8ー7 アンタレスの一歩手前で
「僕は行かなきゃ…あいつを…倒さなきゃ…」
もうとうに心は折れていると思われていたアユムの言葉は、意外なものだった。
「だめよ!もう少し寝てなさい!!」
起き上がるアユムを寝床に寝かしつけようとするカオリ。
「離して下さいカオリさん!!」
「だいたい倒すって、どうやって倒すのよ!?あんなバケモノ!!」
「それはこれから考えます。」
この子はどうかしてる…旅を成し遂げられるかどうかの不安を口にしながら、いざ障害が立ちはだかると俄然抵抗する…
「アユム……あのさ、もうやめない、こんな事!?」
カオリは言った。なるべく穏やかに、アユムを刺激しない様に…
「この近くにも復興村があったでしょう!?そこに住み着いて、修理屋でも畑仕事でもして、あたしも手伝うからさ…いつかホワイトドワーフがどこかに行ったら、そしたら仙台へ帰りましょう。あなた1年間待ったんでしょう!?もう何年か待ちましょうよ…」
それは、理性で考えたら至極妥当な意見。だが…
「もう少しなんです。僕たちはようやくここまで来れたんです!!あと少し、ゴールはすぐそこなんです!!」
「あなたにとってはそうかもしれないけど!!」
「カオリさんの故郷だって、あいつを倒さなきゃ探せないんですよ!!」
「だからあきらめるって言ってるでしょう!!」
「あいつさえ倒せば…」
「アユム!!あんた最上さんと戦ってダイダ倒して、天狗になってない!?ホワイトドワーフは、あいつらとは次元が違うの、戦って分かったでしょう!?」
「じゃあカオリさん、ここで待ってて下さい。ホワイトドワーフは、僕だけで倒します。」
カオリの手を振り払って立ち上がり、廃屋を出ていくアユム。
「あなたまで失いたくないの!!」
叫ぶカオリだが、去り際に彼は、
「………カオリさんなら、分かってくれると思いました…」
その言葉の意味に旬重したカオリだったが、入口の扉をくぐろうとするアユムに我に返り、
「アユム…アユムっ!待ちなさい!!!」
※ ※ ※
廃墟となった街の外では、ソラがホワイトドワーフの監視を行っていた。外はすでに夜になっていた…
ソラ機は破損し、ブリスターバッグの中で修理中である。
「強い事は聞かされてたケド…想像以上ヨネ…」
ソラはつぶやく。ホワイトドワーフは、あれから動きが無い。
「アユムクン…結構やる子だケド…所詮は子供だったのカシラ…」
双眼鏡でホワイトドワーフの方を見る。今夜は月が出ているから、闇夜よりは幾分視界が利く。
「元々気が弱い子みたいダカラ、そろそろ心折れてるかもしれないワネ…
一度ダケ、きっかけを与えてみるケド、
引き際を考えた方がいいのカシラ…ワタシも、アナタも…」
「ソラさん!!」「アユム、待ちなさい、待ちなさいってばーー!!」
廃屋の方からアユムとカオリがやって来た。
「アユムクン…起きたノ…!?」
「ソラさん行きましょう。今度こそあいつ倒しましょう!!」「ソラさんごめんなさい。あたし達ここで失礼します。」
…どうやら2人で意思統一が図られていないみたいだ。
「カオリさんはここにいてください。あいつは僕らで倒しますから!!」「ソラさんも言ってやって下さい。私達には無理だって…」
「ま、まぁまぁ2人とも落ち着いテ。そ、そうだアユムクン、お腹すいてナイ!?ご飯!ご飯にしまショウ!!」
2人の剣幕とは不釣り合いの、にこやかな笑みを浮かべてソラはそう言った。
「はぁ〜〜〜っ!?な、何言ってるんですかソラさん!!こんな時に…」
怒り爆発させるカオリとは正反対に、興奮していたアユムの動きが止まった。
「………それだ!ご飯だ………」




