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5ー12 アンタレス未だ遠く

翌日…


城跡は多くの市民でごった返していた。


「城が戻ってきてくれた!!」「ようやく城へ入れた!!」


そんな市民に交じってカオリと2人で城址を歩く2人。昨日ここでアレッツと戦っていたんだ…


「どう…ですか、カオリさん…」

「うん…」


あれから、謎のアレッツ一団は、城を占拠すること無く、城は市民に開放された。アユムとカオリも、こうして城へ入る事が出来たのだ。


「おーい、お二人さ〜ん!!」「よう!!」


向こうから2人の中年男性が寄ってきた。一人は白衣を着ている。


「前田さんと…館平さん!?」

「おう!ワシもこいつに呼ばれて来たんだ!!野盗共に占領されてた城が戻ったと聞いてな。」


「おめでとう…ございます…」

アユムは控え目にそう言った。


「どうしたんだい!?一緒に喜んでくれないのかい!?」


「でも…」


アユムがちらと横を向いた。その先には、燃えた数本の木。なるべく被害を出さない様に、水を撒いて消火までしたのに、完全に被害なしという訳にはいかなかった。SWDで城址にも一部被害が出ていた上にこれだ。


「しょうがねぇよ。」

前田さんはしみじみ言った。


「今年の桜が去年の桜と違うのは当たり前さ。天候も社会情勢も違ってくるし、ただでさえ春は出会いと別れの季節だ。手前の身の上も変われば、一緒に見る人も違う事もある。ましてや宇宙人の襲撃なんて事さえあって、人が大勢死んだ。去年の桜を一緒に見た人の一部は、もういない。だけど…


取り戻した物、燃え残った物を大事に守って、ワシらはまた来年、これまでよりずっときれいな桜を見てやるんだ。」


「そう…ですね。」

アユムは青々と葉を茂らせる夏の桜を見上げて、


「そしたら、いつかきっと、春の桜を見に来ます。」


「おう、2人とも、それまで元気でな。」


そう言って前田と館平は手を降ってその場を去って行った。



「………ありがとうな。」



その刹那、聞こえた声に、アユムとカオリは振り返る。が、2人は既に人並みに消えた後だった。


「まさか…あたし達があのアレッツ乗りだって…」

「いやまさか…バレる隙は無かったでしょう…」


     ※     ※     ※


「あの子らが来て近くの野盗がいなくなって…」

「あの子らが来て城が取り戻された。」

夏の桜並木の中を歩く館平と前田は言った。

「何かしたに決まってるよな。」

「ま、何をしたか詮索するのは野暮ってもんだ…」


     ※     ※     ※


昨日、アレッツでは越えられなかった内堀に架かる橋を渡り、数時間並んだ末にようやく天守閣に登った2人…


城の中は薄暗い。小さな窓からようやく外の光が差し込むだけだった。通路も狭く、階段も急だ…


「カオリさん…!?」


「うん…お城の中って、こんな感じなのかな、って…」


やはり反応は芳しくない。


「ごめんアユム…ここは違うと思う…」

申し訳無さそうなカオリに、


「しょうがないですよカオリさん。この南に小京都と呼ばれる街があるそうです。次はそこへ行きましょう。」


「うん…ありがとう…」


「でも、その前に…ソラさんと待ち合わせがありますけど…」


     ※     ※     ※


同日、夜、村外れの某所…


「これ、約束の物です。」


アユムとカオリが前に置いたのは、バグダッド電池一揃い。受光機にローター、発電機に蓄電池。


「アリガトウ!!それじゃこれが報酬ネ!!」


両手を合わせて喜ぶソラ。そして彼はそれを受け取ると、大きな箱を渡した。中に入っているのは、大量の食料。アユムは中を確認すると、


「はい確かに。どうもありがとうございます。」


「私も嬉しいワ。いい物が手に入ったワ。」


無邪気に喜ぶソラに、アユムは真面目な表情になって、



「…あの日、あの時、あの城には、3つの勢力がいた。」


「…」

言われてソラも真面目な顔になる。


「1つ目は言うまでもなく野盗、2つ目は野盗から城を取り戻そうとした僕たち…」


「…そして同時刻に、お城の反対側から攻め込んだ3つ目の勢力があった…」


元々彼ら…グリーン迷彩機の一団も、城攻めを行おうと、アユム達とは反対側から城の様子を伺っていたのだろう。それが、アユム達が先に城攻めを敢行したため、慌てたあいつ等が、遅れて城攻めを敢行、反対側から野盗を一掃した後、アユム達と鉢合わせたのだ。


「アユムクン、あいつらは多分、プロの軍隊ヨ。気をつけなさい。」


「ええ。ところでソラさん、このバグダッド電池、何に使われるんですか!?」


そう言われてソラは再びおどける様に、


「え…!?ひ、ヒミツよ。それじゃあねぇ〜〜〜」


バグダッド電池をブリスターバッグの収納に収めて去って行った。去り際にソラは、2人に聞こえない声で、


(3つじゃなく4つヨ…)


『私にもバグダッド電池一式を作って欲しい。』それが数日前、温泉の村でソラがアユムに頼んだ仕事だった。バグダッド電池を搭載した何か、では無く、発電、蓄電部分だけ。何に使うかを聞くとソラは言葉を濁した。用途によって発電量も蓄電容量も考えないといけないと言ったが、ソラは『ある程度の事に使えれば何でもいいワ』と答えた。奇妙な注文、その割に報酬はちゃんと払ってくれた。


カオリとの仲を取り持ってくれた。危ない所を何度も救ってくれた。だが…何を考えてるのか分からない人だ…


アレッツを手に入れて、強化して、カオリという強力なパートナーも手に入れて、実際に野盗の一団を半壊させられるまでの力を手に入れたアユム。だが…内地に渡った彼を待っていたのはより強い敵との邂逅だった。



南の空には赤く輝くアンタレス。


ソラさんは『思いっきり背伸びして、思いっきり手を伸ばしなさい』と言ってくれた。でも…


アンタレスはそもそも何百光年も離れた所にあるのだ。


たかが何十キロか南に進んだところで、手が届く場所ではなかった。

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