8ー5 アレッツに会った日
アユムは、夢を、見ていた…
1年ほど前、この地球全土に大きな被害をもたらした、「スペースウォーズ・デイ」。地球周辺に突如現れた宇宙船の船団が、これまた突然大掛かりな砲撃戦を行い、地球全土に未曾有の被害をもたらし、これまたこれまた突然に去って行った。
当時、仙台に住んでいて、お盆休みの帰省で北海道に帰っていたアユムは、SWDによって両親を失った上に仙台に帰れなくなった。
それから1年、彼は仙台に帰ろうと、入念な準備をした。
ジャンクからスクーターをレストアし、必要な物資を集め、食料を貯め、彼が手づから直した頼りなく繋がるインターネットで途中の道のりの情報を集め…念の上に念を入れた準備を行い、出発したのだが…すぐにそれが、何もかもが不足だったと思い知らされた。
2053年8月初旬、北海道、旭川近辺…
ウィィィィィ…ウィィウィィウィィィィィ…
原野に響く4つのエンジン音。
先頭を走るのはアユムのスクーター。
「た…助けて…誰か…!!」
そして…後ろを追いかける3台のバイクには…革ジャンにモヒカンという3人の野盗が分乗していた!!
「へーーへっへっへ!!」「背負ってる荷物を置いて行きな!!」「乗ってるオンボロもな!!」
旅をし始めたばかりのアユムのスクーターは、いきなりこいつらに目をつけられてしまったのだ!!
彼の様な無力な人間は、野盗にとって格好の餌食だった。
バイクの野盗はアイスホッケーの面をかぶったり釘バットで武装したりしている。形から入る連中なのかもしれないが、追われてるアユムにとっては恐怖以外の何者でもなかった。
(な…なんで僕ばっかりこんな目に遭うんだ!?)
中学ではダイダに地獄を見せられ、内地に引っ越して逃れられたと思ったら星が降ってきて世界は壊れ…そして今、ダイダより怖そうな野盗に追われていた。
(くそぅっ…くそぅっっ…!!)
後ろのバイクは徐々にアユムのスクーターと距離を縮めて来ている。こっちはもう法定速度をとうに越えているというのに、向こうは多分、アユムを怖がらせるためにわざとゆっくり追っているのだろう…
(なんで…世の中は、僕に生きにくく出来てるんだ…!!)
もしかしたらアユムはまだ幸運なのかもしれない。今の野盗は、バイクや釘バットより剣呑な凶器を手に入れる機会があるのだ。奴らはそれを持っていないという一点だけでも…慰めにもならないが…
「………っ!!」
不意にアユムは息を呑んだ。眼の前に、銀色に輝く巨大な物体が現れたからだ。後ろのバイク野盗からも嘲笑の声が上がる。
墜落した宇宙船の残骸…アユムはいよいよ追い詰められたのだ。
(もう…ここまで…なのか…こんなところで…)
アユムの視界が涙で滲んだ。
だが…
目の前で段々大きくなっていく宇宙船の残骸は、正面に見える、ハッチと思しき物が開いていた。
(あそこから、中に、入れる…!?)
でも入ってどうする!?どうせ中にあるのは宇宙人の死体くらいだぞ…野盗との追いかけっこが屋外か屋内かの違いに変わるだけだ…
アユムはちらとバックミラーを見る。ノーヘルの野盗どもの下品な笑い…
(捕まりたく…ない…)
アユムはスクーターのアクセルを入れ、そのまま宇宙船のハッチの中に入った。
バイクの野盗たちは、開いているハッチの周りを取り囲むようにバイクを停め、
「どうせいずれ根負けして出て来る。それをゆっくり待とうぜ…へっへっへ…」
※ ※ ※
宇宙船の中に迷い込んだアユムは、そこかしこに転がる宇宙人の死体に、フルフェイスヘルメットのゴーグルを自分の吐瀉物で汚し、嫌な匂いを充満させ、ああ、宇宙人ってやっぱり人なんだと、愚にもつかない事を考えながら…
不意に開けた空間に出た。
「ここ…は…」
そこだけ不思議と、何もなかった。がらんとした空間。ただ1つを除いては…
「ロボット…!?」
全高5mくらいのロボットが、広い空間の片隅で体育座りをしていたのだ。腹に当たる箇所は4本のパイプだけで支えられており、背中にコクピットと思しき箱が着いている。ネットで見たことがある。これは、宇宙人が使っていたとされる人型ロボット兵器…
「アレッツ…」
正確には『プロトアレッツ』と呼ばれる、アレッツの前段階の存在だった。恐らくこの広い空間はこの宇宙船のアレッツの格納庫で、かつては他にもアレッツ…正確にはプロトアレッツが何機かあったのだが、全て誰か…恐らく他の野盗に持ち出されて、この1機だけが残っているのだろう。そして…
残された1機のプロトアレッツは、左右のカメラアイの色が違っていた。左目がグリーン、そして、右目がゴールド。
(何、これ…故障か不良品!?)
いずれにせよ、これのせいで持ち出されていなかったのだろう。
「でも…何だか似てるな…僕と…
野盗にも見向きもされなかったこいつと、クラスで1番背が低くてずっといじめられていた僕と…」
だが…
アユムはふと、思った。
「こいつを動かせたら、表にいる野盗を追っ払えるんじゃないか!?」
それだけじゃない。
「こいつがいたら、僕は仙台までの旅を成し遂げられるんじゃないか!?」
じいちゃんの影響で元々リアルロボットアニメが大好きなアユムだ。こういうのに乗ってみたかったという願望もあった。
「コクピットは背中だな…」
プロトアレッツのあちこちの出っ張りに手をかけ足をかけ、苦労してよじ登ってコクピットに滑り込む。
コクピットには操縦桿とペダル。これで動かすのかな…!?
試しにペダルを押し込んで見る…動かない。操縦桿をひねってみる…反応無し…
(やっぱり不良品か…だから見捨てられてたのか…!?)
もし表の野盗がここまで入ってきたらどうしよう…アユムの芯に冷たいものが走る。
「動けっ!!動けよぉ!!起動!!立て!!ウェイクアップ!!スタート!!ラン!!!」
だが、宇宙から落ちてきた巨人は、びくともしなかった。




