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9ー2 親友との再会

注意:残酷描写あり。

「お前にこんな事ができるなんてな…」


路肩にユウタのスクーターを停めて修理しだすアユム。設備も工具も機会も無かったため、仙台では機械いじりの事は誰にも言ってなかった。


「これもじいちゃんから教わったんだ…」


「お前にスクーターの乗り方を教えたおじいさんか…ところで…お連れさんは大丈夫なのか?」


カオリを気遣うユウタ。


「だ…大丈夫。少し落ち着いたみたい…」


亡くなったおじいさんの事まで話してるなんて…アユムにも親しい友人がいたのね…カオリは思った。


「それにしても…帰省先の北海道で被災して、スクーターでこっちに渡ったってぇ!?無茶をしたな…でも、よく帰ってきてくれたな。また会えてうれしいぜ。」


アレッツ乗りになった事は、さすがに黙っておいた。


「それでユウタ………こっちはどんな感じだ!?」

動かす手を休めずアユムは尋ねた。


「多分、そっちとあんまり変わらねぇと思うぜ…」


ユウタは遠い目になって言った。


「あの夜、街も家も焼けて、俺は両親を失って、長町に出来た復興村で暮らしてんだ。あちこちで野良仕事を手伝って、な。今日は台原で畑を手伝って、今、背負ってるのが、今日のお給料だ。」


汚れたリュックの中には農作物が詰まっているようだ。


「ユウタ、お前…」


「ん!?何だ!?」


何だろう、ユウタ前とは雰囲気が変わった様な…


「…何でも無い。でも長町に住んでて台原って、かなりの遠出だぞ。何でそこまで…」


「ん…まあ、色々あってな…」


何だろう…


「よし、直った!」

アユムがスクーターのシートを閉める。試しにユウタがキーを回すと、スクーターのエンジンが軽快に鳴り始めた。


「お、おお!本当に動いた!!アユムありがとうな!!」


「良かった…ところで、クラスの他の人たちはどうしてる!?学校は…見てきたけど、もうやってないみたいだな…」


「ああ…生き残った奴らとは連絡を取り合ってる。」


「誰かと会えないか!?」


人付き合いが苦手だと言ってたアユムが、他人と会いたがるなんて、カオリには意外だった。


「えーーっと、カナなら…会えるけど…」


「カナコ!小田カナコか!!」

アユムの顔がぱぁっと明るくなる。


「ポニーテールの活発な子だったよな。陸上部の。お前とも仲良かった…」


「………会いたいか?」


「会いたい!!」


「そうか………会いたいか…そうだよな…」

何故かユウタが渋る。


「うーーーーん…ま、まあ、いつまでも隠せる訳じゃないし…」

何言ってるんだろう…!?


「分かった。ついてこい。お連れさんは…」


「大丈夫。少し休んだら動ける様になったわ…」


カオリと連れ立って、廃墟となった仙台市街地を南へ横切り、長町にある復興村へ入る…それにしても…


色々あったからここへ来てようやく、周りの景色に目をやる余裕が出来てきた。3台スクーターを連れ立って、南へ走る右手から前方にかけて、青々と木々が生い茂る青葉山を見るにつけ、アユムは、


ようやく仙台へ帰ってきたんだという実感がわいてきた…


     ※     ※     ※


「ここだ…」


通されたのは1件の小屋。


「ここがカナコの家か!?」


「いや、俺の家だ。」


え…!?


「ただいまー!!」

ユウタが大声で言い、中に入っていく。アユムとカオリも遠慮がちに中に入ると…



「おかえり…! アユム!!帰ってきたの!?」


一番奥の部屋に、カナコはいた。ベッドの上で上半身を起こし、お腹が大きくふくらんでいた。そして…シーツをかけた下半身の、膝から下にあたる箇所が、ふくらんでいなかった…



「カナコ………」

アユムは一瞬、言葉を失い、

「ど………どうしたの…!?」


言ってアユムはしまったと思った。


が、カナコはさばさばした口調で、


「お腹の子の父親は、間違い無くそこのユウタだ。そして足は…1年前に、な…」


「あれから俺たち、一緒に住む事にしたんだ。俺が外で働くから、こいつに家の事を見てもらって…そしたら、さ…出来たんだ…」


カナコの両手首には、大きなリストバンドが着けられていた。その下に着いている、幾筋もの切り傷を隠すための物だ。その事も、ユウタがカナコと一緒に住み始めた理由なんだろうと、アユムは思った。


「まぁ、あんな大惨事があったんだ。命が助かっただけで儲けものだもんな…私もこの子のためにも生きなきゃって思える様になったよ…」


そう言ってカナコは、お腹を押さえた。


アユムは理解した。ユウタが変わったと思われた理由、台原まで遠出をしてまで働いていた理由を。彼は2人分…いや、3人分の食い扶持を稼がなければいけないのだ…


迂闊だった…北海道からここまで来る途中でも、SWDで身体に障害を負った人を何人も見てきた。それが自身に近しい者にも現れないとは限らなかったのだ…


「アユム…ちょっと…」


ユウタに促されて、アユムとカオリは部屋の外に出る。そしてユウタは真剣な顔で、


「笑わないで聞いてくれ…実は俺、カナの事がずっと好きだったんだ…」


うん…知ってた。


「…でも、それを認めたくなくて、高校で彼女作るって言い出して…そのくせもうワンチャンあるかもと思ってカナと同じ高校受けたり…バカみたいでよな、俺って…」


ユウタ、ウェスターマーク効果って知ってる…!?幼馴染みに異性を感じる事に忌避感を覚えたんだね。


「でも…こうなったからには、カナと添い遂げ、あいつとお腹の子のために、少しでもましな男になってみせるぜ!!」


「そういう事は、2人きりの時に言ってほしかったもんだなー!!」


部屋の中からカナコの声がした。


「カナ…!!き、聞こえてたのかよ!!」


「アユム聞いてくれ。ユータの奴、私が妊娠を告知するまで私のこと好きだって言ってくれなかったんだぜー。」


「ギ…ギリギリ直前だったからセーフだろ!?」


「だめですぅー!!お腹にこの子がいたから2人きりじゃありませーーん!!」


あ………この2人変わってない…


まぁ…ただ惚れた腫れたの関係じゃないのだろう…周りの者のサポートもあれば、彼らなら何があっても乗り越えて行けるだろう…


その輪の中に、自分もこれから入るんだろうか…カオリはそう思った。

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