10ー5 名前を捨てた アヴェンジャー
その時、
「な………何をしてるんだ君はーーーーーっ!!」
「キャーーーーーーーっ!!!」
後ろの方で声がした。振り向くとそこにいたのは、呆然と立ちすくむ渡会アユムと、悲鳴を上げるカオリという女。
※ ※ ※
寒河江を追って行った男に不穏なものを感じたアユムとカオリはこっそり男の後をついていくと、男は寒河江に村外れで因縁を着けた上で………首から上を消し飛ばした。
男はアレッツ………と思しき物を持っていた。いや、これは…
頭のてっぺんは丸く平らに潰れ、輪っかの様に見える。胴体から大きく張り出した両肩は、マントとも翼とも見える。そしてそこから、腕は左右3本ずつ、合計6本伸びていた。細い腕の先端は、角ばったしゃもじの様な形状をしており、そこからパーティクルブレードの長い刃が伸びていた。先端から平たく細長い刃、端から1本、細くて短い刃。細くて短い方を親指に見立てると、辛うじて手のひらにも見えた。さっき寒河江の頭を消したのは、このパーティクルブレードで横薙ぎにされたせいだ。その余波を受けて、寒河江の後ろは広範囲で発火している。そして、足は細く、2本揃えた形で尻尾のように下に伸びている。この巨体を支えられるとも思えず、反重力の類によるものか、機体は常に宙に浮いていた。全長は一般的なアレッツより大きい10mくらい、機体色は、骨の様な白…頭に輪を持ち、胴体から翼が生えているその姿は、天使を思わせた。さっき見た、男が腰から下げていた完成品フィギュアを、そのまま巨大化させた様な物。これは…本当にアレッツなのか…!?
それを携えている男は、ゆっくりとこっちを振り返り、
「やぁ渡会アユム…今日は本当に良い日だねぇ………君に逢えたし、ほら、俺をいじめた奴にも報いを与えてやれた………」
笑いながら、本当に心の底から上機嫌そうに、そう言った。村の中心の方から、火災の発生といきなり現れたアレッツもどきに、人々の悲鳴が飛び交っていた。
「あんたの旅の目的は………かつてのクラスメートを探し………こ、殺す…いじめの復讐をする事だったのか……それも、小学校から高校までのクラス全員………お、おまけに、アレッツ乗り…!?」
「ご明答。」
男は害虫を駆除したかの様に言った。男…いや…
「…あのさぁ…そう言えば、君の名前、聞いてなかったよねぇ…」
「…『生きたおもちゃ』。そう呼べ。」
「いや、そんなんじゃなくて…」
「本名は捨てた。今、そこで転がってるそいつも、俺の事をそう呼び、実際そういう風に扱っていた。だから復讐を心に決めた時、この名前を名乗ることにした。奴らが蔑んで呼んだ名を名乗るものによって殺される。最高の復讐だろう………!?」
そう言って男…『生きたおもちゃ』は、再びニタァと笑った。
※ ※ ※
一人で寂しいという奴の考えが分からない。
俺ば物心ついてからずっと、他人から攻撃され続けてきたので、周りに誰かがいたほうが苦痛で、誰もいない方が平穏を感じる。
俺は、一人がいい。
人は、本当に簡単な理由で、同族であるはずの他人を殴り、蹴り、罵声を浴びせ、あざ笑う。
俺は…一人がいい。
あいつらはどうせ知らない。知ろうともしない。この俺に、名前があるという事を…
幼い頃からずっといじめられ続けて、誰がが『生きたおもちゃだな、こいつは。』と言ったことから、それ以降俺を名前で呼ぶ奴は誰もいなくなり、『生きたおもちゃ』と呼ばれ、実際にそういう扱いを受けた。先生ですら、授業中に笑いを取るために俺をそう呼んだ。高校に行けばそういう扱いからも解放されるかと思ったが、俺をいじめてた主犯格の1人が同じ学校に進学してて、中学までの俺の呼び名と扱いを、そのまま高校に持ち込んだ。
俺は、自分の部屋に引きこもった。高校は、何年目かで親が退学届を出したらしい。
夜に起きて、ドアの前に置かれていた食事を食べて、朝、日が登る頃に寝た。親にも誰にも関わりたくなかった。時間の潰し方はいくらでもあった。マンガ、アニメ、ゲーム、web小説、そして…保育所から高校までの歴代のクラス名簿を睨んで、怒りと恨みを滾らせること………最初は専門学校なりバイトなりをしろと言っていた親も、何年かするとあきらめたらしい。違う世界での人生再起を謳っていた団体の誘いも無視した。そんな所になんか行くもんか!俺の唯一やりたいことは………この世界にこそある!!
ああ、誰か…誰でもいいから、このクソッタレな世界をぶっ壊してくれたなら…
※ ※ ※
西暦2052年、8月14日、夜…
『誰か』が、俺の願いを聞き届けてくれた。




