6ー6 はるか未来と 近しい未来
同日、夕方、2人の宿…
「アレッツを手放す様に警告されたぁ!?」
昼間の出来事をアユムから教えられて、カオリは声を上げそうになった。多分、周りの人には聞かれていない…
「ええ…あの人は僕を蒼いアレッツのパイロットだと薄々感づいてたみたいですよ。それで…奴らの天幕の様子はどうでしたか!?」
ジャンクのネジを回しながら、カオリと話しをするアユム。
「う…うん…あのシノブって女の人も、この世界で生きてく術を色々親切に教えてもらえたし、生活物資も色々と分けてもらえたよ。あの人達…エイジ隊、は、あちこちの村でそういう事をして、感謝されてるみたいだった。」
「そう…ですか…」
「ねぇ…もうこの際、あの人達に保護してもらう訳にはいかないの!?」
「彼らは個人個人の事情に関わる余裕は無さそうです。…そのくせ民間人のアレッツ乗りには手放すように警告する…」
「それ厄介よね…」
「うん………あ!」
ベキっ!アユムが回していたドライバーが折れてしまう。
「………代わりを探さないと…明日、廃墟のジャンクを漁って…それから他にも必要な資材を…ソラさんに頼まれた注文の分も…」
折れたドライバー、修理する機械の材料…今は廃墟にジャンクが山程転がってて、それを集めて再利用してるけど…
…もし、廃墟のジャンクを使い果たしたら、それまでに、各地の工場が動くまでに世の中が復興しなかったら………
「……ム!アユム!!」
カオリに呼ばれて我に返るアユム。
「え!?」
「アユム!?どうしたの、ボーッとして…」
「え…あ、す、すみません。壊れた工具と資材調達は明日にしましょう。それから…明日、ここを発ちましょう。ここもカオリさんの故郷じゃなさそうですし、うるさいあいつらのいない場所へ行きましょう。」
「そ…そうね…」
次の目的地は、奥羽山脈を西に越えた所にある、小京都。
※ ※ ※
同時刻、『エイジ隊』天幕内…
「あの子供がぁぁぁぁぁっ!!こっちが下手に出ればつけあがって!!」
叫びながらバン!、と、エイジはテーブルを叩いた。
「国家権力に逆らったらどんな目に遭うか…思い知らせてやる!!」
熱くなるエイジを、シノブは隣で冷めた目で、牛乳瓶メガネをかけて見つめていた。
「タイチョー…」
「何だね久野君!!」
「その『久野君』って奴っスよ、タイチョー…以前はアーシ等の事を、階級で呼んでましたよね。」
「あぁ!?」
「いつからっスかね…アーシ等を階級で呼ばなくなったのは!?」
「………隊長自ら部隊の規律を乱した事は謝罪して是正する。」
「…タイチョーも分かってるんじゃないっスかぁ!?今のアーシ等に、公僕たる力も資格も無いって事に…」
「…久野君……」
「今でこそアーシ等は行く先々で歓迎されてますが、アーシ等があちこちで派手にばら撒いてる食料や日用品の備蓄も、確実に減り続けてるんっスよ…いつかあれが底をついたら、住民たちも掌をくるっくるひっくり返すと思いますよ…」
「何がいいたい…!?」
「遥か遠い未来にご立派な理想を掲げるのは大事っス。だけど、近しい未来は、今日と地続きの明日しか選べないっス。」
「だから何が言いたい!?」
「いつか再び日本に秩序と安定を取り戻す事は必要っス。だけど現に野盗や、それ以上にヤバい奴が蔓延ってて、アーシ等にそれを全部退治して回れる力が無い以上は…」
「民間人にアレッツでの武装を認めろとでも!?」
再びバァン!と、テーブルを叩くエイジ。
「黙認。それが落とし所だと思いますがね。ま、アーシ等はみんな、タイチョーのご立派な理念に共感したからついて来てるんっスけどね…実際、もうあの地獄を味わうのはゴメンっスから。」
「なら、話はここまでだな。近しい未来をはるか遠い理想の秩序と安定ある未来に向かわせる。その一歩として…強く言えば言う事を聞きそうなあの子供に、アレッツを手放させる!!」
再び熱くなるエイジに、これまた冷めた目でシノブは、
「タイチョー…」
「何だ!?」
「さっきチラっと聞いたんっスけど、あのアユムって子、いじめられてたって言ってましたね〜」
「…それがどうした!?」
「………何でもありませ〜〜〜ん!」




