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7ー8 人の顔した 鬼畜の誕生

そいつは、同年代の誰よりも体が大きく、力が強かった。


そいつにとって世界は単純だった。強い奴は何をしてもよく、弱い奴は何をされても文句が言えない。そしてそいつは誰よりも強く、規則も道徳も、拳と蹴りでねじ伏せ、いつしか弱い奴を暴力でいたぶる事に快楽覚える様になった。『ら行』にほぼ必ず巻き舌を入れる口癖も、周囲を威圧するのに充分だった。道理の通じない人のカタチをしたケモノに、親も学校も手が出せなかった。人はそいつを、『タイタン』や『ダイダラボッチ』から、


『ダイダ』、と呼んだ。


ダイダには渡会アユムという同級生がいた。体が小さく力が弱く気が弱く、男のくせに星やらプラモやらが好きな変な奴。そいつを殴ったり蹴ったりすると泣きわめき、ダイダの胸はスっとした。格好のおもちゃを手に入れて満足した様に見えたダイダに、学校はその小さく哀れな生け贄をダイダに差し出し、見てみぬふりをした。クラス全員を巻き込んで、渡会の背中に理科の実験で使うグラスウールを突っ込んで叩いてやった時は本当に愉快だった。そして…


     ※     ※     ※


謹慎が解けてダイダが久しぶりに学校へ来てみると、


教室の真ん中には、ポツンと主のいない席。


「グェーーーッハッハッハ!!渡会(わたるるぁい)!!あの弱虫がぁ!!あのバカヤローがぁ!!転校しやがったぜぇぇ!!ざまぁぁぁ見るるぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!!!!!」


さも愉快そうに爆笑するダイダを、クラスメート達は遠巻きに恐れるように見つめていた。ダイダがギロリと睨むと、そいつらも引くように更に距離を開けた。


「次のおもちゃは首でも吊ってもるるぁおうかなぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!?」


ダイダは、中学校の暴君となった。廊下を彼が通ると誰もが道を開けた。


     ※     ※     ※


半年後…


中学を卒業したダイダは、半グレからスカウトを受け、半々グレになった。仕事は借金や『警護料』の取り立て。支払いを渋る奴は力でブチのめした。好きなだけ暴力が振るえて金が取れる、天職だった。


「グェーーーーーッハッハッハ!!!!!」



     ※     ※     ※


1年後…


スペースウォーズ・デイ勃発。


警察も社会もブッ壊れ、世界は力が支配する世の中になった。


アレッツというロボットを駆る野盗となったダイダは、手下を従えて周囲の村々から食料や様々な物を奪い、やりたい放題だった。


そして…


     ※     ※     ※


「ぜぇ…はぁ…ぜぇ……はぁ………」


函館の海賊のアジトで、ダイダは四つん這いになって荒い息を吐いていた。彼の隣には同じく四つん這いになった彼のアレッツ。全身ずぶ濡れでエネルギー切れとなっている。


「海底ケーブルを伝って戻ってきたんだって…」

「海を渡ろうとするアレッツを追っかけて、陸上型で海底を走ったんだって!?バカだねぇ…」


周囲の海賊どもがダイダを蔑む目で見つめていた。奴らの声を聞きながら、ダイダは思った。


おるるぇぁ、どうしてこうなった…!?)


     ※     ※     ※


アレッツ乗りになっていたアユムを追いかけて海に…俺は海賊の客分になっていた。新しく手に入れたアレッツを強化するために、それまでの子分を殺して経験値にした。そもそも新しい機体を手に入れる必要になったのは、これまで乗ってた機体を、アユム機に壊されたからだ…


(アレッツ…おるるぇぁ、何でアレッツ乗りになった!?)


     ※     ※     ※


1年前…


夜空から星が降ってきて、街も寝ぐらも燃えて灰になった。半グレの親分も、寝ぐらと一緒に燃えた。命からがら悲鳴を上げて逃げ惑うダイダの頭上に、容赦なく星は降り注いだ。どこだか分からない汚い場所に逃げ込み、膝抱えてガクガク振るえる日々を過ごし…空きっ腹を満たすためにダイダは暴力で無辜の民から食料を奪った。


(半グレの…親分…)


     ※     ※     ※


そこから半年前…


半々グレになったダイダだったが、回収してきた金は右から左に半グレの親分に取り上げられ、駄賃としてダイダの手元に残ったのは雀の涙のはした金…


「………んあ”!?何か言いてぇ事あんのか!?」


半グレの親分が斜め下からダイダを睨みつけた。


「ぐ…グェヘヘヘヘ…」

いつかコロす、心の中で思いながら、ダイダは愛想笑いを作った。が…


「おいダイダ!!」

不意に立ち上がった半グレの親分は、ダイダの首根っこを掴み上げ、面を引き寄せ、睨みつけた。


「前にも言ったろう!今度その気色悪い笑い方したらブッ殺すって!!」


「へ…へぇ…」


噂だと本当に人を殺して臭い飯を食ってた事があるらしい親分に、ダイダは本能で敵わない物を感じていた。


「チっ…腕っぷししか能のない使えねぇ奴…」


親分はダイダを離し、放り出すと、座ってた椅子に座り直す。


締められていた首が放され、ゲホゲホと咳をするダイダに、親分は、



「言っとくがなぁ、今のお前はまだマシだぜぇ。


俺を見てみろ。今じゃ半グレはスマホもカードもろくに作れねぇ。


どうせこれから法律ももっと厳しくなるから、手前ら半々グレもいずれそうなるぜぇ。」



それじゃあ今のままでも成り上がってもお先真っ暗じゃねぇか…


おるるぇぁ、何で半々グレになった…!?)


     ※     ※     ※


そこから更に半年前…


年が明けて中学最後の年、つるんでいた奴らの中にも受験がどうの言い出す者が出てきてそろそろ己の卒業後の身の振り方が気になったダイダが、これまでずっとブッチして来た進路相談に顔を出した所…


おるるぇぁ、高校に行けない…!?」


ダイダが出席するなんて思ってもいなかった担任の女教師は、


「だ………だって…あなたのせいで、渡会君は転校したでしょう!?」


実際はダイダは成績も素行も最悪で、アユムの転校はとどめの一撃に過ぎなかったが…『立派な教育者』だった女教師は、転校していったアユムに、全てを負い被せた。


「………チっ…!!」


ポケットに両手を突っ込んで、面白くなさそうにノシノシと教室を出ていくダイダの背後で、女教師のほっと胸をなでおろす声が聞こえた。


こうして高校へ行けなかったダイダは、中学卒業後、かねてから声がかかっていた半グレの親分の下、半々グレになった。


(渡会…)


     ※     ※     ※


そこから更に3ヶ月前…


『グラスウール事件』の謹慎が解け、ダイダが久しぶりに中学校へ登校したが、


「よう、お前るるぁ…」


「あ…ダイダさん…」「ど…ども…」


ダイダが声をかけたクラスメートは、彼を見留めると向こうへ行ってしまった。


「おい…」


誰に話しかけても無言でどこかへ行ってしまう。廊下を歩くと彼を避けるように生徒たちも教師も引いていった。


そしてたどり着いた教室の真ん中には、ポツンと空席。


ヒソヒソ…「渡会君、転校しちゃったんだって…」


ヒソヒソ…「ダイダにいじめられたせいだろう、かわいそうに…」


ヒソヒソ…「いや、俺が聞いた話なんだけど、渡会は転校したんじゃなく、ダイダに殺されて遺体をどこかに埋められて、警察もあいつを恐れて捜査してないんだって…」


「違っ…!!」

ダイダが噂する男子生徒に手を伸ばそうとすると、


「ヒっ!ヒぃぃぃぃぃ〜〜〜っ!!」

彼は身を捩って悲鳴を上げた。

「わ〜〜〜っ」「キャーーーっ!!」

パニックになる教室。


………あー…言い訳するのも面倒くせぇ………


ダイダはさも愉快そうに、



「グェーーーッハッハッハ!!渡会(わたるるぁい)!!あの弱虫がぁ!!あのバカヤローがぁ!!転校しやがったぜぇぇ!!ざまぁぁぁ見るるぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!!!!!」


それからダイダは周囲をギロリと見回して、


「次のおもちゃは首でも吊ってもるるぁおうかなぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!?」



そしておるるぇは、いじめっ子になった。


     ※     ※     ※


時間は再び戻る。函館の海賊のアジト…


四つん這いで大息ついているダイダに、海賊の頭が言った。


「なぁ客人…悪いがうちを抜けてもらえねぇか!?

お前さっき、アレッツのマテリアル稼ぎのために仲間を殺したって言ってたよなぁ…

そんな危なっかしい奴を、うちに置いちゃおけねぇ…」


そんな言葉は、ダイダの耳には入っていなかった。



渡会(わたるるぁい)…結局あいつか…あいつのせいか…)



「大体お前バカか!?勝手に飛び出して、陸戦用のアレッツで溺れかけて…」


無反応のダイダの肩を、海賊頭は掴む。


「おい聞いてんのか!?うちはお前みたいな弱いやつ要らないって言ってんだよ!!」


「弱いぃぃぃ!?」

ダイダは海賊頭の腕を払うと、ゆっくりと立ち上がる。


「お…おう…動けんだったらさっさと…ぐぇっ!!」ボコっ!!


ダイダは無言で海賊頭の顔面に拳をめりこませていた。なおも2発、3発…


「ひぃぃ…」「か…頭ぁ…」


血の入った頭陀袋になっていくかしらに、悲鳴を上げる海賊ども。やがて完全に事切れたかしらを放り出すと、ダイダは標的を手下どもに向ける。


「子分(こるるぉ)したぐれぇ何だぁぁぁぁぁ~~~~~!?おるるぇぁ中坊ん時、同級生(こるるぉ)してんだぁぁぁぁぁ~~~~~!!」


海賊のアジトには十数分に渡り殴打の音と骨が砕け血肉が飛び散る音と海賊どもの悲鳴が鳴り響き、やがて…


天井から吊り下げられたランタンが照らすのは、一面の血の海と海賊だった者たちの遺体の中に、両腕を血で真っ赤に染めて立つダイダ…



おるるぇぁ弱くねぇ、強ぇんだ…強ぇ奴ぁ何したっていいんだぁ…」



それからダイダは、海賊の遺体からブリスターバッグを全部取り上げると、アジトを後にした。


いつの間にか夜は明け、朝になっていた。これを幸いに海に出て、海賊から取り上げた魚型可変アレッツを1機取り出し、海の向こう、本州と思しき陸地へ向かってアレッツを発進させた。やがてエネルギーが尽きると、もう1機を取り出して海に浮かべ、そっちに乗り移って元乗っていた機体は乗り捨て、再び南へ…

こうして、エネルギーが切れるごとに機体を次々と乗り継ぎ乗り捨て、本人も知らないうちに津軽半島を右手に見ながら陸奥湾の奥へと入り、たどり着いたのは青森の市街地跡。


目立つ三角ピラミッドビルを見ると、ああいう所に野盗はアジトを作っていると目星をつけ、侵入。案の定そこに巣食っていた野盗どもを殴り殺すと、彼らのアレッツを全て奪い、その中で一番強そうな機体を自分のものとする。


「んあ…!?」


ブリスターバッグの取っ手を握る手がヌルリと滑った。よく見るとダイダの両手は真っ赤に染まっていた。函館の海賊や青森の野盗を殴った際に着いた血糊だ。


(そう言えば渡会…アレッツの色を変えてたな…)


ブリスターバッグのカラーエディットの機能を開き、機体の色を変えていく。両腕…左腕と、右腕の肘から下を、どす黒い赤色に塗装、他は面倒なので真っ黒に。


「グェフフフフ…手は血まみれ…ってかぁ!!」


そして新たなダイダ機は、両腕を広げて吠えるように天を仰ぎ、


渡会(わたるるぁい)ぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜!!いじめ壊してやるるぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!!!」

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