7ー10 戦わなかった 僕も悪かった
殺人をいともたやすく吐きやがった…
「冗談じゃないワ。それジャア、ワタシもアユムクンも、このブサイクのせいで、痛くもない腹を探られたってコトぉ!?」
「渡会君との決闘のつもりが、意外な所から惨殺事件の犯人が見つかったな…」
「次は何が聞きてぇんだぁ!?どこで誰を何人殺ったかだったら、多すぎて覚えてねぇぞぉぉぉぉぉ〜〜〜!!!」
開き直るダイダ。その辺は最上さんが根掘り葉掘り聞いてくれるだろう。だが、アユムの気がかりは他にあった。
「ダイダ…なら僕が聞こう。北海道にいたお前が、どうして内地へ来た!?」
「あ”ぁ”〜〜〜!?それをお前ぇが聞くかぁぁぁぁぁ〜〜〜!?」
ダイダの声が一層低くなる。怒気も混じっているようだ。
それからダイダは短く太い人差し指をビっ、と蒼いアレッツに突き出し、
「渡会ぃぃぃぃぃ〜〜〜お前ぇだよぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!
お前ぇのせいで俺ぁ高校に行けなかったんだぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!
お前ぇが転校していったせいでぇぇぇぇぇ、たかが背中にグラスウール入れて殴った程度でぇぇぇぇぇ〜〜〜!!お前が逃げて行っちまったせいでぇぇぇぇぇ!!!俺の人生は真っ暗になっちまったんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」
まだ残暑厳しい9月だというのに、奥羽山脈の名もない峠は凍りついた。
「ちょっとアユム…グラスウールって聞いてないわよ…」
「渡会君…本当にそんな事されたのか!?」
「ええ…他にもプラモを盗まれて燃やされたり、すれ違っただけで殴られたり…」
「なんだね、その弱者虐待の権化みたいな男は…」
「仰る通り弱者虐待の権化ですよこいつは…」
「ま、いじめられる側にとっていじめる側の人間は、みんなそういう風に見えるんショーけどね…」
「うるるっせぇぇぇぇぇ!!俺が半々グレになったのもぉぉぉぉぉ、アレッツ乗りの野盗になったのもぉぉぉぉぉ、全部、ぜんぶ、お前ぇのせいだぁぁぁぁぁ!!!!!
だかるるぁ俺はこっちへ来たんだよぉぉぉぉぉ!!!渡会、俺の人生をブッ壊したお前ぇをいじめ壊すためになぁぁぁぁぁ!!」
周囲を7体のアレッツに取り囲まれた絶体絶命の状況で、なおも叫ぶダイダ。
(こんな男とずっと一緒だったのか…渡会君が歪む訳だ…)
エイジは思った。
再び冷えてく空気にアユムは、はぁー、とため息をついて、
「じゃあ聞くけどさ、グラスウール事件、あれが起きたのは僕の転校の前、というか、転校の原因そのものだよな!?」
「はぁ〜〜〜!?それがどうしたぁぁぁぁぁ!?」
「つまりお前は最初から邪悪で最悪な奴だった。お前の転落は僕の転校のせいじゃない!!」
「口答えすんな渡会!!全部お前が我慢すれば良かったんじゃねぇか!!」
「我慢して我慢して、それでお前にいじめ殺されるか、あるいは自殺でもしたかもな。」
「あ…アユム…」「渡会君…」「アユムクン…」「ショーネン…」
アユムの悲痛な声。だがダイダは、
「はぁぁ〜〜〜!?何言ってるるんだぁ!?たかがいじめぐれぇで…」
「いいや、あの頃の僕の精神状態だったら、しただろうね。それに、普通に生きてる普通の人間が人殺しになれる一番簡単な方法が、交通事故といじめだ。お前は少年院にでも入れられて、死んだ僕の事を一層恨むようになっただろうな。」
「だまるるぇ渡会!!弱ぇお前ぇが口答えすんな!!」
「弱いですってェ!?ついさっきまで、プロの軍人とバチボコに戦ってたアユムクンを…!?」
ソラが口を挟むと、
「そうだぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!俺ぁ強ぇんだぁぁぁぁぁ〜〜〜!!強ぇ奴ぁ何したっていいんだぁぁぁぁぁ〜〜〜!!弱ぇ奴は何されても文句言えねぇんだぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!!」
なおも叫ぶダイダ。日本語に似ているだけの、単なる獣の遠吠えだった。
「大体よぉぉぉぉぉ、SWDで世の中は弱肉強食の世界になっちまったんだぁぁぁぁぁ〜〜〜!!渡会ぃぃぃぃぃ、手前みてぇな何も出来ねぇ弱っちい奴には、生きてく資格なんか無ぇんだよぉぉぉぉぉ〜〜〜!!せいぜいで、俺のおもちゃとして、蹴られて、小突かれて、殴られて、いい声で泣いて、ブッ壊れるまで俺の憂さ晴らしの道具になるくれぇしかぬぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!グェーーーーーッハッハッハ!!!!!」
「何も…出来ない!?この渡会君が!?」
今は四輪駆動車の荷物の中に入っている、アユムが直した目覚まし時計。あれからも正確に時を刻み続けて、エイジも愛用している。シノブには冷やかされてるが…それにこの子は各地でバグダッド電池を修理して回って、エイジ隊よりよほど感謝されている。そんなアユムを、何も出来ない…!?
「生きて行く資格がどうこう言うなら、このダイダという男の方が、よっぽど世の中の害悪なんじゃないか!?」
エイジがぽつりと言った。
そして…
アユムは思い出していた。北海道での中学までの日々を…
ダイダに目をつけられ、すれ違っただけで殴られ、星座の趣味をバカにされ、折角作ったプラモを燃やされ、挙げ句にクラス総出でグラスウールを背中に入れられて叩かれ…その度に泣き、わめき、叫び…ただそれだけで、両親がそれまでの暮らしを手放して転校するまで………何もしなかった日々…
「………最上さん…」
不意にアユムが、冷めた声で言った。
「…さっきあなたが言った、いじめと闘う事の違い、少しだけ分かった様な気がします。」
それを聞いたシノブが、ニっ、と笑って、
「最上タイチョー、我々エイジ隊には、子供のいじめの問題に介入する余裕はゴザーマセン。」
エイジはそれを聞いて、
「聞いた通りだ、渡会君、この問題は、君たちで解決したまえ。」
通信の向こうの最上さんは、多分微笑んでたと思う。
「最上さん…分かりました。カオリさん、行きますよ!!」
「あいよ!!」
アユム機の左右色違いのカメラアイがギン!と輝く。
「ヒャァァァァァッハッハッハ!!」
狂ったような耳障りな笑い声を上げ、自機のコクピットへ消えていくダイダ。そしてダイダ機の単眼のカメラアイがギン!と輝き、
「渡会〜〜〜!!お前見捨てられたなぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」
ダイダ機がどす黒い赤色の右腕を振り上げ…
ヒュン!
次の瞬間、一筋の光の線が煌めくと、ダイダ機の右手首が消え、
足元に赤黒い塊が転がった。
「グェ…!?」
ダイダ以外のそこにいた全員が理解していた。
『見捨てられた』のは、ダイダの方だという事を…




