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6ー4 コンシダレーション Episode 5

『軍隊』の天幕…


そこには、ショートボブの女神がいた。


数人の迷彩服のむさ苦しい男性に交じって、同じ迷彩服を着た一人の美女が物資を村人たちに配給していた。


「欲しい物があったら遠慮なく仰って下さいね。」


にっこり微笑む彼女に、村人たちも虜になっていた。


男性隊員の1人が彼女の腕を突き、何か耳打ちすると、彼女は、


「ごめんなさい、ちょっと席を外します。」


天幕の中へ消えて行った。


その刹那、彼女は胸のポケットから、牛乳瓶の底の様な分厚いメガネを取り出し、それをかけると、


天を仰いでニッ、と不敵に笑った。


「隊長ーー!!最上(もがみ)タイチョーーー!!久野シノブ、参りましたーーー!!」


素っ頓狂な声を上げて片手を上げる彼女…シノブ。ごく一部の親しい者にしか見せない、こっちが彼女の素顔だ。


「………」

天幕の中のデスクに座る迷彩服の男性…彼らの隊長、最上(もがみ)エイジが、シノブをギロっと睨んだ。美青年だが眼光鋭く、堅物そうな男だ。


「シノブ君…弘前城の戦闘における虚偽報告の査問がまだだったと思ってな…」


あの時、シノブからの緊急事態発生(エマージェンシー)の報告を受け、エイジ達は撤退した。だがすぐに、シノブは『エマージェンシーは誤報だった』と言ったのだ。


「再発防止ですかーー!?ケアレスミスでーーす!うっかりミスでーーす!!以後、この様な事が起こらない様に注意しまーーーす!!」


「…答えろ!何故、戦闘を止めようとした!?」


「あー………」

エイジに睨まれ、シノブは声を落とし、

「必要のない戦いは避けるべきかと思いまして…」


あの蒼いアレッツは城や野盗に可能な限り被害が出ない様に戦っていた。善意ある者である可能性が高い。だが…


「…それを決めるのは君ではない、私だ。」


するとシノブはまた調子外れな口調で、

「あいすみませーーーん!!無能な働き者は銃殺刑ですかーーー!?」

人差し指を自分のこめかみに当て、立てた親指を下ろしながら「バーーーン!!」と叫ぶ。エイジは額に手を当て、


「もういい…君と話してると頭が痛くなって来る…」


それから彼は椅子から立ち上がり、


「ちょっと出かけてくる。あの時のもう一組の当事者に会いに行く。」


この街の城攻めの時、あの蒼いアレッツはスモークをたいて消えたが、スモークが晴れた時、城から遠ざかろうとする男女の後ろ姿が見えた。


「ならアーシもお供しまーーーす!!」


第六話 撃て!


     ※     ※     ※


アユム達の露店…


「いらっしゃいま…」


人の気配を感じたアユムが顔を上げて応対しようとすると、そこにいたのは、迷彩服を着た男女。ちなみに女…シノブはメガネを外している。


「ふん…修理屋だと聞いて来てみたが、まだ子供か…」


男は上から目線でそう言った。


「『軍隊』…」

アユムがつぶやくと、男は、


「学校で習わなかったかね!?我が国では、憲法で軍を持てないのだ。」


「そ…そうでしたね…」


「…最上(もがみ)エイジだ。」

男は不意に自分の名前を告げた。


「はぁ…渡会アユムです。」


「先程も言った通り、我々は軍隊ではなく自衛のための部隊だ。SWDによって悪化した治安を回復するために、アレッツを運用する部隊を率い、各地の野盗を討伐して回っている。恥ずかしながら、私の部下たちは、自分たちを、『最上エイジ隊』と呼んでいるよ。」


「『エイジ隊』…」


「ねぇ、そこのあなた!」

女神モードのシノブがカオリに声をかけた。


「え…!?わ、私!?」


「はじめまして。私、エイジ隊の久野シノブと言います。食料とか日用品とか、無くて困ってる物はありませんか!?うちで少しなら支給出来ますよ。」


「………」

カオリはしばし考えた末に、


「あの…じゃあ、コニョゴニョ…」

シノブに耳打ちする。


「それなら少しですけどありますし、分けて差し上げますよ。」


「ほ…本当ですか!?あたし困ってたんです。持ち合わせが底をつきそうで…」


「でも、工場が壊れてるから、無くなったら、手作りした物を使うことになりますね。柔らかい布を何重にも折り重ねたりして…」


「そ…そうですよね…」


「うちへいらっしゃい。作り方を教えてあげるわ。私、ボランティアでそういう事をあちこちの女の人たちにレクチャーしてまわってるの。」


「お願いします!!アユム、あたし、ちょっと外すわね。」

カオリは立ち上がって、シノブと共に向こうの天幕へ行こうとする。


「カオリさん…何か必要なものがあるなら、僕が作りますよ…」

アユムはそう言ったが、


「こ…これはあんたに頼めない物なの!!」

少し赤くなって慌てるカオリ。


「でもカオリさん…」

そこにメガネをかけたシノブが割って入る。


「ショーネン!!これは女の秘め事なのよ!!男は口を挟んじゃだーーーめ!!」

ハイテンションな口調のシノブに、アユムは二の句が注げなかった。


カオリとシノブが向こうへ行ってしまった後、残されたエイジはアユムに、


「君…その年齢で何も知らないのは、純情じゃなく無知だぞ…」


それから彼はポイ、と、壊れた目覚まし時計をアユムに放り、


「それ、直してくれ。」


「これ…そこいらで拾った物ですよね…まぁ、いいですけど…」


そう言ってアユムは目覚まし時計の裏蓋のビスを外し始める。カチャカチャ…


「ところでアユム君、君は、秀吉の刀狩りについて知ってるかね!?」


「まぁ、学校で習った程度には…」


「秀吉は農民から武器を取り上げた。兵農分離が目的だったと言われているが…」


「それより前は、農民がお上に抵抗する力を削ぐのが目的だったと言われてたそうですね…」


「と…とにかく、日本では昔から、武器の所有を政府によって大きく制限されていた。だがそのおかげで、SWD前は夜に女性が一人で平気で歩き回れるくらい、治安の良い安全な国だった。」


カチャカチャ…アユムは目覚まし時計を分解しながら、無言でエイジの言葉を聞いていた。


「…この様な荒れた世の中になっても、いや、この様な世の中だからこそ、それは守られるべきだと思わないかね!?」


カチャカチャ…


「私は東北各地を転戦して来たが、あちこちにアレッツを使った野盗が徘徊していたよ。嘆かわしい事だ。だがもっと嘆かわしい事は、その野盗対策に、自衛のためと称して、アレッツに乗って武装する一般人があちこちにいた事だ。」


カチャ、カチャ…


「武力に武力で対抗するのでは、より混乱が増すだけだ。どちらかが…武力を手放す理性を持っている者が先に武力を手放し、無法の取り締まりはお上に任せたほうが、この国はより早く平和と秩序を取り戻す。そう思わないかね!?兵農分離、だよ。」


「…どうして、僕にそんな事言うんですか!?」


「いや、君の知り合いにアレッツ乗りがいたら、その者に伝えて欲しいんだ。今すぐアレッツを降りろ、と…」

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