10ー3 ここにも一人 星の客
「アユム…渡会…渡会アユム!!」
ようやく満面の笑みを浮かべてくれた男に、
「それは僕の名前だよぉ…君の名前は!?」
だがそんなアユムの問いへの答えは、グー………という、情けないお腹の音。
「お腹…空いてるの!?」
男はコクンと頷いた。この人、多分僕よりちょっと年上だよな。その割には…アユムはくすっと微笑み、
「分かった。じゃあ、僕の所へおいでよ。」
※ ※ ※
「………うちも食べ物が余ってる訳じゃないんだけど………」
男を連れて帰ってみると、カオリさんはちょっと怖い顔をした。男はアユムの後ろに、心細そうに隠れている。
「ごめん…でも、そこを何とか………この人もう何日も食べてないみたいなんだよ…」
アユムのお願いにカオリははぁー…とため息をついて、
(この子は…旅の途中、あたしがどれだけ食糧のやり繰りに苦労したか分かって無い…ルリさん…あんたこの子と付き合うと苦労するわよ…)
「カオリさん!?何か言った!?」
「………何でもない。分かったからちょっと待ってて…」
※ ※ ※
10分後…
「はぐっ…むぐ…っ…ごくごく…」
カオリがあり合わせの食材で作った料理に、かぶりつく男。
「………何だかずっと前にも見た光景ね…」
カオリは言ってから、あ、この人、アユムと似てるんだ、と思った。
「それで…君はここの人じゃないの!?」
アユムの問いに、男はコクリと頷いた。だからさっき、村人にいじめられていたのか…
「どこから来たの!?」
あっち、と、男は北の方を指した。
「その…ここで何をしてたの!?」
僕と同類みたいだし、突っ込みすぎたかな…!?アユムは思ったが、
「旅を………してる。」
男は答えてくれた。
「そう言えば、あの紙の束って、名簿だよね!?もしかして…」
さっきチラッと見た、男が3人組に取り上げられていた紙の束には、人の名前がずらりと書かれていた。
「う…ん…人探し………」
男は肩から下げている紙の束を広げてみせた。
「クラス名簿………保育園から…高1までの…全部………」
「その人達の所を…巡ってるの!?」
男はまたコクリと頷いた。
「保育園から…退学した高校までずっと…その…い、いじめられてて………それから何年も引きこもってて………」
「あー…僕も似たようなもんです…」高校で開放されたけど…
「それで……スペースウォーズ・デイが…起きて…両親が死んで…家も壊れて…それで…引きこもっていられないなって………今までずっと何もして来なかった俺に、ようやく出来たやりたい事と、それを実行できる手段だ…だから……」
「僕も!!」「わ………っ」
アユムは男の両手を握った。男は戸惑いながらも、ぎこちなく微笑んだ。
こんな絶望的な世の中になっても、夜空に星を見つめる様に、希望を掲げて歩いている人はここにもいたのか…
「僕………君に会えて良かった!!」
アユムは本心からそう思った。
「………俺も」
未だ名前も知らないその男が返した言葉も、本心なのだろう。
(似た者同士みたいね…アユムにも友達が出来て良かったみたい…)
貴重な食材を放出した甲斐があった、とカオリは思った。
「それにしても………」
アユムが覗き込んだ、男が持ってる名簿の名前には、住所が手書きで書き込まれている上、いくつも赤線で消してある。
あれだけの大災害があったんだ。亡くなった人が大勢いても無理はない…でもこの人、相当な強い意志を持ってクラスメート探しをしてるみたいだ…
「ねえ…連絡先、交換する!?」
アユムはスマートフォンを取り出したが、男は、
「スマートフォン…持ってない。友達なんかいなかったし、引きこもってたから………」
「……あー、ごめん…」
悪い事思い出させたな…何か、話題変えないと…あ、
「あのさ…腰から下げてる、それ…そういうの、君も好きなの!?」
男が腰から下げているのは、ロボットの玩具…完成品フィギュアと思しき物。頭が天使の輪の様に丸くへこみ、両肩が広げた翼の様に広がり、腕が6本、そして脚は非常に細く、尻尾の様に下に揃えている。
「これ………大事なもの………」
「そうか…君もそういうの好きなのか…」益々男に親近感がわいたアユム。
「でもそれ、なんて番組のどういう名前のだったっけ…!?」おまけに何か悪役っぽい。「ちょっと見せてもらっていい!?すごくリアルだけど…」
「…だめ………」男はスッと、それを両手で隠した。
「ご…ごめん…分かった。もう言わない。」




