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インターミッション4 杜の都の 二度目の春の日

2052年 4月…


アユム達が通う、仙台第八高等学校の基となった、仙台第八女子(・・)高等学校だが、『杜の都の婦女子達に烈女(・・)たるに相応しい教育を施す』という教育方針が物語る様に、所謂良妻賢母を育成という、一般的な女子校のそれとは大きく異なっていた。


体育系、格闘技系の部活動が非常に盛んで、もう卒業してしまったが、伝説の助っ人なる人物も存在したらしい。そして…


1年生が2年生に進級した春休みの4月2日に、校外に出て、保護者の承諾を得た希望者にのみ行われるある授業の存在も、この高校の特殊性を物語っていた。そしてその授業は、共学化されてからも引き続き行われていた。


     ※     ※     ※


「…ついに待ってた、この時が来たぜぇぇぇぇぇ!!」


高校近くの某所に現地集合した生徒たちの中で、黒部ユウタのテンションが最大値まで上がっていた。何せ彼女を作るためと、『この授業』を受けるために、第八高校を受けたと公言する彼のことだ。興奮もひとしおだ。


「今日、俺は、大いなる野望の輝かしい第一歩を刻む!!」


「だから…だめなんだって言ったでしょう…」


アユムは呆れてそう言ったが、


「何だよアユム…そりゃお前は向こうで乗ってたらしいけどさぁ…」


「こ…公道には出ていないよ…人聞きの悪い事言わないで!!これでもし、取り消しなんて事になったら…」

慌てるアユム。

「それにしても…ちゃんと勉強して来たんだねぇ…」


アユムは未だに、ユウタの学科試験の採点に大幅なミスがあったのではないかと疑っている。


「おう!このために休み中の授業にも出たし、家でも勉強したんだ!!」


「…その勉強を普段のテストでもすれば…」


「お前なあ…カナみたいな事言うなよ!!」


「…僕はそのカナコにくれぐれもと頼まれてるの。君がバ…変な事しないように見張っててって…」


「今バカって言いかけたろう!?…ったく、カナの奴、俺の母ちゃんのつもりか!?」


「ハハハ…いつか普通二輪取ったら、あの子を乗せてあげるといいよ。」


「な!!何であいつを!?」


「皆さん浮かれすぎてやしませんか!?」

富士野先生が壇上に上がってきた。途端に静まり返る生徒たち。


「皆さん…交通事故というのは、普通に生きてる普通の人間が人殺しになれる、最も簡単な方法です。あなた達が取得した免許は、そういう物なんですよ…」


それから富士野先生は、皆に向き直り、


「私達はこの1年、あなた達をずっと見てきました。その上で、あなた達なら大丈夫と判断しました。ですから皆さん、決して私達の期待を裏切らないで下さいね…」


「「「はい!!!」」」


その返事に富士野先生は、満足気に頷き、


「それでは、今から順に名前を呼びますから、免許証を取りに来て下さい。最後になりましたが、皆さん、合格おめでとうございます。」


富士野先生が生徒の名前を呼ぶ間、アユムが小声でユウタに、


(言っとくけど、二人乗りはだめだからね。)

(分かってるよ…)



仙台は坂の多い街である。高校を卒業した若者の多くが、自動車やバイクに乗る。


従来は『不良の乗り物』というイメージもあり、バイクの免許取得を校則で禁じる高校が主流だったが、『どうせいずれ免許を取るのなら、交通安全教育の一環として学校で教えよう』という事で、この仙台第八高校では、高2に進級する春休みの4月2日…学年全員が16歳(・・・)になった時に行われる特別授業があった。


高校の近くの運転免許センターで、希望者のみに行われる、原付免許の取得講習と学科試験。


     ※     ※     ※


1時間後、運転免許センター前…


「変な顔…」

「そっちこそ…」


ようやく交付してもらった免許証の写真を見て笑い合うユウタとアユム。


「家に帰ったら、スマートフォンに免許証アプリを入れて登録しよう。」


「おう!そしたらスマートフォンを免許証代わりに使えるんだよな!?」


そこへ…


「おーい、お前ら〜〜〜!!」


向こうからポニーテールの小田カナコがやって来た。


「げぇっ!?カナ…お前、免許取らないんじゃなかったのかよ!?」

陸上部のカナコは、運動のため高校では免許を取らない事にしていたのだ。


「何だよその『げぇっ』ってのは…そろそろ終わる頃だろうと思ったから来たんだよ。アユム、合格おめでとう。そしてユータ、春休みはあと5日あるし、夏休みもあるんだからまたがんばれ!」

ユウタの肩にポンと手を置くカナコ。


「なんで俺は落ちる前提なんだよ!!」

叫びながら変な顔の運転免許証を見せるユウタ。


「ユータ…お前…」

カナコはユウタの両方の二の腕を掴み、真面目な顔で、

「いつも言ってたよなぁ。0点取ってもカンニングだけはするなって…」


「実力で受かったわい!!」


もう見慣れた光景に、周囲の帰り途中の仙台八高の生徒達からクスクスと笑い声が起きる。カナコはさすがに気まずくなり、


「…話を戻そう。私がここへ来た理由だけど…これから泉中央駅前のカフェで合格祝いしようかと思って…」


「お!!いいな。アユム、お前も来るよな!?」


「え!?あ、う、うん…」

まさか僕が、『友達とカフェでお茶』する日が来るなんて…


「それで…今日はもう一人呼んであるんだ…おーい、ルリーー!!」

カナコに呼ばれてブレザー制服の女子がやって来る。


「お!!佐藤さん…へへへ…カナ、お前気が利くじゃないか…痛ぇっ!!」


面相を崩したユウタの尻を思いっきりつねるカナコ。ユウタ…1年前そうやって泣かせたの忘れたの…!?そんな2人にアユムはやれやれと思いながら、


「ごめんね佐藤さん。こいつ、基本的に無害だから気にしないで。今日はこれからよろしくね。」


アユムにそう言われて、彼女は緊張気味の笑みを返した。

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