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1ー7 忘れられない 背中の痛み

本作にいじめを推奨したり、その手口を喧伝する意図はございません。決して真似をしないで下さい。

さて…翌日…


「あ…おはよう、カオリさ…」


アユムの言葉にカオリはぷいとそっぽを向いてスタスタと行ってしまった。


「カオリさん…」スタスタ…


「カオ…」ガチャン!(食器を乱暴に置く音)


村の者の態度も変わった。特に女性達が、アユムを見て何やらヒソヒソと話している。ちなみに、本編とは全く関係無いが、村のお風呂の浴室前の扉には、「男子入浴中」「女子入浴中」と裏表に書かれた手製の札が掛けられた。全くこれ誰のせいだろう。


「カオリさーーん、待ってくださいよーーー」


アユムに追いかけられ、村はずれへと走って行くカオリ。そこにあった建物の、引き戸のつっかえ棒を外し、引き戸を開け、中に入って閉める。


「カオリさーーん、どこですかーー!?話を聞いてくださいよーーーー…」


アユムの声が段々と遠くなっていった。


     ※     ※     ※


「カオリさーーん、どこですかーー!?話を聞いてくださいよーーーー…」


何とか昨日の誤解を解かないと…見失ったカオリを探すアユムに、


「アユムちゃん、ちょっと…」


食堂のおばさんが声をかけてきた。普段とは違う、険しい表情で…


「話は聞いたわ…お風呂場で見ちゃったんですって…!?」


「ぼ…僕は痴漢や覗きじゃありません。知らなかったんです。カオリさんが入ってたなんて…」


「あのね…アユムちゃん…女にとって、好きでも嫌いでもない男に裸を見られるのって、何よりも耐え難い屈辱なの…」


「だからあれは事故だって…」


「たとえ事故でも、よ。」


「………じゃあ…僕はどうすれば…」


「……もうどうしようもないわね…何をしても何を言っても、傷口に塩をすりこむみたいな物よ。番頭のおじいさんも、悪い事したって言ってるけど…この村の女の人の間にも、もう良くない噂が立ってるわね…」


しばしの沈黙の後、アユムは…


「……分かりました。もうこの村で頼まれていた仕事は終わりましたし…明日、ここを出ていきます。」


「私も…こんな事になってしまって残念だわ…」


「いいんです…僕は元々旅の途中でしたし。」

アユムはツナギの上から、首にかけたあの青い石の入ったお守り袋を握りしめた。


僕は、行かなきゃならない。それに…僕はここにはずっといられない…


     ※     ※     ※


一方、村外れの建物に逃げ込んだカオリは…


まず、何故、この建物に外からつっかえ棒がされていたのかを疑問に思った。


そして、ようやく目が暗闇に慣れてくると、床には解かれたロープが散らばっているのに気づいた。


そして…彼女は後ろから羽交い締めにされた!


「…動くな!声を出すな!!」「感謝するぜぇ…扉を開けてくれてよぉ…」


あの日、村人達に捕った2人の野盗が、この小屋に閉じ込められていたのだ。


     ※     ※     ※


「野盗が逃げたぞーーーーっ!!」


村人の叫び声を聞いてアユムとおばさんが村の広場にやって来た頃には…


野盗はカオリを人質に、放置されていた自身のアレッツに乗って、逃げて行った後だった…


     ※     ※     ※


カオリがさらわれた直後、


村の食堂には、村人達が集まって、今後の話し合いをしていた。


「カオリちゃんを見捨てるって言うの!?」おばさんが声を上げたが、


「しょうがないよ…俺たちに奴らに抵抗する力は無い…」

「これでしばらく、あいつらがおとなしくなってくれれば…」

「それに…どうせあの子は…」


「あんた達、自分が何言ってるか分かってるの!?」

村人の誰もが、食堂のおばさんがあんなに声を張り上げるのを初めて見た。が…


「じゃああんた、助けに行けるのかい!?」


その声に、おばさんは何も言えなかった。


そんなやり取りを聞きながら、アユムは食堂の端の椅子に座り、思い出していた。まだ中学生だった、北海道に住んでいた頃の事を…


     ※     ※     ※


プラモ盗難焼却事件からしばらくして…


理科の授業の次の休み時間、アユムが教室に戻ってくると…


「なぁ、渡会…」


3人のクラスメートがアユムに話しかけて来た。


「な…何!?」


アユムは訝しんだ。彼らとは普段あまり親しくない。というより、クラスで仲の良い人なんていなかったが…


「明日提出の宿題なんだけど…」


「え…!?そんな物、あったっけ…!?」


周囲ではクラスの前と後ろの出入り口で、数名のクラスメートが集まって何やら話をしている。だが…妙な視線を感じる。


「ほら、あれだよ、あれ。えーっと…何だっけ…」


「一体何の事!?」チクリ!違和感を感じる。


周囲のクラスメートはそれぞれ何人かずつ集まって話をしている。なのに何故か一様にこっちを見ている視線を感じる。そして…背中に妙な違和感も…


「…奥までつっこめ…」


不意にそんな声がした。


チクチクチクっ!!「あう………っ!!」


背中にチクチクしたものと、グェフフフ…という不快な笑い声が聞こえる。


フフフフフ…ククククク…クスクスクス…


クラスメートの、男子女子を問わぬ笑い声が聞こえる。誰か止めろよ、えぇー嫌だよー、ならお前止めろよー…


「よぉぉぉぉぉ〜〜〜渡会ぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜」ドンっ!「痛っ!!」


ダイダがその太い腕でアユムの背中を力いっぱい叩く。アユムはチクチクと違和感のある痛みを感じ、身を捩った。


「グェハハハハハハ!!どうしたんだよ、渡会ぃぃぃぃぃ〜〜〜!!今日は本当に楽しい日だなぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」バンバンバン!!チクチクチクっ!!!


「あ” あ” あ” あ” あ”〜〜〜〜〜っ!!」


クラスメートのゲラゲラ言う笑い声の中、アユムは背中の激痛に倒れ込んだ。



グラスウール…理科の実験で使う、ガラスを繊維状にした教材。


ダイダは前の授業で、理科実験室からグラスウールを盗み出し、


アユムの背中にこっそりと入れ、


服の上からバンバンと叩いたのだ。



砕けば無数のガラスの針となる様な物を背中に入れて!!



アユムの気を引くため、アユムに話しかける3人のクラスメート、


先生が来るのを警戒する、出入り口の見張り役のクラスメート、


ダイダが何をしようとしているのか知っていた上で、見てみぬふりをしたクラスメート…



クラス総出のいじめだった。クラスメート全員が、即興で各々の役割を分担し、緩やかに関わった…



母親に連れられて泣いて帰ったアユムは、家の浴室で母親にシャワーでガラス繊維の破片を洗い流され、細かい破片をガムテープや虫眼鏡とピンセットで取られた。その間、そしてその後しばらくは背中はジグジグと痛んだ…


それからアユムは学校へ行かなくなり…


しばらくして一家で仙台に引っ越した。


     ※     ※     ※


時は再び現在に戻る。


カオリを見捨てる方向で固まりかけている村人たちに、食堂の端の椅子に腰掛けているアユムは、


「どうしよう、どうしよう、どうしよう………」

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