9ー4 杜の都の 二度目の夏の日
西暦2052年、8月上旬、
仙台第八高等学校、校舎裏…
お盆休みに入る前の、夏休みの登校日、
渡会アユムは下駄箱の手紙で呼び出され、
行った先に待っていたのは、
「私、あなたの事が好きです。
よろしかったら…私と…お付き合いして下さい。」
頬を赤らめ、少しはにかみながら、そう告げる少女。
うだるような暑さ、遠くに聞こえる蝉しぐれと、ブラスバンドの練習音と、体育系部活動のランニングのかけ声…
佐藤ルリさん…
アユムと同じクラスの女子で、ユウタに告られて泣いて教室へ帰ってきた少女。
大人しくて目立たない女の子。
原付免許の合格祝いに、カナコに連れられて何故か参加し、それ以降、アユムとも一緒に帰ったり、話しをする機会が増えた。
そんな彼女のなけなしの勇気を振り絞っての告白を受けたアユムは…
「………え!?」
答えに詰まった。
「あ、そ、その…ご、ごめんなさい…突然こんな事言って…」
ルリの方が気を使いだした。
「お、お返事は後でで結構です。わ、私待ってますから!!そ、それでは失礼します!!」
深々と一礼して去っていくルリ。
一方、呆然としていたアユムは…
ようやく我に返り、『ひょっとして、悪いことしちゃったかもしれないな。返事出来なくて…』と思い始め、
ふと地面を見ると、
ルリの立っていたあたりに、小さなピンク色の袋が落ちている事に気がついた。
間違いなく、ルリが落とした物だろう。
クラスに寄ってみたが、ルリは既に帰った後らしい。
小さな鍵が付いているが、何だろうか。家とか自転車とかの物じゃ無いだろう。もっと、何と言うか、言い方は悪いが、玩具っぽい。
悪いと思いつつも、袋の中身を見てみると…
出てきたのは、深い青色の、きれいな石。ところどころに、金色の砂の様な物が混じっている。
まるで、夜空の星の様な…
お守り袋だろうか、これは…
図書室に寄って鉱物事典を首っ引きで、その石が何なのか調べてみると…
「あった、これだな。…『ラピスラズリ』…和名は、『瑠璃』。」
アユムは図書室の窓の向こうの夏空を見上げた。
「ルリさん………」
※ ※ ※
次の登校日にはちゃんと返事をしないと…
そもそも、彼女は僕なんかの何を好きになってくれたのか…
そう思いながらもお盆に入るとアユムは両親とともに、北海道の親戚宅へ里帰りの新幹線に乗った。
そして起きたのがスペースウォーズ・デイ。
※ ※ ※
燃え上がる街と両親を失った失望で、両親が最後の力を振り絞って送ったであろう叱咤のメールを見ても、再び立ち上がる気力が持てなかった。
あの炎の中に飛び込めば、楽になれるだろうか。
そう思った時、ポケットから何かが落ちた。
あのピンクのお守り袋である。
「ルリ…さ…ん……」
彼女の言葉が蘇る。彼女の笑顔が蘇る。
世界でたった一人、アユムの事を好きだと言ってくれた少女…
アユムはお守り袋をぎゅっと握りしめた。
「ルリさん…あの時はごめんなさい…ちゃんと返事出来なくて…
僕…どんな事をしてでも、あなたにもう一度会いに行って、ちゃんと告白のお返事をします。
だから………少しだけ、待っててくださいね、ルリさん…」
※ ※ ※
翌日から、アユムは知識と情報と手段を集め、仙台へ帰る旅の準備を始めた。
最初に行った事は、細くて長い紐を見つけて、お守り袋の紐に通し、首から下げる事であった…




