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1ー6 をとめの姿 しばし留めむ

翌朝…


修理屋になったアユムが連れて行かれたのは、とある小さな建物。


「ポンプとボイラーですか…確かに大食いですね。おまけに両方とも調子が悪そう…それに、…室と、…室に照明もあった方が…」


「どう…ですか!?」村人たちが不安気にアユムの顔を覗き込む。


「夏はともかく、冬は…暖房も欲しいけど、日射量が減る上、雪と凍結でローターが詰まったり動かなくなったりもするからなぁ…ブツブツ…」


「今、動かせる様にしてもらえれば結構です。」

「冬までに、私達で外に断熱材になる物を貼りますから。」


それならばとアユムはしばらくの間、頭の中でパーツをいじった末に、


「分かりました。なら持ち合わせの物で何とか出来ます。」


「「おぉ!」」


それでは準備しますね。そう言って立ち去るアユムの後ろで、入口広場の方で村人が何やら言っていた。


「なぁー、広場で倒れてたアレッツが、隅で並んで座ってんだけど、誰か動かしたのかー!?」

「わしゃ知らんぞい。誰かやったんじゃないのかー!?」


     ※     ※     ※


それから数日間、アユムの修理屋は順調な滑り出しを見せた。


最初は村の公共施設をいくつか…有線のインターネットが繋がったパソコンを置いた電算室を作り上げた時には村人達から歓声が上がった。…それから、個人のお宅の照明を何軒か…アユムは身を粉にして働き、村人達から感謝された。


2日目の午前…


足りないパーツを取りに街の廃墟に赴くアユム。彼が訪れたのは、100均ショップ跡。ここはDIYの素材には意外と便利な品物が沢山手に入る。


「これと…これと…あ…」


100均ショップのレジがあった辺りに陳列されていたのは、ビニール傘。さすがに100円とはいかないが、こういうのも売られていた。


「………」


アユムはビニール傘の1本を手にとってみる。丸い持ち手の根本を、傘の石づきを上に持って…


(剣…)


それからアユムは、持ち手の端の丸い部分を握って…


(銃…ふふふ…)


誰しも傘を剣なり銃なりに見立てて遊んだ事はあっただろう。アユムは傘を元あった所に戻すと、パーツ漁りに戻った。


     ※     ※     ※


同日、深夜…


「………ん…」


ふと目がさめたカオリ。何やら遠くで変な音がした様な…


「何よ………!?」


カーテンを開けてみると…星明りの下、入口広場の方に巨大な人影があった。広場の隅で座らされている2台のプロトアレッツを、見下ろす様に立つ巨人…


「アレッツ!?…ダイダ!?」


カオリはパジャマの上から一枚羽織ると、物音で起きてしまったおばさんを尻目に、慌てて家の外へ飛び出す。


「ダイダー!!性懲りもなく何しに来たのよーー!!」


叫びながら、急いで入口広場まで駆けていったカオリだったが…着いた頃には3台目のアレッツは消えていた。あったのは隅で体育座りしている2台のプロトアレッツだけ…


「ダイダーーー!!どこ行ったのーー!?」


カオリの大声に村中の家の灯りがともる。


「カオリちゃん…うるさいよ…」「今、何時だと思ってんの!?」

家の中から声だけが出る。


「ダイダがいたのよ!アレッツに乗った!!」


「そんな訳無いでしょ…」「みんな夜は外に出られないの知ってるでしょ…」


そう言えば、ダイダはこれまでにも夜中にやって来た事は無かった。


「…見間違えたのかしら…」


カオリは首を傾げながら家へと引っ込んで行き、窓から見える星空にガタガタ震えているおばさんを見て、慌ててカーテンを閉めた。


     ※     ※     ※


翌日、昼…


食堂でご飯を食べていたアユムに、村人が話しかけてきた。


「なぁ、兄ちゃん…あんた、これからもこの村に住んでくれないかなぁ…」


「へ…!?」


かつて野良仕事についていけず、『しっかりしろ』とアユムを怒鳴った男からの意外な申し出に困惑するアユム。そこへカオリがやって来て、


「おじさんだめでしょう…アユムが困ってる。」


彼は旅の途中でここへ立ち寄っただけなのだ…


「へいへーい…悪かったな、兄ちゃん…」


そう言って男は、食べ終えた食器を片付けて出ていった。


「…ごちそうさま…」


アユムも食べ終えて出ていこうとする。


「アユム…」


その後姿にカオリが声をかける。


「ん…!?」


「な…何でもない。仕事、がんばってね…」


「……ありがとう…」


おじさんの言う事、前向きに考えてみたら…!?


…なんて、言えない。


     ※     ※     ※


翌日、午後…


あの時拾ってきた、壊れたスクーターを、村の広場で修理するアユム。誰かに頼まれた訳ではないが、本当はこういうのの方が好きなのだ。その横を、2人の村人が通りすがった。


「…この2台のアレッツ、どうする!?」


「このままでも邪魔だよなぁ。」


「作業や対野盗に使うとか…!?」


「嫌だよこんなのに乗るなんて…」


「どうするかと言えば…あの2人の野盗、捕まえたはいいがどうする!?」


「強制労働…真面目に働くかなぁ!?」


「だからって…いつまでも無駄飯食わせる余裕も無いしなぁ…」


…2人は、去って行った。続きは明日にしよう。半ば形の出来上がったスクーターにシートをかけ、アユムは工具を片付けて広場を後にした。


     ※     ※     ※


仕事を終え、村の中を歩くアユムに、老人が声をかける。


「おーい修理屋さん…」


「あ、はい…ボイラーとポンプの調子はどうですか!?」


「お陰で順調だよ…」


建物の窓から顔を出す老人は言った。


「お前さんのお陰でみんな助かっとる。特に…ここんところ、暑いからなぁ…」


「ああ…ですねぇ…」


アユムが食堂の次に修理した建物…ボイラーとポンプがある…お風呂だ。と言っても浴槽がある訳では無い。井戸水をポンプで汲み上げ、ボイラーで沸かして、「浴室」には大きなたらいにお湯を張って、タオルをお湯に浸けて身体を拭くだけ。それでもこの様な世の中ではありがたい。冬場は寒くて仕方がないだろうから、暖房も着けたかったが…


「修理屋さんも入って行きなよ。」


そう言う老人に、そういえば汗をかいたなと思ったアユムは、


「じゃあ、いただいて行きます。」


と言って、建物の中に入っていった。老人…番台のいる部屋の隣りが脱衣場、その奥が浴室だ。


脱衣場に入るアユムを見送った老人は、


「はて…何か忘れとる様な…!?」


     ※     ※     ※


脱衣場には2段の脱衣カゴ。アユムはツナギを脱ぎ、首にかけていた物を外し、シャツやら下着やらも脱いで上のカゴに入れ、タオルを持って浴室に入る。



「あ…」「…」



浴室には先客がいた。しかも知った顔だ。大きなたらいの側に横を向いて座り込み、タオルで身体を拭いている、一糸まとわぬ姿の、カオリ…


脱衣カゴは2段。下の段にはカオリの衣服が納められていた。


まず数秒、互いの顔をじーーーっと見つめ、それから2人の視線はゆっくりと下へ移動し…アユムの視線は一旦下まで行った後、もう一度上へ戻ってからまた下に降りた。


更に悪い事に、アユムは浴室内に浴槽が無く、湯気があまり出ない事を知っており、今のアユムはどうせ曇らないからとメガネをかけていた。従って……………全部、見えてしまった。


     ※     ※     ※


番台の老人は、


「あ!思い出した!」


と呟いた次の瞬間…



「キャーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」



というカオリの悲鳴とともに、全裸のアユムが飛び出して来た。


「このっ!痴漢っ!変態っっ!!あっち行け〜〜〜っ!!!!!」


と、中のカオリからツナギやら下着やらを投げつけられ、「ごめんなさいいいいいい〜〜〜!!」と、アユムは前を隠しながら逃げていった。


     ※     ※     ※


浴場では、顔を羞恥で真っ赤に染め、誰もいないのにタオルで前を隠し、半身を脱衣場に出して四つん這いでアユムの衣服を投げつけた体勢のまま、ハァハァと荒い息をするカオリ…


「み………見られた………」


不意に、床に着いたカオリの指がコリっと何かに触れる。拾い上げてみるとそれは、長く丸い紐に結ばれた、ピンク色の小さな袋だった。玩具の様な小さな鍵まで付いている。


「何…これ!?」お守りか何かだろうか…首から下げる形の…


お守り袋を開けてみると、そこに入っていたのは、深く澄んだ青い色をした、石。何種類もの青みの異なる青から出来ており、所々に白い筋が入り、そして全体に、砂金の様な物まで散りばめられている。


まるで夜空の天の川と星の様な…


「きれい……」


不意にそれらが、カオリの手からひったくられる。目の前には、いつの間に戻っていたのか、お守り袋を握った、ものすごい顔をしたアユムがいた。


怒りの形相のアユムと見つめ合う事しばし…自分がまだ裸だと気づいて…


「見るなー!出てけっつってんだろーーーーーー!!」


「はいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


カオリの叫びに再び逃げ出したアユムであった…

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