを火の海にした。そいつは………6本の腕を持った化け物とも、頭の輪と背中の翼を持った、巨大な天使とも見える物体。それが、明らかに自立出来そうにないくらい細い脚を隣家の廃墟に突き立て、十字架か墓石の様に佇んでいた。
(何だこれは…昔のアニメで見た、巨大ロボット…その割には人形からはかなり外れてるみたいだが…)
俺はゆっくりと、そいつに近づいていった。何故だか恐怖を感じなかった。そいつに触れた次の瞬間、俺は光る妙な空間の中に浮いていた。次の瞬間、
ザクっ! ザクザクっ!!
「う…う”わ”あ”あ”あ”あ”あ”〜〜〜っ!!!」
見えない針の様なものが頭に何本も何本も突き刺さる感覚がし、俺は苦痛に悲鳴を上げた。
しかし苦痛は徐々に安堵を経て快楽へと変わって行き、頭の中に次から次へと様々な情報が流れ込んできた。それらは知らない言葉のはずだったが、何故か『この機体は自分の物になった』という意味だと理解できた。
「キャァァァァァァ〜〜〜っ!!」「な…何だこいつは〜〜〜!?」
天からの砲撃を逃れ、手に手を取って走ってきた男女が、地上に現れた異形のロボットを見て悲鳴を上げた。うぜぇ。俺はロボットの3本ある右腕の1本を2人へ向け、
(報いを受けろ!!)
そう念じると、次の瞬間、ロボットの腕の先端からビームの様な物が放たれ、2人は炭も残さず消えた。
(すげぇ…こいつは強ぇ…)
俺は、コクピットの中で、ニヤァと笑っていた。
ああ、今分かった。
こいつは、天使だ。
俺の願いを叶えるために、今、天から遣わされたんだ………
「おい…お前…」俺はロボット…『六本腕』に話しかけた。
「少しだけ、俺を外へ降ろしてくれ…」
ロボットを降りた俺は、再び俺の家に駆け戻った。
「おい、お前、無事だったのか。なら助けてくれ、母さんが、母さんが…」
俺の父親の声がしたが、構わず階段を駆け上り、俺の部屋へ戻った。持ち出すものはただ1つ、歴代のクラス名簿。俺は再び階段を降りる。
「おいお前、助けてくれ、おま…き、貴様ぁぁぁぁぁ〜〜〜」
父親の声はそこで途切れた。『六本腕』の腕の先から伸びたビームの剣で家ごと潰されたのだ。
(少しなら離れても動かせるのか、こいつ…)
再びコクピットへ戻った俺『六本腕』に、動け、と念じた。
『六本腕』は、ゆっくりと浮かび上がった…
俺は夜空から降る星の雨の中、一晩がかりで手に入れた機体の試運転を行った。建物を壊し、逃げ惑う人々を殺し、山河を焼いた。俺を『生きたおもちゃ』と蔑んだ街は、一夜にして廃墟と化した。
俺はあの朝、産まれて初めて、心の底から笑った!
だがこれで終わりではない。
俺はクラス名簿の中から、あの夜に殺せた奴らの名前を赤ペンで消すと、旅に出た。
俺をいじめた、歴代のクラスメート達の生き残り、消え残った名簿の名前…
引っ越しなどであの街を出た奴らを探し出し、報いを与えてやるために………




