5ー11 来年の桜 奪還作戦2
万事、窮す。そこへ…
スナイパーの上空遥か後方から飛来する紫の未確認魚型物体。これまでずっと地上の侵入者を狙ってきたスナイパーは、頭上の注意が完全にお留守になっていた。
(ソラさん!!)
魚型のソラ機はすれ違いざまにスナイパーにワイヤーガンを射出、そのまま後ろから前へ飛んで行く。ワイヤーでスナイパーを引っ張りながら。
「どっせぇい!!」
普段より野太いソラの雄叫びが轟き、スナイパーは天守閣の真下の内堀に落ちる。上がる水柱、真っ二つにへし折れる長銃身パーティクルキャノン。
「これは一つ貸しにしとくワ。サァーやっちゃいなサイ!!」
「あ…ありがとうございます!!」
「立て直すわよ、アユム!!」「はい!!」
櫓の上の敵機は空を飛ぶソラ機を撃ち落とそうとパーティクルキャノンをソラへ向けて射出する。が、射程も精度も足りず当たらない。
「お〜っほっほっほ!!」
その隙にアユム機のスタン弾を食らい、櫓の上から落下する。そして…
「虐げられし、者の恨み、思い知れ!!」
近間の1機にブレードモードで斬り下ろし、横薙ぎにガンモードにして櫓から落ちた敵機を撃ち、再びブレードモードにして残る1機に斬り上げ、3機撃破!!一跨ぎに中堀を越える。
「………」
静かだ…
おかしい。残りの敵はどこだ!?まだいるはずだ。
ポーーーン…
どこかから何かが飛んで来る。これは…特殊兵装の弾!?
プシューーー…「うわ!?」弾は煙を吐き、周囲が見えなくなる。煙幕か!?
「レーダー、ブラックアウト。ドローンもコントロールロスト。あ、アユム…」
後ろからカオリが、これまでよりも低いトーンで告げた。
「前方、機影5。」
煙幕の向こうには、5機のアレッツ。うち1機が煙幕を切り裂くように前進する。グリーンの迷彩塗装。明らかに強そうだ。
「キューブの…す、SRぁ!?ここの野盗…じゃないわよね!?」
「ああ。デザインも違うし、レアリティも高い。でも…城を壊すなら、こいつも敵だ…ッ!!」
グリーン迷彩機のゴーグル型カメラアイがギン!と輝き、呼応するかの様にアユム機の右がグリーン、左がゴールドのカメラアイがギン!と輝く。
グリーン迷彩機が右手の短銃身パーティクルキャノンをタタタっと掃射、アユム機が横っ飛びに避け、ブレードモードで斬り付け、グリーン迷彩機がパーティクルダガーでそれを受け止める。
「やめろっ!!お城が燃えたら、桜が枯れたらどうするんだっ!!」
グリーン迷彩機は一呼吸置いてアユム機をドン!と蹴飛ばし、アユム機は仰向けに転げる。
「危ない!!」
カオリの叫び。グリーン迷彩機がアユム機に馬乗りになり、パーティクルダガーを掲げ…
ドン!
アユム機がグリーン迷彩機の腹を蹴り上げ、迷彩機はアユム機の頭の方向へ飛んで行く。アユム機の上にしゃがみ込んだ運動量をベクトルを変えてふっ飛ばした、巴投げの変形だ。アユム機は横に転がりながら立ち上がり、投げ飛ばされた迷彩機は着地して、両機はダッシュ!接近する刹那、各々のブレードモードとパーティクルダガーを突き出し、各々間一髪で躱す。再び距離をおいて振り返り、互いを睨みつける様にファイティングポーズを取る…
「隊長〜〜〜!!最上タイチョーーーっ!!」
不意に煙幕の向こうから声がする。女性だ。
「エマージェンシーっス!!撤退っス!!」
その声にしばし旬重したグリーン迷彩機だったが、すぐに右手を振り上げ、煙幕の向こうの4機に撤退を促し、
「安心しろ、さっきの煙幕に発火性も動植物への毒性も無い。」
と言い残して、自身も煙幕の方へじりじりと下がろうとする。
「ワタシ達も撤退しまショウ。」
「え…ちょ…ちょっと待って…」
それじゃ何のために攻めに来たのか…
「今はともかく、あいつ等に敵意が無い事を示すノ!!でないとあいつ等も退かないワ。」
「わ…分かりました。けど…
カオリさん、ど、どいて下さい!!」
「アユムこそ、臭っ!!あれほど温泉に入れと…」
アユムのパイロットシートに、無理やり一緒に座っていたカオリ。さっき最初にふっ飛ばされて以降の、妙に切れの良いアユム機の動作は、全部カオリの操縦による物だった。
「カオリさん…何であんな事出来るんですか!?」
「だから知らないって言ったでしょう!!ちょ…変な所触らないでよ!!」
「あなたが入ってきたんでしょう!!」
コクピット内の惨状を知ってか知らずか、紫アレッツのコクピット内のソラは肩をすくめ、
「………やれやれ…」




