7ー3 山間の峠で 待ち合わせ
エイジやシノブと分かれた後、古城跡を降りたアユムとカオリは、そのまま武家屋敷通りを南下してみちのくの小京都と呼ばれた街を出ていった。横手盆地へ入って南下し続け、その中途から再び東進、奥羽山脈を越えて岩手県側に戻ろうとした。その途中…
人気のない峠でスクーターを停める2人。
「確かここだな…あ!」
山の向こうから紫色の巨大な魚が空を飛んできた。アユムが手を降ると、それはゆっくりと降りながら、後ろの胴体と尾びれの部分を下へ下ろし、人型になって着地した。
飛行可変アレッツ。出て来たパイロットは…
「やっほー、アユムクン!」
網木ソラだ。
「お久しぶりです。」「こ…こんにちは…」
「元気だった!?そっちも色々あってみたいだけド…」
「え…ええ、まぁ…」色々ありすぎた。
「これ…頼まれてた物です。」
そう言ってアユムが取り出したのは、風車と太陽光パネルをケーブルで接続した物体、それが2セットずつ。
「アリガトウ!!作ってくれたのネ、バグダッド電池!!」
以前からソラさんにメールで依頼されていた、バグダッド電池。盛岡を出る時に1セット追加されたから、合計2セット。その1台に頬ずりした後、アユムに抱きついて頬にキスしようとするのを、カオリが無理やり引き剥がす。
「あなたってすごいのネ!あ、そうそう、これ報酬ヨ!!」
そう言ってソラはブリスターバッグから報酬として大量の食料を取り出す。
「ありがとうございます。助かります…」
そう言いながら、食料を自身のブリスターバッグにしまうアユム。
「こちらこそ助かったワ…それはそうとアユムクン、あなた…」それからソラは声を潜め、
「………尾行られたワネ。」
言われて慌てて後ろを振り向くアユムとカオリ。ソラが「出てらっしゃーーい!!」と叫ぶと、岩陰から出てきたのは、迷彩服を着た6人の男女。
「最上さん…」「久野さん…ついて着てたんですか!?」
エイジが一歩前へ出ると、
「非礼はお詫びしよう。だが…君は誰だね!?」
ソラをきっと睨む。
「ワタシは網木ソラ。愛と美と正義のアレッツ乗りヨ!!」
芝居がかった口調とポーズで答えるソラ。
「ソラさん、この人そういうノリは通じません…」
一瞬面食らったエイジだったが、
「お前は弘前城にもいた、あの空飛ぶアレッツのパイロットだな!?」
「アナタは緑のアレッツのパイロットネ。非礼というなら今度はそっちが名乗りなさいヨ。」
「私は…」「ハイハーーーイ!アーシは愛と美と専守防衛のエイジ隊隊員、久野シノブでーーーーっす!!!」
「ああ…こういう人が2人いると話しがややこしくなる…」
エイジを押しのけて横から割り込んできたシノブにアユムは頭を抱えた。エイジはシノブを押し返すと、
「こほん…嘘がつけない渡会君の反応に怪しい物があったので尾行してみたら案の定だ。君、推定身長190cm、体つきも筋肉質。そして…あの頃、青森近辺にいたね!?旧青森市街地の野盗が惨殺され、アレッツが盗まれた事件について心当たりは無いかね!?」
「最上さん…」
そう。青森の野盗惨殺の容疑者に、アユムとカオリは心当たりがあった。ソラだ。この人の体格が、エイジから伝えられた犯人のプロフィールとぴったりだったのだ。が…ソラは表情を一切変えず、
「何の事か、分からないワネ…ワタシを疑ってるならお門違いヨ。」
「おまけに野盗が惨殺された前後、海を南下する巨大な魚みたいな物が、陸奥湾沿岸で目撃されてるっス。アータのアレッツも魚型っスよね!?」
この話は、津軽半島の温泉の住人達も噂しており、アユム達も『ソラさんの機体に似てるな』と思っていた。
「魚型は海賊の御用達って聞いたワ…」
「言いたい事があるならじっくり聞こうじゃないか。一緒に来てもらおう…」
エイジはソラに手を伸ばす…が、
「はぁー!?あんたに何の権限があるのよ!!」
ソラはその手を振り払う。
「うるさい!!我々は公僕だ!!一年前に星さえ降らなければ…」
「………っ!!」
エイジの叫びに、ソラは顔色を失い、振り上げた腕を力無く下ろす。
「観念したか…よし…」
しかし、エイジの手は、再び振り払われた。
「アユム!?」「渡会君!?」「アユムクン!?」
エイジとソラの間に、アユムが割って入った。
奇妙な光景だった。2m近い巨人をかばうように、遥かに背の低い少年が、これまた彼より背の高い迷彩服の男の前に立ちはだかっていたのだ。
「何の真似だね、渡会君!?そこをどきたまえ!!」
「ソラさんは、犯人じゃありません!!」
アユムは、ソラをかばった。




