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5ー9 奪われた 今年の桜

かつてカオリが、アレッツを移動特化型の可変機にしようと提案してきたが、アユムがそうしない理由の一つが、今まさに彼等が置かれている状況を危惧してという事だった。即ち、『アレッツを倒さないと先に進めない、あるいは旅の目的が果たせない状況』である。


記憶喪失で自分の故郷を探しているカオリの、故郷に関する手がかりというのが、『山があって川があって、碁盤の目の様な街があって、お城がある』である。


この街は、北西に津軽富士と呼ばれる山がある。市街地の北西に川も流れている。町並みも一部は縦横に伸びている。が…修理屋の仕事の傍ら一緒にこの街をまわってみたカオリの反応は微妙だ。どれも言われてみれば似ている気がする程度でしかないし、何かを思い出した様子も無い。また、かつてのカオリの知り合いが声をかけてくる様な事も無かった。だから後は、お城に行って天守閣にでも入って反応を見るしか無いのだ。


しかし、野盗がアレッツで武装して、無辜の民から略奪を行っている世の中である。そして城とはそもそも要塞だ。であればアレッツに乗った野盗が、城を拠点にしている可能性は高かった。


「三重の堀に、3箇所の物見櫓、真ん中に天守閣に相当する櫓、か…」


ブリスターバッグからアレッツの遠視機能だけを起動して、市街地から城の様子を探るアユムとカオリ。堀にかかる橋や、各地の門には当然、アレッツが配備されている。


「人間だったらまず侵入不可能、アレッツでも、見通しが良いから単機では不利。それにしても…」


「春になったら桜がきれいだって、みんな言ってたわね…」


公園となっていた城趾には、一面に青々とした木が植えられており、春にはあれらが一面桜色に染まるらしい。


『わしらの憩いの場だったのに…』『あんな奴らに占領されるなんて…』とは、仕事の合間にそれとなく住民に当たった際に聞かれた言葉である。あんな大災害があった上、今年の桜は遠巻きに眺める事しか出来なかった、とも…


城は住民にとっては誇り、桜の名所であるなら尚更。万一傷付けたら住民感情は悪くなる。つまり、


「僕達はアレッツ1機で、城に巣食う野盗を根こそぎ退治しなければならない。」

「しかも城になるべく被害を与えずに。」


ここ数日、昼間は仕事をして午後から手が空いたらお城を遠巻きに観察してを繰り返していた。アレッツの配置も、突入ルートも、2人で何度も確認しあった。それでも向こうに地の利がありすぎる。


だが…


「カオリさん、本当にいいんですね!?」


「その話は、このアレッツを二人乗りにした時にもしたでしょう!?これは…あたしの問題でもあるんだ。」


揺るぎない言葉。アユムは他人が苦手。その他人を乗せなければならない。重ねて言うがこれから待つのは多勢に無勢の戦い。なのに…不思議と不安も不快も恐怖も無かった。


「カオリさん…ちょっと状況は良くないですけど…行きますよ。」


「ええ!!リハーサルだかチュートリアルだかの通りにやればいいのね!!」


アユムはカオリと並んで、ブリスターバッグを前に掲げる。



「ブリスターバッグ、オープン!!」

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