7ー1 荒城より 小京都を眺む
盛岡を後にしたアユムとカオリは、奥羽山脈を越え、田沢湖の南岸を西に進み、たどりついたのは『みちのくの小京都』と呼ばれる古い街…
アユムはそこで数日間、修理屋の仕事をしながら、暇をみつけてはカオリとともに街を回ったが、板塀に木々が生い茂る武家屋敷が並ぶ街道を歩いても、彼女の感想は『こういう所も風情があっていいわね…』だった。
明日、いよいよ街を発とうということになった午後…
二人は街の北にある小高い山の頂上にいた。
途中の車止めを失敬して乗り越え、うねうねと曲がりくねる道をスクーターで登り、たどり着いたのは石碑が残る広場。9月でまだ残暑が厳しい中、SWD後の混乱未だ尾を引く中手入れする者はおらず草は生い茂り、南には小京都の街が見える。
「どう…ですか!?」
おずおずと尋ねるアユムに、カオリも、
「うん…違うと思う…」
気まずい沈黙が二人の間に流れる。そこへ…
「…なるほど…これは訓練になるな…」「タイチョーも素っ気無いっスね…古城巡り、城跡巡りって言って、こういうのをやるマニアもいたらしいっスよ…」
男女の声がした。聞き覚えのある…そして、下からほぼまっすぐ伸びている遊歩道を登って、現れたのは、迷彩服を着た男女。
「あ…」「久野さんと…最上さん…」
「君たち…」「やっほー…」
『エイジ隊』の最上エイジ隊長と、久野シノブだった。
更に気まずい雰囲気の中、アユムとカオリの隣に立って眼下の町並みを見下ろすエイジと、登り疲れたかの様に「うーん…」と伸びをするシノブ。
(登山口に停まってた四輪駆動車…やっぱりこの人達だったか…)
「あ、そうだ…」
そう言ってエイジは『ブリスターバッグ』から何かを取り出し、
「目覚まし時計の修理費用がまだだったな…これでいいか!?」
アユム達に差し出したのは、小さな平たい箱が2つ。
「これは…レトルトのカレー!?しかも、艦ごとに特有のレシピがあるっていうあの…」
「すごい!このご時世には貴重品じゃないんですか!?」
アユムとカオリが途端に色めき出す。
「ていうか、最上さん、陸じゃなくて海の方の人だったんですか…!?」
「私の秘蔵品だ。まぁ、喜んでもらって何よりだ。それにしても君たち…どうしてこんな所にいるんだね!?」
「そんな事、あなた達には関係…」
言いかけたアユムの二の腕をカオリがちょんちょんと引っ張り、カオリはこくりと頷く。それから彼女は、エイジとシノブに、
「あたし…SWDのトラウマで記憶喪失で、自分の故郷を探してアユムに連いて旅をしてるんです。」
「それは…また大変…と言うのは不謹慎かな…」
アユムが盛岡の街を去り際に言ってた、『カオリさんの話を聞いてあげて、目的を叶えてあげて下さい』というのは、こういう意味だったのか…
「おぼろげに覚えているのは、『山があって川があって、碁盤の目の様な街があって、お城がある』だったんです。」
「それで君たちは、あちこちの城に巣食う野盗を退治してたのか…」
「ええ…ここも小京都だから何か手がかりがあるかと思ってやって来て、街の人から、『この街の北の小高い山に城跡がある』と聞いて登ってきたんです。」
二人で歩いた武家屋敷通りも、ここからよく見える。かつてはあの通りは、この城があった場所まで伸びていたのかもしれない。だが…
「ここの城は、江戸時代初期にはもう廃城になってたらしいっスよ…」
元々山城だった事もあり、所謂天守閣は元から無かったのだろう。加えて先にシノブが述べた理由から、ここには石碑くらいしか、かつて城だった跡は残っていなかった。
「これでは『街にお城がある』という印象にはならないんじゃないのか!?」
「ええ…僕もそう思いました。」
「もっと南の…関東とか中部とか、そういう所から来たのではないのか!?」
「でもカオリさんは、青函トンネルを北海道新幹線で渡ってたんです。そこまで遠くじゃないかと…」
「うーん…天守閣が現存するお城って、東北にはあんまり無いんスよ…ショーネン達と初めて会った弘前城以外だと…福島の鶴ヶ城くらいしか…」
だとしたらカオリの旅は長い物になりそうだ…
「やっぱりそうですか…色々教えていただいて、ありがとうございます…」
こういう時、やっぱり大人は頼りになる…
「構わんよ…国民に奉仕するのが、我々の仕事だからな…」




