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1ー3 無能なあの子の 意外な能力

SWD後のこの世界では、食料は…というより、食事は配給制になっていた。


人々はあちこちに村を作り、自給自足の生活をしているのだ。農業は種まきから収穫までほぼ全ての作業が村をあげての共同作業。自然と収穫物も村で管理される様になった。


そして、SWDは物的被害と同じく人的被害も大きかった。親を失った子供、配偶者を失った男が多発し、料理の出来ない、あるいは余裕のない彼らのために、食事は村の女たちが共同で作る様になっていた。


この村も、「おばさん」が村の食堂を切り盛りしており、カオリはそこでおばさんを手伝って給仕をしていた。


村の者は基本、ここで食事を摂ることが出来る。もちろんそれは…


労働の対価だ。そしてそれは、


通りすがりに立ち寄った旅人にも適用される。


     ※     ※     ※


アユムが村へやって来た翌日の昼…


カオリが知ったのは、このアユムという子供が、基本的に何も出来ないという事だ。


昨日のタダ飯の対価に働こうと畑へ出されたが、力仕事は全くだめ。


早々に野良仕事を外され、食堂の手伝いに回されたが、何度も皿を落とし、貴重な食料をこぼした。


「向こうで休んでらっしゃい。」


不安定に点滅する天井灯の中、おばさんにやんわりと戦力外通知を出され、さすがに落ち込むアユム。


「あんた…よくそんなんで、旅をする気になったわねぇ…」

カオリは呆れた。


「すみません…」


高校生だったアユムはアルバイトすらした事が無かったらしい。


「もう内地に帰るの諦めて、来た道を戻ったら!?」


「…」


「…黙ってないで何か言いなさいよ!」


「……」何やらボーっとしているアユム。


こんな奴かまっていられない。仕事に戻ろうとしたカオリだったが、


「…ねぇ、あんた…」去り際にカオリは訊ねた。


「ん!?」


「あんた、よそから旅して来た上に、内地から来たのよねぇ…」


「え!?ええ…」


「あのね…山があって、川がある街って…知らない!?」


「……山と川なんて、どこにでもありますけど…」


「………あんたに聞いた私がバカだったわ…」


カオリは去って行き…何故かアユムも、ゆっくりと立ち上がった。


     ※     ※     ※


食堂の料理は1種類しか無い。じゃがいもやら野菜やら肉やらを煮込んだもの。じゃがいもや野菜は、村の畑で収穫した物。肉は…かつて酪農をしていた者たちが、村外れで豚や鶏を飼育しているが、因果関係はみんな考えない様にしている。


カオリは奥の厨房でおばさんが調理した鍋を、村人達の椀によそっている。


誰かさんが増やした末に抜けた分の仕事もこなさなければならない。


ジジジっ…!天井灯が点滅し、カオリの目の前の鍋を温める電磁調理器が止まった。


「ねぇ、カオリちゃーん、今日の料理、ちょっとぬるくない!?」

村の男の声に、奥からおばさんが、


「ごめんなさい、何だか調理器が不安定で…」


その声に反応するかの様に、天井灯がパチ、パチと点滅する。


「うぉ!?」「あらら…」

「そう言えば…うちの照明もそろそろヤバいんだよな…」

「うぇ…夜、暗いの嫌だぜ…」


皆からも不安気な声が上がる。そこへ…


バチっ!!「うわ…」「わーーっ!!」

食堂の天井灯が完全に消え、そこそこの広さのある食堂が真っ暗になる。


「調理器が…」

奥のおばさんからも声が上がる。カオリの目の前の鍋からも湯気が弱くなる。

「灯りも調理器もとうとう寿命が来たか…」


違う。多分これは…


カオリは持ってたお玉を置くと、食堂の奥へまわった。天井近くに着けられたブレーカーが落とされていた。


「全く、誰がこんないたずらを…」


カオリはブレーカーを入れようとしたが…


「触らないで。僕が感電死するから…」


裏の方からアユムの声がした。


「ちょっと…これやったのあんた!?」

苛立ちながらカオリが裏へ回ると、バグダッド電池の室外機の蓋を開けて、何やらカチャカチャといじっているアユムがいた。


「あんたねぇ…みんなが迷惑してるでしょ!?」


カチャカチャカチャカチャ…アユムの手は止まらず、目は手元を凝視して動かない。工具はこの家にあったものだろうか。


「さっきからこの食堂の電気供給が不安定だと思ってたんだ…」カチャカチャカチャカチャ…


「あんたに何が分かるって言うのよ。余計なことしない…で…」


バグダッド電池は、世界のエネルギーに革命を起こした技術だ。それを使った機器の修理もメンテナンスも、少なくとも大学卒程度の技術と経験と資格が要る。


「それって…誰でもいじれる物じゃない…」

カチャカチャカチャカチャ…まだ高校生のアユムには扱えるはずが無い。はずなのに、アユムの手の動きには一切の迷いが無かった。いつの間にか、厨房のおばさんや、食事をしていた村人達もこちらを覗き込んでいる。


「誰がやったんだこれ!?…そこらにあるのを適当に繋げたな…」カチャカチャカチャカチャ…


「…あんた…」

「待ってて、もうちょっと、ここを…」


それからアユムはタブレットを室外機に繋ぎ、ワイヤレスキーボードを操作し、アプリを立ち上げる。


「拡張生成項の一次係数と二次係数は…デフォルトのままか…」


タブレットのメモアプリから、数字とアルファベットと演算記号が並んだ物をコピーし、室外機の設定アプリにペーストする。


「エラー!?『使用できない文字があります』!?括弧!?今どきポーランド記法か…じゃあこっち…パイもだめ!?じゃあ、3.141592…」


カチャ!


そしてアユムは、タブレットのケーブルを外し、室外機の蓋をパタンと閉め、


「いいよ。ブレーカー上げて。」

「え!?え、ええ…」


カオリはブレーカーを上げる。


パ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ


天井灯は明るさを取り戻した。さっきよりもはるかに明るく、安定した光を。しばらくしてから、おばさんの電磁調理器が、カオリがさっきまでかき回していた鍋から、ボコボコと沸騰の泡が出てきた。


「なおった!!」「すげぇ!!」「昨日のあのガキがやったのか!?」


「元々消費電力に対して発電量が足りないんだ。応急措置をしといたけど、動かす調理機は一台だけにして。」


「それはいいけど、あんた…一体…」

役立たずの意外な一面に驚くカオリにアユムは、


「じいちゃん…死んだ祖父が、町工場をやってて…色々おしえてくれたんだ。バグダッド電池の扱いとか、さきの係数式も、色々……」


「…あんた!」「へ…!?」

カオリはアユムの両肩をがしっ!と掴む。年上の女性に触られてドギマギするアユムに、カオリは、


「私にいい考えがあるわ!」

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