5ー4 あの子の事が 分からない
一方、カオリは…
村の片隅で膝と腕を抱えて座り込んでいた。
「………」
もう、考えるのも苦痛だ…
「ここにいたのネ、探したワヨ。」
あの空飛ぶアレッツ乗りが、いつの間にかやって来た。
「あなたは…」
億劫そうに顔を上げるカオリ。
「私は網木ソラ。愛と正義と美貌のアレッツ乗りヨ。」
「…自分で言っちゃいます!?」
何なの、この人…
「アユムクンが心配してたワヨ、アナタの事。」
「それ嘘ですよね…あの子、本当に大事なことは何も話してくれないのよ…」
「あらら…」
いきなり出鼻をくじかれるソラ。
「あ…アナタと彼、行きずりで旅をしてるそうネ…」
「あいつ、あたしの事をどれだけしゃべってましたか!?」
「名前と行きずりだって事以外は何モ…」
「まぁ、そうでしょうね…あたしの事は、あたし自身、何も知らないんですから…」
「どういう事!?」
「あたし、SWDのトラウマで記憶喪失なんです。あたしのこの旅の目的は、忘れてしまったあたしの故郷を探すためなんです。」
「それは…本当に申し訳なかったワネェ…」
深々と頭を下げるソラに、
「…別にいいですよ…あいつ、その事はしゃべらなかったのね!?」
「ええ。」
「変な所、口が堅いのよ、あいつ…でも、自分の事も、何も話してくれない。」
明らかに怪しげな人だったが、助けてもらった命の恩人という事もあり、つい、心を許してしまった。
「一緒にいた頃に、自分の事を色々と話してくれたけど、一番肝心な事は、何も話してくれなかった。自分がアレッツ乗りだったって事も、最後の最後まで話してくれなかった。
…この旅の本当の目的も…あいつ、きっと、『住んでた街に帰る』以外の目的を隠してますよ。」
拗ねるように左腕を抱え込むカオリ。
「…あいつ、自分が………いじめられてたって、話してました!?」
「ええ…そこは話してくれたワ。」
「だからなのか…人付き合いが苦手だって言ってたわ。あたしにも、別れ際に、『あなただって、僕の事、嫌いでしょう!?』って…ひどいと思いません!?」
さすがに声を荒げるカオリ。
「要するに、あの子、まだ子供ナノヨ。」
「ですよねぇ…」
「デモ、子供はじきに大人になるワ。あの子の置かれてる状況だと、思ってたより早い時期に、ネ。ソノ時、あの子の隣にアナタがいられるとは限らないワ。」
「そんな事言ったって…あたし、あの子の事、そんな風には…」
「だったらいっそ、あの子をアナタ好みのイイ男に育てて見たラ!?」
「な…!?な、何、言い出すんですか、あなたは!!」
ウィンクしながらとんでもない事を言うソラに、真っ赤になるカオリ。
「ま、アナタもあの子と話をしてみなサイ。じゃあネ!」
そう言って立ち上がると、片手を振って去っていくソラ。彼を呆然と見送ったカオリだったが…
「………そんな事、出来る訳無いじゃない…」
あんな変な男に相談したあたしがバカだった…
"ソノ時、あの子の隣にアナタがいられるとは限らないワ。"
(そう言えば、あの子、仙台に帰るって言ってたわよね…あたしが来たのが仙台って可能性も、あるのね…)
スマートフォンを取り出し、『あなたの出身地(市町村)は?』の質問画面に、『仙台市』と入力してみる。
『エラー!!答えが違います。』
(そうよね…そんな上手い話、あるわけ無いわよね…それに、あたしが仙台から来たなら、この旅が終わった後、あたしはあいつと同じ街で暮らさなきゃならない訳だし…)
ホッとしたような、ガッカリしたようなカオリであった。




