8ー3 アレッツが空を飛んだ日
数分後…
並び立つアユム機とソラ機。アユム機のコクピットは例によって複座で、後ろにカオリが乗っている。
「始めるワヨ。」
「はい…」
ソラ機がゆっくりと浮上し、下半身を下から後ろに回し、魚型に変型する。
「5秒後に走行開始、さらに5秒後にジャンプしてチョウダイ。」
「了解!」
「行くワヨ…ゴー!!」
飛行形態のソラ機が、そのまま前方へ飛んでいく。
「10、9…」
アユムがカウントを始め、ソラ機は大きく右に旋回する。
「7、6…5!」
アユムがペダルを前に押し出し、アユム機はブースターを吹かせてホバリングで走り出す。後ろにまわったソラ機はアユム機を追いかける様に飛んでくる。
「3、2、1………ゼロ!」
アユム機がジャンプし、後ろから飛んで来たソラ機が、たたんでいた両腕を前へ伸ばし、
空中で、アユム機に両腕を伸ばし、手首から細長い部品が伸び、アユム機の両腰に接続される。
「ジョイントロック、完了!!」
アユム機は、巨大な紫の尻尾を生やした様な形となり、
ソラ機の揚力を得て、アユム機は空で戦える様になった。
『アユム機−ソラ機合体形態』
「どうかしら、アユムクン…アユムクン!?カオリサン!!??」
アユムもカオリも、高所恐怖症の気は無い。
そのはずだった。
だが…
人間、見渡す限り視界が開けた空間に放り出されると、
本能的に恐怖を覚える物らしい。
「お、お、お…」
「………」
コクピットでアユムは意味不明な声を漏らし、カオリは声すら出なかった。
「クン…アユムクン!!!」
「「はっ…!!」」
ソラの声にようやく我に返るアユムとカオリ。
しばしの沈黙の後、
「………落ち着いたカシラ!?…で、空を飛んだ感想はドウ!?」
そう言われて2人はようやく、周囲を見渡す余裕が出来た。
眼下に丸く切り取られた大地。
左に山脈、その向こうに海。
右にも山脈、海は遥か彼方。
サブウィンドウに見える後方には、細長く伸びる盆地、これまでアユムが歩んできた長い長い道のり、そして…
前方に平野、そのさらに遥か向こうには、目指す仙台。そしてさらに…
頭上、天を覆う、紺碧の空…
「素晴らしい…です…」
「ワタシの機体は戦闘には向かないケド、空を飛べるカラ、アナタの翼になるワ。」
「翼というより、尻尾ですけどね…」
「いいじゃナイ、魚の尾びれで空を飛んデモ…それはそうと、二人とも……」
「え…」
「来たワ…奴が!!」
空中、遥か前方に見えた点が、
段々大きくなってあっと言う間に人の型になった!!
「ホワイト…ドワーフ…!!」
それは…いや、そいつは、くすんだ銀色に近い灰色をしていた。全高は約7m、アユム機と同じくらいだろうか。
左腕にはシールドと、下腕に直接懸架された、自身の全長の3倍くらいの長銃身のパーティクルキャノン。左肘を曲げて、こちらに向けている。ソラ機のドローンの様に、あれでいきなり撃ってこられなかったのが幸いだった。
右腕にはパーティクルブレード。どうやら剣戟もこなすらしい。
両足は膝下が非常に細い。リアスカートが2本の短い尻尾の様になっており、ソラ機と合体した現在のアユム機と、尻尾は非常に短いが似たような形状となっている。ソラ機と同じく反重力で空を飛んでいるのだろう。
腹部には6本のパイプ。コクピットブロックと思しきものは無い。もちろん背中にも…
そして、頭はレドームを思わせる巨大な円盤型。
「あれが…ホワイトドワーフ…」
「その、1機1種、なんだけどネ…」
「でもなんで『ホワイトドワーフ』なのよ!?白くも小さくもないのに…」
「まぁ、それは追い追い…」
「! 来るワヨ!!」
次の瞬間、ホワイトドワーフの両肩や胸部の装甲が展開し、砲身が露出、また背面から砲塔が伸び、左腕のパーティクルキャノンの砲身が折りたたまれ、
それらが一斉に光を放った!!
ようやく空を飛べたアユム機に向けて!!!




