5ー7 あなた達の事を 忘れない
怪我で療養中のカオリを村に置いて、アユムは1人、津軽半島を少し南下した海岸沿いの道にいた…
「よう兄ちゃん」「ここを通りたければ」「持ってる物全部置いてきな」「へっへっへ…」
アレッツで武装した数人の山賊が、道を塞いでいた。フルキューブのUCが数体か…ダサい…軽量型なのは山岳地帯対応か!?
アユムは無言でブリスターバッグを前に掲げた。
※ ※ ※
数時間後、旧青森市街地…
「あの三角のピラミッドみたいなビルに、ここら辺を仕切ってるアレッツの野盗の一団がいたんだけど…」
「そう言えば…ここんとこ見かけねぇな…」
周辺に住む人々から話しを聞くアユム。三角ピラミッドビル…2年前に北海道に里帰りする新幹線の車窓から見たな。その後、SWDで帰れなくなったけど…
「お前は…北の温泉地から来たってぇ!?」
「あそことの間は、アレッツの追い剥ぎが出没してたのに…いなくなったぁ!?」
「ええ。ですからみなさん…もう安心して温泉地へ行けますよ。」
※ ※ ※
数日後、アユムとカオリの宿…
「最近、村の外から来た人を、よく見かけるのよね。温泉でも、接骨院でも…」
「湯治客って奴ですか!?向こうにまだ動かせる自動車…マイクロバスがあったみたいですよ。交易もしようかって話もあるみたいですし…」
「あんたも村の外で、何かしたみたいね。接骨院の先生も、『忙しくってしょうがない』って言ってたわ。」
「こんな世の中ですから、身体の自由が効かなくなるのは大きなハンデになりますし、治療の機会は貴重ですからね…」
「あ、接骨院の先生といえば、あたしの肘ももういいって。出してもらった湿布薬を、無くなるまで毎日貼り替えてって。」
「僕の仕事も…ソラさんに頼まれた分も含めて…」
「それなら…」
※ ※ ※
翌朝…
「ねぇあんた達、いつまでも、この村で住んでくれないの!?」
「よせ。聞いた所この人達は、北海道から海を越えて来たそうじゃないか。ここで旅を終えたら、その苦労が無駄になる。だから、笑って送り出してやろうじゃないか。」
「………っ!!」
他人との付き合いが苦手だと思っていたアユムも、さすがに来る物があった…
「皆さん…」
村の南の出口まで見送りに来てくれた村人たちに、アユムは言った。
「こんな…こんな世の中は、いつかきっと終わります。
じきに自由に行き来出来る世の中が来ます。
そしたら…僕たちはきっと、またここに来ます!!
どうかその日まで、お元気で!!」
※ ※ ※
走るスクーターのバックミラーに映る村人たちが、段々小さくなっていく…
ここにはカオリさんの怪我の治療のために寄っただけ、そのつもりだったのに…
『君達が来てくれた事、君達のしてくれた事を忘れない。どんなささやかな形でも、お礼をさせてもらう。向こうに着いたら、前田という男を探してほしい。』そう言ってくれた。修理屋でもらった報酬で十分だと言うのに…
「………!?」
山道をスクーターで走るアユムは、我が身に異変を感じる。スクーターを停め、
「…なんか手足が涼しい…」
「何、言ってるの!?まだ残暑が厳しいわよ。」
そう言って首元のボタンを2つ外すカオリ。
「ちょっと待ってて…」
ツナギの両手足、長すぎて裾や袖を三重に折り曲げていたものを、一回ずつ広げる。
「これで、よし…」
さあ、行こう…




