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インターミッション3 杜の都の とある秋の日

西暦2051年、11月、


仙台第八高等学校 1年B組の教室…


「ほら、これ見ろよ。UFOだぜ!」

そう言いながら黒部ユウタがスマートフォンを見せた。


そこに写っていたのは、山の上に見える光る物体。


「学校帰りに撮ったんだ。すげぇだろ!?」

興奮気味のユウタだったが、アユムはそれを一瞥すると、


「夕方で、山の上って事は、西の空だね…金星だよ、これは。」


「ありゃ!?」ガクっ!周囲からクスクスと失笑が起きる。


「じゃ…じゃあ、これはどうだ!?」


そう言ってユウタはスマートフォンを操作し、動画の再生スイッチを入れる。


そこに写っていたのは、一面の曇り空にポツンと光る点。手ブレがひどい上に、『あ、あれは何だ!?すげー…』というユウタの声まで入っているので、彼自身の撮影だろう。


「よく見てろよ…」


手ブレがひどい画面の中で、光の点はスっ!と、右から左へ動いた。それを追う様にスマートフォンの画面も左に動く。またスッ!と左から右へ…


「どうだアユム!?こいつはどう考えても、光より速く動いてる事になるだろう!?UFOだぜ…」


アユムは自身のスマートフォンを操作してライトを点け、


「あの黒板が空の雲だとするよ…」


ライトを黒板の左の端に当てると、そこに光の点が出来る。それを右にスっ…と動かし、今度は左にスっ…


「こうやって、地上で誰かが強力な懐中電灯を左右に動かしたんじゃないかな。その光だと思う。」キンコンカンコーン…


「ありゃ〜〜〜…」再び落胆するユウタ。


「…ガキか、ユータ!!放課後にそんな事してねぇで私みたいに部活やれ!!」

ポニーテールの小田カナコが冷静なツッコミを入れる。


「うるへー陸上部!!」


入学から半年、陸上部に入部したカナコは一年生のホープとなっていた。ユウタとアユムは帰宅部。ユウタに彼女が出来たかは…説明するまでも無いだろう。アユムも、どこか文化系の部活に入ろうかとも思いもしたが、長年のいじめられ故に未だにユウタ達以外の他人と積極的に交われずにいた。


「大体アユムも、星とか星座とか好きなんだったら、UFOに興味はないのかよ!?」


「興味はあるけど…宇宙のどこかに、地球人と同じかそれ以上の高度な文明を築いた生命体はいるだろうけど、それが地球にやってくる可能性はゼロに近いだろうね。」


「へ…!?な、何でそんな事言えるんだよ!?」


「まず、宇宙のどこかに知的生命体は存在すると思う。何故なら地球と僕たち地球人がいるから。太陽は天文学的に低い確率で、生命が住める環境の惑星…地球が出来、また天文学的な確率で知的生命体…人類が誕生した。宇宙には文字通り星の数ほど星があるから、その天文学的に低い確率で、知的生命体が誕生した星が、他にもきっとあると思う。」


「だったら…」


「でも、その宇宙人が、地球にやってくる可能性は、ゼロに近いよ。」


「何でだ!?アユム…」

カナコも、気づいたらクラスの全員が、アユムの話に釘付けになっていた。


「まず、太陽に最も近い恒星である、プロキシマ・ケンタウリでさえ、地球から約4光年離れてるの。宇宙人の住む星は、少なくとも光の速さでも年単位の距離が離れてる事になるの。そして、UFOで地球に来ているということは、彼らにはその光速でも年単位時間がかかる距離を、宇宙船で航行出来るテクノロジーがあるという事になるの。そう考えたら…『彼ら』に地球にやって来る動機が無い事になるの。」


「「「動機が無い!?」」」


「まず、SFでよくある地球を征服して自分たちが住もうとかいうのは、UFOを作れるテクノロジーで、近隣の惑星をテラフォーミングするなりスペースコロニーを作るなりすればいい事になるの。わざわざ遠く離れた惑星へ来て、地球人を追い出す手間をかける必要はないの。そもそも地球が彼らが住むに適した環境である可能性が、これまた天文学的に低いからね。」


教室はしんと静まり返っていた。


「資源を採りたいとかいう動機も、同じ理由で否定されるの。まぁ、石油目当てだったらギリギリ可能性があるけど…化石燃料は有機生命体の住んでいた星でなければ安定して採れないはずだから…でも、生命の住んでた星でなきゃ採れないエネルギーは、宇宙に進出する段階で使われなくなると思うから、やっぱりこの可能性も無いね。」


「地球人を奴隷として、奴らの星に拐って行くとかは!?歴史で習ったみたいに…」

意外と成績の良いカナコが言ったが、


「科学が未発達だった頃ならともかく、宇宙人には宇宙を航行するテクノロジーがある事になるから、その技術力で人力より強力で疲れ知らずの作業道具を作れると思う。」


「SFで見た事ある、宇宙人が地球人を危険視してるとか、『我々の他に宇宙人がいるならとりあえず征服しちまえー』みたいな邪悪な奴らだとか…」

ユウタもそう言ったが、


「何十光年も離れてる星の事なんか構ってられないよ、彼らも…」


「地球人と友好関係を結びたいとか…」


「そうだったらいいねぇ…」


「渡会君の言うことは大体あってますよ。」


富士野先生が言った。


「ですが皆さん、歴史でペリーの来航の事は習いましたか!?


江戸時代末期、日本人は高度な航海技術を持たず、捕鯨はたまたま海岸近くに迷い込んで来たクジラを細々と獲っていました。ですがその頃アメリカでは、大洋を航海できる捕鯨船で大量のクジラを捕り、ついに彼らの近海からクジラがいなくなり、太平洋の向こう側の鎖国していた日本までやって来て、捕鯨の基地にするために開国を迫りました。これは当時の一般的な日本人にとっては到底想像出来ない理由だったに違いありません。だから、


もし、宇宙人が地球にやって来る事があるとすれば、それは、私達一般の地球人にとっては、到底想像もつかない理由によるものになるでしょうね。」


富士野先生の話はためになるなぁ…


「ん!?富士野先生!?」

いつの間に先生が話に入り込んでたんだ!?


「皆さん、チャイムはとっくに鳴っていますよ。」


「「「あわわわわ…そう言えば…」」」


「席について下さい。」


慌てふためいてバタバタと自分の席に戻るアユム達であった…


     ※     ※     ※


時は再び巻き戻り、西暦2053年、9月、


岩手県南部、某所…


「夏草や つはものどもが 夢の跡…」


網木ソラは自身のアレッツのコクピットの中で呟いた。


太古の昔に大きな合戦があり、それから数百年後に訪れた俳人が、有名な句を詠んだ地。


「時が巡ればまた生い茂る大自然と、時と共に朽ちて行く人の技の対比、か…と言う事は、ワタシ達もいずれ…」


南を向くソラ機の右手には、かつてこの地を治めた地方豪族の即身仏が納められていたという歴史的建造物。そして遥か前方には、墜落した宇宙船の残骸。


スクリーンにはつい最前、偵察用ドローンが撮影した動画。宇宙船の上空を飛ぶ物体、遠くて詳細は見えないが、辛うじて人型だと分かる。その人型がキラッと光ると、画面は砂の嵐になった。撃ち落とされたのだ。


「『ホワイトドワーフ』…即身仏と骸繋がりか…」


ソラは爪を噛み、


「迷惑なのよネ…他人様の星に来てまで…本当に…」


そう言えば、アユム君達から連絡があった。今、彼らはこの南北に細長い盆地の北の方にいるのだが、山脈を越えた西の街に寄り道するので、頼まれていた品の引き渡しは遅れるとの事。『だったらもう一つバグダッド電池を用意して頂戴。勿論代金は上乗せするわ。』と返した。そしてアユムからは、『あなたが軍隊と呼んでいた、エイジ隊には注意して下さい。アレッツを手放す様に要求して来ますから、なるべく関わらない様に』とも…


こういうのを何て言ったかしら?『前門の虎、後門の狼』…!?

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