8ー6 アレッツに乗った日
もう、叫ぶのも操縦桿やペダルをガチャガチャやるのも疲れた…
「僕は………仙台へ…帰りたいのに…」
コクピットのアユムは、自身が乗っているプロトアレッツと同じ、膝を抱えた体育座りをしていた。
「頼む…一緒に来てくれよぉ…ここは…北海道は嫌なんだ…」
アユムはポツポツと話し始めた。
「背が低くて、女みたいな名前で、力が弱くて、気が弱くて、ロボットアニメとか星座とか機械いじりとか、他の奴が見向きもしない物が好きで………そんな僕に、周りのやつはいじめの的くらいにしか考えてなくて…」
喋れば喋るほど、嫌な思い出が蘇ってきた…
「ああ、いじめっていうのは…地球人は同族であっても、弱かったり、他の人と違っていたりする者を、攻撃や嘲笑、迫害の対象とするんだよ…お前の世界には、無いといいな…」
背中のコクピットから見えるプロトアレッツの頭は後ろを向いている。どんな顔をして聞いているんだろうと、どうでも良い事を考えた。
「なぁ…お前だって嫌だろう!?こんな所で、一人ぼっちで…お仲間はもうみんな、誰かにもらって行かれて…」
こいつは僕と似ている。アユムは思った。
「でも…こんな僕でも…内地では…仙台では…友達が…出来たんだ…」
アユムはまた喋りだした。今度はさっきよりも明るい口調で…
クラスの七割が女子の高校、ユウタというお調子者、カナコという男勝りの女の子、尊敬できる大人である富士野先生、そして…
1年前の夏の日、
校舎の裏、うだるような暑さ、うるさいくらいの蝉しぐれ、遠くからかすかに聞こえるブラスバンドの練習の音と、体育系部活動のランニングのかけ声、そして…
向かい合う制服を着た男女、
彼女の唇がとある言葉を紡ぐ…
アユムの首から下げられた、きれいな青い石の入った、ピンクのお守り袋…
…
……
「そうだよ…それが、旅の理由だよ…滑稽だろ……笑えよ…『そんな事で』って…」
…僕は何でこんな事話してんだろう…!?
………ィィ…
「………え!?」
ウィィィィィィィ…
コクピットが心地よい振動に包まれ、コンソールパネルが次々と点灯し、意味もわからない宇宙人の言葉が次々と浮かび上がっていく。
「………うそ…」
アユムが乗りこんだ、左右目の色が違うプロトアレッツは、1年ぶりの目覚めを迎えた。
「お前………そうか!!一緒に…一緒に来てくれるのか!!!は…ははは……」
※ ※ ※
十分後…
宇宙船のハッチを取り囲んで、ニヤニヤ笑いながら待っていたバイクの野盗どもは…宇宙船の中からスクーターのエンジン音ではなく、ガチャンガチャンという足音の様な物が聞こえた事に仰天した。段々近づいて来る…そして…
「う わ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !!」
出て来たのは、プロトアレッツに乗ったさっきの小僧!!叫びながら、プロトアレッツの両腕をグルグル回し、こっちへ走って来る!!
「あいつアレッツを手に入れやがった!!」
「何でだ!?ここに残ってたのは欠陥品だけのはずだぞ!!」
「とにかくあいつやべぇ…」
ガチャンガチャン…「わ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !!」
あの拳に釘バットで敵うとは思えない。
「に、逃げろ〜〜〜!!」「今日の所は見逃してやる!!」「覚えてろ!!運のいい奴め!!!」
バイクを走らせて退散する野盗。アユムはまだ、プロトアレッツのコクピットで、「わぁぁぁ!!」と叫びつつ泣いていた。
こうしてアユムは、アレッツ乗りとしての第一歩を歩んだ。
その後の1ヶ月間、彼はインターネットでアレッツ改造サイトを首っ引きで調べ、アレッツの事を学び、何組かのアレッツ野盗を倒してプロトアレッツからアレッツにグロウさせ…その時点で持ってきた食料を全て使い果たし、空きっ腹を抱えてダイダ達に襲われているカオリのいた村へ流れ着いたのだった…
※ ※ ※
「うっ………!!」
アユムは、目が覚めた。この天井は…どこかの廃屋だろうか。
「あ…アユムっ!!」
カオリの声がする。起き上がろうとすると額の濡れタオルがずり落ちた。これ、カオリさんが…
「僕は…どうしてここに…」
「あなたホワイトドワーフにやられたのよ!!それで気を失って…」
そう…だった…
「まだ動いちゃだめよ。それでさ、アユム…」
やんわりとアユムに、この旅をあきらめる様に切り出そうとしたカオリだったが、アユムはずり落ちた濡れタオルを側に置き、
「行かなきゃ………」
「え………!?」
「僕は行かなきゃ………あいつを………倒さなきゃ………」




