6ー5 その手に銃を 握るが故に
昔、じいちゃんが言ってた。
『昔、リアルロボットアニメのブームがあったが、あれは長続きせんだろうなと思うた。』と…
戦うロボットにリアリティを持たせようとすると、それは『兵器』となり、であれば舞台は、必然的に『戦争』であり、『軍隊』となる。お話のパターンは現実の歴史の戦争のパターンの数だけしか無い。独立戦争を含む内乱か、侵略戦争か、はたまた世界大戦か…とにかく、それらをやり尽くしたら、ネタがすぐに尽きるだろう、と。
言い換えれば、もし、空からロボット兵器が降って来れば、軍隊はそれを兵器として運用しようとするのは必然であり、
特に日本の様な一般人の武器の所持が大きく制限されている国では、『軍人』は一般人のロボット兵器の所持を快く思わないだろう。
………今の、この状況の様に…
※ ※ ※
「…僕なんかに、アレッツ乗りの知り合いなんている訳無いでしょう!?」
とりあえずアユムは手を動かしながらそう答えたが、エイジは、
「さあ、どうだろうねぇ…」
圧がすごい…
「ところで最上さん…あなたと一緒に野盗退治や物資配給を行っているのは、全部で何人ですか!?」
「…あの天幕にいる者たちで全員だ。」
という事は、あの5体のアレッツだけで全部という事か…
「最上さん、例えばですよ…僕は仙台へ帰る旅をしてるんです。お盆帰省で訪れた北海道から、SWDで帰れなくなって…」
「それは…大変だったな…」
「もし僕があなた達に『助けてください』と言ったら、あなた達は僕が仙台へ帰る旅の護衛をしてくれるんですか!?」
しばしの沈黙の後、エイジは、
「残念ながら、我々には一人ひとりの個人的な問題に対応出来る余力が無い。」
「でしょうね。話になりません。」
まぁ、予想された回答だった。
「あの蒼いアレッツ乗りも道中の護身のためにアレッツを使っていると言いたいのか!?だが自分から野盗の根城に突っ込んで行ったり、野盗を殺したり、まるで安っぽい正義のヒーロー気取りだ。奴がそこまでする必要があるのか!?」
「いいんじゃないですか!?みんなから感謝されてますし…」
「日本には銃刀法があって、一般人には武器の所持が制限されている…」
「アレッツとその携帯武器は銃刀類にはなりませんよ。あなた達こそ、アレッツは自衛のための戦力と言うには強力すぎるんじゃないですか!?」
「それを言うならアレッツは陸海空いずれの戦力でも無い。全く…口の減らないガキだな…大体、君らはスクーターに乗ってるんだろう!?青森-仙台間なんて、法廷速度でも一日で行けるんじゃないのか!?」
「道があちこちで寸断されてる上、野盗までいるんですよ。」
「それにしても何日もはかかりすぎだろう。」
「そんなのこっちが聞きたいですよ。もうこの話はいいでしょう!?とにかく、『彼ら』にも事情があるんでしょう!?余人にとってはどうでも良さそうな理由でも、『彼ら』にとっては何よりも大事な理由が…いずれにせよ、野盗がはびこる危険な世界を旅するなら、アレッツが必要です。」カチャ、カチャ…
「…それで力を手に入れて、力を弄んで、力に飲まれたか!?」
「何の事ですか!?」
「人を殺してるんだぞ、しかもかなり惨たらしい手口で…」
グっ!!不意にエイジは左手でアユムの首元を掴む。
「殺してません!!」
アユムは振り払えるはずが無いと知りつつ、自分の首元を掴むエイジの手首を両手で掴む。
「………」
「……………」
エイジは眉をしかめてアユムを掴む手を離す。アユムもゆっくりと座り直す…
「じゃあ…これでどうだ!!」
突然、エイジは自身のジャケットの中に右手を突っ込み、何かを掴むと、ジャケット越しに細長い何かをアユムの腹に突きつける。
「………っ!!」
「………」
人殺しの冷たい目で、アユムをにらむエイジ。思わずエイジの左手を掴んでいた両手を離す。
(撃たれる…っ!!)
そしてエイジは、
ジャケットから右手を抜く。さっきアユムに突き立てたのは、伸ばした人差し指。
「…脅かさないで下さいよ…」
エイジはゆっくりと、アユムの胸ぐらを掴んでいた左手を離すと、
「渡会君…さっき私が持ってたのが拳銃だと思っただろう!?もし私が一般人だったら、『拳銃を持ったふりをしてふざけてる』と思ったんじゃないか!?私の立場上、拳銃を持ってても不思議じゃないと…つまりこういう事だ!!
武器を所持しているという事は、他人から見たら、その武器を使用して誰かを傷つける意思があると言う事だ。武器を所持している事によって、無用な厄介に巻き込まれる危険性があると言う事だ。もしかすると武器を持ってないより、持ってた時の方が!!」
「そんな事が言いたいがために…その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。」
「それにしても君は…拳銃らしきものを突きつけられたのに、こっち睨んで…肝の座った奴だな…」
アユムは、さっき拳銃に見せかけた人差し指を突きつけられて以降、終始エイジを睨み続けていた。
「拳銃を突きつけられた事があるんじゃないのかね、君は!?」
あると言えばある。アレッツのパーティクルキャノン。あれで撃たれたら拳銃のそれどころでは無い。だが…
「…何百人もの人間からずっと悪意、敵意を向けられて来ました。」
アユムはそう答えた。
「ああ!?」
「小学校、中学校の1学年の児童数が、大体そのくらいです。僕はずっと、何百人もの人間から、悪意、敵意を向けられ、拳で殴られ、足で蹴られて来ました。まぁ、拳銃もどきを向けられたのは初めてでしたけどね…」
「それで…今度は攻撃される側からする側へ移ったという事か!?」
「違う!!僕はあいつらみたいにだけはなりたくない!!」
「君は自分が何をしたか忘れたのか!?旧青森市街地の野盗を…」
「何のことですかそれは…」
「あなた達…何をしてるの!!?」
気がつくとそこには両手に抱えた荷物を地面にドサっと落としたカオリが、メガネを外したシノブと一緒に立っていた。シノブから『あれ』の代用品の作り方について講義を受けた後にエイジ隊の人たちから多くの物資をもらい、ようやく向こうの天幕から戻って来たのだ。
「あ…あなたっ!アユムに何かしたんですかっ!?」
カオリはアユムとエイジの間に割って入り、武術の構えを取る。
「………」「「………」」
二人はしばし睨み合った末に、
「ふん…」
エイジは両手を上げて敵意の無い事を示し、カオリも構えを解く。
「なんでも無いよ。だが渡会君、よく考えてくれたまえ。君はさっき、旅をするにも事情があると言っていたが、旅をするのが困難なくらい物騒な世の中なら、北海道の復興村でおとなしくしてればよかったんだ!!ここまで無事来れたはいいが、こんな事続けていてら、どこぞで野垂れ死ぬに決まってる!!」
そう言って自身の天幕へ帰ろうとするエイジに、
「待って下さい、これ…」
アユムは直していた目覚まし時計を差し出すが、
「そんなもの、話をする口実だと気づいてるんだろう!?」
そう言い残して自身の天幕へ向かい、シノブも後を追う。
「何の用だったの、あの人…」
「カオリさん、その…」
アユムは座ったままカオリに右手を伸ばし、
「すみません、引っ張ってもらえますか!?自分では立てない…」
やはり拳銃もどきを突きつけられて死ぬほど怖かったアユムであった。




