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10ー1 歩むこの旅 香(やり)を携さへ 上

一人で寂しいという奴の考えが分からない。


俺ば物心ついてからずっと、他人から攻撃され続けてきたので、周りに誰かがいたほうが苦痛で、誰もいない方が平穏を感じる。


俺は、一人がいい。


人は、本当に簡単な理由で、同族であるはずの他人を殴り、蹴り、罵声を浴びせ、あざ笑う。


俺は…一人がいい。


今日も俺は一人、部屋にこもる。


あいつらはどうせ知らない。知ろうともしない。この俺に、名前があるという事を…


     ※     ※     ※


いじめとは人が4人集まれば成立する。即ち被害者と加害者と扇動者と傍観者である。


いじめとは人が3人集まれば成立する。即ち被害者である少数派の1人と加害者である多数派の2人である。


いじめとは人が2人集まれば成立する。即ち攻撃される弱者と攻撃する強者である。


従って、いじめ、弱者攻撃の無い世の中を作るには…


Walk Stranger


     ※     ※     ※


落星騎兵ALLETS 第三部


     ※     ※     ※


西暦2053年、10月初め、


旅の目的地を首都圏に延長した渡会アユムと相川カオリは、福島県中通り某所の都市近辺に作られた、とある復興村にいた。


昼下がりの村の広場では、ご飯を食べ終えた村人たちが、それぞれ午後の仕事へ向かおうとしていた。その片隅で、


アユムは画板に留められたケント紙に、何やら描いていた。


左上には自転車の絵。あちこちのパイプに、切断を意味する点線が走っている。


右に矢印が伸びて、バラバラになった自転車の各パーツを組み直し、更に右矢印が伸び、その隣に描かれているのは…


「それ、カナコさんの!?」


アユムの右後ろからヌーっとカオリの顔が割り込み、アユムは「わっ!」と声を上げる。


カオリさん…近い…


「え…ええ…。」

アユムは自身の顔を左に避ける。

「カナコがあんな事になってるなんて、思ってもみませんでした。こういうのがあれば、きっと助けになると思ったんです。」


画板の設計図に描かれている、右矢印の終点にあるのは、手製の車椅子。


「動力の無い物を本格的に作るのも、車椅子を作るのも初めてですけど、それで…この先の街に、僕のじいちゃんのお弟子さんがいらして、こういうのを作ってらっしゃるみたいなんですよ。だから…」


アユムは声を落とし、


「カ、カオリさんには悪いんですけど、そこに寄りたいんです。出来ればしばらくの間…」


「アユム…」


カオリは左右の腕を前にまわした。ちょうどアユムを後ろから抱きしめる様に…


「カ…カオリさん…!?」


「あんたはあんたの事を好きだって言ってくれた女の子に告白の返事をするために旅をしてるんだ。なら、その子と再会した時、恥ずかしくない人間になっていないとね。友達のために行動するのは、良い傾向よ。」


「カオリさん!さ、さっきから近いです!!」

おまけに背中に当たってます!!


「なぁに!?赤くなってんの!?」


カオリさんがニマァと笑う。


「ヒっ!?」


背中背中背中…気を紛らわすためにエネルギー保存式拡張生成項第一係数暗唱、3.14159265358979…ぱ、パイじゃなぁぁぁぁぁい!!


「ルリさんに告ったらチューの一つでもするんだろ!?今のうちにあたしで女に慣れとくかぁ!?」


カオリさんの桜色の唇に目が釘付けになり…


がばっ!彼女を振り払い、


「ぼ…僕、この村を見て回ります!留守番よろしく!!」


アユムは駆け出した。


一人残されたカオリは「あらら…」と呟き、天を仰いで、


「ルリさん………どんな人か知らないけど…あの子にはあなたみたいな彼女がお似合いでしょうね…」

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