5ー6 治す日々と 直す日々
翌日…
接骨院の前には『館平接骨院』の看板が新たにかけられた。
「それじゃ、上、脱いでそこに腰かけて……やっぱり捻挫、だな。怪我した直後に冷やした応急処置が功を奏したんだと思う。何日かここで治療すると、元通り治るぞ。」
「本当ですか!?よろしくお願いします。」
医師…館平先生の言葉にアユムは深々と頭を下げた。カオリは苦笑して、
「ほら、あたしはここでじっくり治療するから、あんたは仕事行って!!」
「は…はい!!」
再び一礼して、アユムは去って行った。
※ ※ ※
この村で頼まれた依頼をタブレットでスケジュール調整するアユム。相当な過密スケジュールに頭をガリガリ掻く。
※ ※ ※
左肘に電極を着けられるカオリ。「機械が切れるまでじっとしてな。」館平医師にそう言われた。
周囲のベッドには、既に何人か患者が施術されていた。昨日の噂がもう広まっていたのだ。
※ ※ ※
廃墟から大量のジャンクを集め、リアカーで引くアユム。
「そう言えば、最初の村では、カオリさんに力仕事手伝ってもらったんだっけ…」
重い…
「カオリさ~~ん、早く治って~~~…」
※ ※ ※
カポーーーーーーン!!
温泉で一息つくカオリ。一緒に入ってた女性達が話しをしていた。「そう言えば…昨日、沖の方で、大きな魚みたいな影がみえたのよね…」
※ ※ ※
とある民家の側で、室外機を設置するアユム。「メーカーが…パラメータ設定が…相性が…」この後も分刻みで回らなければならなかった…
「ああ…それなら俺も見たぞ…沖の大きな魚の影だろう!?」
表の方から通行人の声がした。
※ ※ ※
再び接骨院で、湿布薬と包帯を巻いてもらうカオリ。
「姉ちゃん、あんたの身体は歴戦だな…左腕だけでも捻挫や打撲、突き指の跡と思しき物が、あちこちにあったぞ…」
「あたし、SWDのトラウマで記憶喪失なんです。自分がどんな人間だったのかは全然…」
「そうか…お前さんはもしかすると、何かスポーツをしてたのかもしれんな。腕を使うなら陸上じゃないだろう。球技…バレーかバスケか、格闘技…」
「かもしれませんね。記憶は無いはずなのに、接骨院の中の様子に見覚えがあるみたいですし…」
それから館平医師は包帯を巻き終え、
「あまり動かしちゃならんぞ…」
そう言われたカオリだったが、
「軽作業ならいいですよね!?」
※ ※ ※
2人に宿として与えられた空き家…
「ちょ…ちょっとカオリさん…いくら何でも、扱いが違いすぎませんか!?」
入ってくるなりアユムは叫んでドタっ!とテーブルに倒れ込んだ。
「おかえり、アユム。帰ってくるなりそんな事言われても、あたしには何のことか分からないわよ…」
部屋の片隅のキッチンで鍋をグツグツ言わせながら、カオリは後ろを向いたまま、そう言った。
「はいこれ。」
そう言ってカオリがテーブルの上にトレイを置く。野菜を煮込んだ…スープ!?
「これって…」
「あんたがもらった前金の食料で作ったの。好き嫌いは無くなったって言ってたわね。」
「う…うん…でも…大丈夫なの!?その…腕の怪我…」
「このくらいなら大丈夫よ。」
そう言ってカオリはキッチンへ向かう。
「それ、さっさと食べちゃって。そのテーブル、小さいから1人しか食事取れないのよ。」
アユムはスープを一匙すくって口に運ぶ。
「………おいしい…」
※ ※ ※
アユムに続いてカオリの食事が終わった頃…
「大きな魚の影!?」
「ええ…みんな噂してたわ。これって…」
「水陸両用可変アレッツ、でしょうね。でも、この辺に海賊なんていないそうですし…」
「じゃあもしかして…ソラさん!?」
「呼んだカシラ!?」
丁度そこへ、2人の宿にソラがやって来た。
「のわぁ!?そ、ソラさん!?」
「き…昨日は色々ありがとうございます。お陰で助かりました。」
「ドウイタシマシテ。私そろそろ、次の場所へ行こうと思うノ。2人がここだと聞いて、挨拶にと思って…」
「そ…それはご丁寧に…」「あのアレッツでですか!?」
「あ、そうだ。私の事、恩義を感じてくれてるんだったラ…」
ソラは何故か蠱惑的な笑みを浮かべ、
「…私のオネガイ、聞いてくれるカシラ!?」
おまけ
「あれ…アユム…」
「あ…カオリさん…」
露天風呂の脱衣場の前で鉢合わせた2人。
「よう姉ちゃん。坊主にここの脱衣場の天井灯を着けてもらってたんだ。」
そう言って向こうから館平医師がやって来た。
「あの、先生…ここって、村の皆さんで使ってるんですよね?」
「おう、そうだが、それがどうした!?」
この露天風呂は、脱衣場も、中の洗い場も1つだけ。アユムとカオリは顔を見合わせ…
※ ※ ※
「これは何だ!?」
館平医師が手渡されたのは、上に下げ紐が着いた1枚の札。表には『男子入浴中』、裏には『女子入浴中』と書かれている。
「これを脱衣場の前に下げて下さい。」
館平医師はしばらくポカーンとなった末に、ガハハハ…と笑いだした。
「お風呂の中で男と女がバッタリ、ってか!?そんな不注意な事する奴なんかいねぇよ!!」
「いえ、不慮の事故は得てして起こりえますから!!」
「大事に至る前に用心して下さい!!」
2人に押し切られて、その札は脱衣場のドアに着けられる事になった。
「あらぁ、皆さんお揃いでぇ〜」
そこへやって来たのは網木ソラ。
「あ、ソラさん。」「こ…こんにちは。」
「はいこんにちは。ここは良い温泉だって聞いたから、私も入らせてもらうワヨ。」
「おう。好きに入ってくれ。」
「それじゃ失礼して…あら!?」
脱衣場のドアに、さっきの『男子入浴中、女子入浴中』の札がかかっている。ソラはそれを手にとって、表と裏をじっと見つめ…
「「「………ゴクっ!!」」」
アユム達3人は、何故か緊張の面持ちでそんなソラを見つめる。そしてソラは…
『男子入浴中』を表にして札をドアにかけ、中に入って行った。
「「………デスヨネーーー…」」




