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1ー4 すごい事を 始めてしまった

「修理屋をやれ!?」


カオリの提案にアユムは戸惑った。


「そ。あんた、力仕事とかよりこういうのの方が向いてそうだし、これから旅を続けるんだったら、食って行く手段を持っといた方がいいわ。バグダッド電池は今や私達の生命線だから、これを直してくれる存在は、どこへ行っても歓迎されると思うわ。」


「で…でも…あれを扱うには本当は資格が必要で…」


「そんなの関係無い!国も社会も法律も無くなっちゃったの、わからないの!?」


「あの……」


「何でさっきあんた、うちのバグダッド電池を直したの!?あんたも好きなんでしょ、ああいうのが!!」


「でも…」


「何!?言いたい事があるならはっきり言いなさい!!」


アユムの脳裏には、あの日の事が浮かんでいた。ダイダにプラモを盗まれて、燃やされた日の事が…



「………僕が何かを作ったって…ダイダが…誰かが…みんなが壊して…しまう…」

だからあれから、プラモ作りを止めてしまった。作ってもどうせ、僕に悪意を持った誰かが端から壊してしまう。この世に大勢いる、僕に悪意を持った誰かが…涙ぐむアユム。だが…



「いい、よく聞きなさい」ガシっ!再びアユムの肩を握るカオリ。女の人のくせに力が強い。



「あんた…これやらないと、旅を続けられないわよ。それどころか、あんたこれから、どこへ行っても足手まといよ。」



「………っ!!」思わず胸の真ん中を握りしめるアユム。



「あのねぇ、アユム君…」

横からおばさんが口を挟む。


「…おばさん思うのよ…こんな世の中よ…人が大勢死んだわ。だから…生き残った人たちは、死んだ人たちの分も、出来る事をやらなきゃならないって…あなたには確かに資格は無いかもしれないけど、確かにバグダッド電池の修理が出来るんでしょ!?」


「おばさん…」


「村の共有施設のいくつかのバグダッド電池の調子が悪くなってるのよ。それからさっきのを見て、この村の人たちが大勢、うちのを直して欲しいって言って来てるのよ。だから、とりあえずこの食堂だけでも、応急措置をちゃんと直してくれないかしら…!?今後も続けるかどうかは、その後で考えてもいいと思うわ…」


「………分かりました。」


どうせこの先進めるかどうか分からない。ついにアユムは首を縦に振った。


「この村の分だけでもやってみます。」


「よく決心したわ。なら、その前に…」


     ※     ※     ※


アユムが連れて行かれたのは、村の近くのDIYストア。その中からおばさんとカオリは1着のツナギを選ぶ。


「はい、これ、着てみて。」

「へ…!?」

「まずは形から入った方がいいと思うの…」

「は…はぁ…」

言われるままにシャツのボタンを外し…


「向こうの部屋で着替えろーーー!!」「は…はいーーーーっ!!」


カオリにツナギを投げつけられるアユムであった…


「カオリちゃんに弟がいたらあんな感じなのかしら…」

おばさんがほわほわとそう言いかけると、カオリが嫌悪とは別の困惑の表情を浮かべる。

「あ…ご、ご免なさい…」

おばさんは何故か謝る。

「あ…いえ…」


     ※     ※     ※


アユムは着ていたジーンズとシャツを脱いで、ツナギを着て…首から外した物を再び首にかけ、前を閉める。


「あのー…」着終わって出てきたアユムの格好を、カオリはとにかく誉めるつもりだった。だが、


「うん、似合っ…て……る!?」


彼女の言葉は途切れた。袖も裾も手首や足首が出てないのだ。


「これ、大きすぎますよ…」

「でもこれしかサイズが無かったのよ…」

「折って出しなさい。」


裾も袖も三重に折り曲げて、ようやく手首と足首が出た。


「それで我慢なさい。そのうち背も伸びるかもしれないでしょ…」


「うぅぅ…クラスでも背はずっと一番低い方だったのに…今更伸びるかなぁ…」


「じゃ早速、食堂やってもらえる!?」


「いいですけど、その前に…」


「ん!?」


「…街の廃墟のジャンクパーツを、好きに使っていいですか!?」


     ※     ※     ※


その日の午後はカオリも食堂の後片付けを、他の人に代わってもらった。


まず、アユムとカオリは、ジャンクの山に手を合わせて一礼する。元々は今ここにいない誰かが使っていた物だ。それからアユムはジャンクの山を漁る。


「さっき言ってた、あんたのおじいさん…だったっけ!?」


「ええ…小さい頃から僕の面倒を見てくれてた人なんです…小さな町工場をやってて…けっこうな高齢(とし)だったのに、バグダッド電池も扱えて、拡張生成項の係数も自作して…これはさっきも言いましたけ!?…とにかく、僕にも教えてくれたんです。」


「…そのおじいさんもおじいさんだけど、覚えるあんたもあんたよね…」


それからアユムはジャンクの山から、まだ使えるバグダッド電池のパーツ…受光機とローターと、発電機と、ケーブル、その他諸々を選び出し、あらかじめ借りておいたリアカーに乗せて行く。


「いじめられて泣いて帰る度に、じいちゃんの所に行ってた気がするなぁ…じいちゃんも教えた物を端から覚えてくから、僕に色々教えてくれたのかもしれないけど…リアルロボットアニメも大好きだったとかで、その原点となるアニメの本放送を、小学生の頃リアルタイムで見てたとか…」


「その辺はちょっと、分からないわね、あたし…」


「お!」


アユムが道端に倒れたスクーターを見つけて駆け寄る。因みにこの時代のスクーターは、どれもシートの左右に同じ物が着いており、走行時に展開して受光部とローターとなり、内蔵したバグダッド電池で発電するのだ。


「どれどれ…」


起こしてキーをひねるが、エンジンはかからない。おまけにシートの片側にはパネルが着いているのだが、地面に倒れていたもう片側のパネルが取れているのだ。


「それ、パーツ取るの!?」


「あー、それでもいいんだけど…これ、直してみようかな…」

ここは元駐輪場だったらしく、辺りには壊れたスクーターが何台か転がっている。これらからパーツを取れば…


「あ…あんた、そんな事も出来るの!?」


「むしろそっちの方が詳しいです…」


「あ…じゃあ、あんたが乗ってきたスクーターって…」


今は村に停めてあるアユムが乗って来たスクーターは、左右の受光部パネルの形が違っていた。


「あー、あれも僕がレストアしました。」


「やっぱり…それもおじいさんが教えてくれたの!?」


「はい…あと………スクーターの乗り方も…も、もちろんあの時は、公道には出てませんよ。」


アユムは去年は高2だったと言っていた。


「あ…という事は、あんた…」


「げ…原付免許はその後ちゃんと取りましたよ!…高2に進学する春に、学校で…」


「…ま、いいか。」


「え…!?」


それからカオリはアユムの肩にポンと手を置き、

「多分あんたは大丈夫だろう。」

と言った。


「旅を続ける力が揃ってるんだ。あんたは多分この先もやっていける。」


「カオリさん…」



「いいか、人を殺すな。物を盗むな。人に迷惑をかけるな。それ以外だったら、何をしてでも生き残れ、歩き続けろ!!」



「は…はい…」


     ※     ※     ※


それから2人はパーツを満載したリアカーを引いて、村へ帰った。パーツの山のてっぺんには、あの壊れたスクーターが乗せられていた。持って帰って直すと、アユムが言って聞かなかったのだ。全く余計な物を…カオリが思ったが、まぁ、良い傾向かな、とも思った。


     ※     ※     ※


それから、カオリはおばさんの後片付けの手伝いをすると言い、アユムは一人で作業に入った。


食堂の室外機の内部は余裕を持って作られていた。ここに、拾ってきたバッテリーを積めるだけ詰め込む。ここは、これでよし…


アユムは発電機の取り付けに屋根の上へ登り、発電機の取り付けにかかる。屋根の上から見下ろすと、入口付近の広場には、アユムが来た時にやって来た2機のプロトアレッツが、あの時のまま倒されており、野良仕事帰りの村人が、「じゃまだなぁ、こいつ…」と言いながら通り過ぎている。


屋根の上に、廃墟から拾ってきたポールを立て、そこに、受光部とローターを増設する。既に設置されているものと干渉しない様に…


沈む夕日の中、屋根の上の作業も何とか終わった。受光部とローターの可動も問題無い。これで明日から、食堂は十全に機能するだろう。アユムの眼前には、彼方には廃墟、足下には村。それら全てを眺めながら、アユムは呟いた。


「それにしても…考えてみたら、すっごい事、始めちゃったんだなぁ…」

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