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7ー7 激闘 アユム対エイジ

アユム機はエイジ機に距離を詰めて行き、そして…


『アンブレラ・ウェポン』をブレードモードに持ち直し、エイジ機に振り下ろす。


「銃でだめなら剣かね…」


エイジ機はそれを難なく躱すが次の瞬間、アユムの両刃の(・・・)『アンブレラ・ウェポン』は上に振り上げられており、エイジ機の左腕をやや掠めた。


「え…!?」


本能的にエイジ機は右に避けると、さっきまで立っていた場所にいつの間にか『アンブレラ・ウェポン』が振り下ろされていたと思ったら右に横薙ぎと思ったら斬り下ろし斬り上げ横薙ぎ…エイジ機も間一髪で避けたがさすがに胸や肩、腕に斬り跡がついていく。


(み…見えないっ!!攻撃から次の攻撃に移るタイミングが!!)


盛岡の城攻めでもそうだった。この機体の剣筋は、読めない…っ!!


     ※     ※     ※


アユム機のコクピット…


「ねぇアユム…本当にこの名前、変えないの!?」


「えー、どうしてですか!?」


「恥ずかしい!!」


「でもこの名前が、『これ』の何たるかを最も適切に示してますよ。」


カオリのオペレータ席のサブコンソールの一つには、こう表示されていた。


”Blade Motion: Kaori Motion Ver.3.1415”


様々な格闘技に通じていると思しきカオリの剣戟モーションをアレッツのモーションに取り入れたのだ。ほとんどのアレッツ乗りがデフォルトのモーションを使っているーモーションを一から作るなんて面倒なことはまずしないーので、これをデフォルトから変えるだけで、相手は戦いにくくなる。ましてやモーションの基になっているのは、『吹く風の如く、流れる水の如く』自然な動きで振り下ろしから次の攻撃に移る、無銘の剣豪カオリのものだ。これによってアユム機は、剣の達人の挙動を手に入れた。モーションの名前に自分の名前を使われて、当の剣豪殿はたいそう恥ずかしがっている様だが…


スマートフォンでキャプチャしたカオリの動きを基に、暇を見つけては数値調整を行った。特にキャプチャ元のカオリの体格の特徴故に、調整には手間取った。2度目の大型アップデートでVer.3となって以降は、バージョン番号を3.14…と、一桁ずつ円周率に近づけて行くことにした。まあ、パイのせいで苦労したのだからしょうがない。そして、この『カオリモーション』に対応するために、アンブレラ・ウェポンの刀身を伸ばし、峰に当たる部分にも刃を着けた両刃の物を新造した。


ブ ン !


不意に何かがエイジ機から飛んで来た。カオリモーションの流れる様な剣筋で斬り落とそうとして…


「………っ!!」


寸出の所で止めた。飛んで来たのはエイジ機の脚。蹴りを入れて来たのだ。


「そうだよな。斬れないよな、ジェネレータの入ってる脚は!!」


ガン!「ぐあぁ!!」


エイジ機に蹴られてよろけるアユム機。


「学生がぁ!プロにぃ!!!」

コクピットの中で吠えるエイジ。パーティクルキャノンを照射!!タタタ…!アユム機の左手の小型盾で受けたが、盾はひしゃげていくつもの弾痕が着いた。


「ぐ…っ!!さすがSR(スーパーレア)だ…一撃が重い。」

「文字通り、格が違うわね…」

ソフトウェアを強化したアユム機だが、元々ハードウェアはエイジ機が上だ。だが…


元々無謀な旅、無謀な戦いだったんだ。


「指先に触れた物、全てを手に入れる!!」


アユム機はボロボロになった小型盾を外して放り捨て、エイジ機に投げつける!!


「ぐっ!!」

一瞬の怯みを逃さなかった。


「カオリさん、手数で翻弄します!!」

「分かった。あんたは攻撃に専念して!!」


予備に取っておいたもう一振りのアンブレラウェポンを左手に持ち、連射しながら突進!


「悪あがきを…」


連射はいつしか突きに変わる。エイジ機もアンブレラ・ウェポン(ショート)を抜いて応戦するがアユム機はそれを避けつつ斬り連射更に横切り避け単射右に左に…


(二人がかりの操縦か…カオリ君は単なるオペレータでは無いのか!?役割を柔軟に変えられる…!?)

「渡会君…これはやっぱり、あの時撃っておくべきだったかな…!?」


視界の隅で、周囲を取り巻く5体のアレッツ。副官機が何かチカチカと光っている。


(……)


アユム機の猛攻にエイジ機は防戦一方となる。


「ぐ…ぐぉ…」

ダメージを蓄積しながら、コクピットのエイジは必死にコンソールを操作する。だが、エイジ機は徐々に追い詰められ、副官機の側まで後退…その時、


「え…!?」「久野さん!?」


副官機の腹のコクピットから、シノブが出てきて、接近してきたエイジ機に飛び乗り、コクピットに消え、


ギン!「ぐっ!!」

エイジ機はアユム機の斬撃をアンブレラ・ウェポンで受け止める。


「ショーネン…アーシぁ確かに戦えとは言いやしたが…」


エイジ機から女の声がする。


「アーシぁこの男を殺られる訳にゃあいかんのですよ!!」


エイジ機のコクピットはさっきの操作で複座型に改造され、エイジの後ろ上方にはシノブが座っていた。


「久野さん…」

いきなり乱入してきたシノブに呆然とするカオリの前下方のパイロットシートで、アユムが、



「…好きなの!?」



余計な一言を言った。


「何を言ってるんだ!?久野君は我が隊のオペレータ…」

そう言うエイジの後ろ上方で、ボン!という異音がする。


「ん!?どうしたんだね久野君…」

後ろをむこうとするエイジに、


「わわわっ!!タイチョーこっち見んな!!前向け!!!」

真っ赤になった顔を左手で隠し右手をシッシッ!と動かすシノブ。


「うむ…済まなかったな。戦闘に集中しなければ…」


エイジ機内のゴタゴタを唖然と見つめてたアユムとカオリの前に、巨大なウィンドウが唐突に広がり、牛乳瓶メガネのシノブの顔のどアップが映る。


「いいかショーネン…よぅく覚えとけ…」

女神モードとも人を食った態度とも異質な焦り。


「大人はなぁ…子供が思ってる程、大人じゃネーーんだヨ!!!」


「は…はぁ…」「気をつけます…」


言いたい事を言うとウィンドウは消えた。


「と…とにかくこれで、条件は五分だ。」

その場を取り繕う様にエイジが言う。

「た…タイチョー…アーシもあのガキをギッタギタにしてやりやす…」

オペレータ席でまだ興奮しているシノブ。



「戦闘再開と行こうか!!」


「はい!!」



それから、先程までとは比べ物にならない程の、複雑かつ高度なアレッツ戦が繰り広げられ、奥羽山脈に開いた峠には幾筋もの蒼と緑の軌跡が描かれた。そんな光景を…



戦場を見上げる山の中腹に、隠れる様に座り込む、1機のアレッツが見つめていた。


全身真っ黒だが、左腕と、右腕の肘から先を、どす黒い赤に塗装され、カメラアイは単眼。座ったまま、両手にはロングバレルのパーティクル・キャノンを、眼下の2機へ向けて構えている。


コクピット内のパイロットは、そんな光景を嘲るかの様に口元を歪ませ、


操縦桿のトリガーに指をかけ…



タァァーーーン!! タァァーーーン!!

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