10ー4 疎かにした 時間の報い
そこへ…
「おーい、お前達ーーー!!」
誰かがやって来た。緑の迷彩服を着た、体格の良い男性…
「あなたは…もしかして、エイジ隊の…」
えーっと、この人、最上さん以外の4人の中にいたよな…
「寒河江だ。」
エイジ隊隊員…寒河江は名乗った。
「それで…君らの旅の目的地は仙台だと聞いてたのだが、こんな所で何をしてるのかな!?」
「訳あって旅を延長したんですよ…あなたこそ…最上さん達はいないんですか!?」
アユムはキョロキョロと辺りを見渡すが、寒河江以外に誰もいない様だ。
「こっちも訳があってな………本当だったら今すぐ来た道を引き返せと言いたい所だが…」
寒河江は最後は少し険しい表情になって言った。この人もアレッツを手放せって言いたいのか!?
「言っときますけど…」
「………米沢が…エイジ隊のアレッツ乗りが…殉職した。」
「え………!?」
「たまたま訪れてた村ごと焼かれたらしい…あいつは俺とガキの頃からつるんでたのに………」
更に沈痛な面持ちになる寒河江。
「それから………山形の方にある、俺の故郷の街も、廃墟になってた。しかもどうやらSWDが起きた日に、宇宙人以外の存在から攻撃されて…」
アユムもカオリも言葉を失った。
「あそこにはオヤジやオフクロもいたのに………何で………」
「それは………」「お悔やみ申し上げます………」
「君たち!!何か知ってることは無いか!?」
寒河江はアユムにぐいと迫った。
「な…何で僕に聞くんですか!?言っときますけど、僕じゃないですよ!?」
「分かってる………俺も最上隊長と同意見だ。君は無意味に力を振りかざす奴じゃない。ただ…どんな小さな事でもいいから、知ってることがあったら教えて欲しいんだ………」
頼む。寒河江は頭を下げた。アユムは少し考えた末に、
「岩手県南部に巣食うホワイトドワーフが、山形の方も縄張りにしてたらしいです。1周間程前に僕がソラさんと共同で倒しましたけど…」
「…なら違うな。米沢が殉職したのは、ほんの数日前だ。」
「あと…あなたの故郷が滅んだSWD当日、僕らは北海道にいました。」
「うむ…さすがにそれまで君らを疑ってはいない。」
良かった…どうやらこの人は思ったより穏やかな人らしい。
「ダイダ…は、捕まったんだから無関係ですよね…そもそも、あいつも凶暴な奴だけど何だか方向性が違う様な気がしますし…」
「う…うむ…」取り逃がして4人別行動で偵察中だったなんて言えない。
「とにかく…野盗のアレッツやホワイトドワーフに加えて、この先には、我々が想像もつかない存在が待ち構えている様な気がするんだ…君らも気をつけたほうがいい。」
「ご忠告、ありがとうございます…」
「あなた…一旦最上さんの所に戻ったほうがいいですよ…少し休んだ方が…」
「…」
無言でアユム達に一礼して、去って行く寒河江。
「………あの人達も色々大変ね…」
「ごめん、知ってる人が来た…」
アユムは突然の来客に放置された形になった男の方を見たが…そこにあったのは空の食器だけ。
「…あんたの新しいお友達は、『ごちそうさま』も言えないのね…」
嫌味ったらしく言うカオリに、アユムは、
「ま…まあまあ…あ、あそこ…」
さっきまでカオリが出した料理を食べていた男は、去っていく寒河江の後を追いて行っていた。
「ちょ…ちょっと、どこ行くの!?」
※ ※ ※
村外れにやって来た寒河江を、「おい」と、誰かが呼び止める。振り向くとそこにいたのは、ボサボサの長髪の男。さっきまで話していたアユムの所にいたのだが、一言も喋らなかったので気づかなかった。
「何か用か!?」
怪訝な顔で尋ねる寒河江に、男は、
「××小学校、3年、4年2組、出席番号14番、寒河江ケンゾウだな!?」
「確かに俺の名前だが…小学校時代のクラスなんて忘れたぞ!」
「見つけた………」
男はニヤァと笑った。
「お前は俺の小学校時代のクラスメートだった…」
「だから小学校の時の事なんか忘れたって…」
「おまえは俺のいじめを止めずに傍観していた…」
男の声は段々怒気を纏ってきたが、
「だから忘れたって…」
寒河江は気にも止めない。
「米沢ともども現住所の掴みづらい職に就きやがって…あいつを見つけたときは小躍りしたぞ…」
「何言ってんだお前………米沢に会ったのか!?」
死ぬ直前のあいつに…
「あいつには報いを与えてやった。ついでにあのいまいましい街も更地にしてやった…」
「何だと…!?お前誰だ!?」
「俺の名前は、『生きたおもちゃ』。」
「あぁ〜〜〜!?ふざけてるのかぁぁぁ〜〜〜!?」
「ひどいなあ忘れたのかい!?お前らがつけてくれた名前だろう!?本当の名前があったのに、こっちが定着したら、もうそっちじゃ呼んでくれなくなった。だから、お前らへの復讐にはもってこいの名だろう!?」
「さっきから何言ってんだお前!?」
「おまけに俺に親切にしてくれた渡会アユムにまで、『こんな所で何をしてる、今すぐ来た道を引き返せ』『米沢が殺されて故郷の街も廃墟になった。お前のせいか!?』って、ひどい事を…っ!!」
「そんな事言ってない!!おもちゃの癖に言葉をしゃべるな…ちょっと待て、お前、まさか………」
寒河江の顔が一瞬青ざめるが、男は構わず、
「『お前がやがて巡り合う災難は、お前がかつて疎かにした時間の報いだ』
疎かにした時間の報いを受けろぉぉぉぉぉ!!!」
叫びながら男…『生きたおもちゃ』は、腰から下げてたロボットのおもちゃを取り出すと、それは一瞬で巨大な人型となり、
その腕が横に薙ぎ、
寒河江の頭が消え、懐からブリスターバッグが地に落ち、首の亡くなった寒河江の遺体が噴水のように血を吹き出しながら、膝から崩れ落ちた。
『生きたおもちゃ』は、自身が肩から下げていたクラス名簿から、『寒河江ケンゾウ』の名を見つけ、
再びニタァと笑いながら、赤ペンで、その名前を消した。
「………報い、完了!!」




