5ー1 ビルド・アンド・スクラップ
西暦2053年 8月末、旧青森県某所…
「………ん…っ!」
とある廃墟で目覚めたカオリ。寝袋から上半身を出して右腕だけで伸びをする。
寝袋を片付けると、アユムが既に起きて何やらパチパチとタブレットに接続したキーボードをいじっていた。
「あ、おはようございます、カオリさん…」
一瞬だけこっちを向いて挨拶すると、すぐにタブレットに向き直り、パチパチ…
「おはようアユム…アレッツをいじってるの!?」
「ええ…津軽海峡を渡りきったので大量のマテリアルが手に入りましたからね…」
そう言ってパチっ!と、リターンキーを押す。
「渡りきってないでしょ…最後通りすがりのアレッツに引っ張ってもらったじゃない。」
「8割型は自力でしょ…」
アユムは視線をタブレットからカオリに移す。タブレットの画面は2分割されていて、下に横に長いバーの様な物が見える。
「そのうち2割はあたし達で漕いだでしょ。」
「だとしても…あれは大きな成果として認められたみたいですよ…」
「認められたって誰によ…あのね、アユム、あたし思うんだけど…」
「何ですか、カオリさん!?」
「あなたのアレッツさ、こないだ会った、あの人みたいな、空飛ぶ魚型にした方がいいんじゃな…い!?」
「え…!?」
タブレットのアレッツ改造アプリの画面は2分割されており、左右に1機ずつのアレッツが映っていた。左のはこれまでのアユム機、そこから右に矢印が伸び、右側には、左側のアユム機の各部に様々な装飾が加えられたアレッツ、ウィンドウには”Now Building Up…Please Wait…”の文字と、下には右に向かって8割型色が変わった長いバー。表示通りアレッツの改造中の様だが、新たに改造される機体は、確かにこれまでより強そうだが、どう見ても空を飛べそうに無い。
「あ…!?」
「え…!?」
ポカーンとなるカオリと、彼女の反応に戸惑うアユム。そして…
「何で勝手に改造するのよーーーー!!」
カオリの叫びがこだまする中、
バーの色が右まで全部変わり、画面の表示が”Complete!!”に変わった。
落星機兵ALLETS 第二部
「え………!?」
突然、変な事を提案された上に勝手にキレられて困惑するアユム。
「あんたこの間言ったわね、アレッツは空を飛べないって、長距離移動には向いてないって。全部間違いだったじゃない!!あの人の空飛ぶ魚のアレッツ、じゃああれは一体何だって言うの!?普通に空飛んで、あんたの船もどきにしたアレッツを引っ張って、陸まで運べたじゃない!!あんたのもああいう風に改造して、一直線に街から街に移動した方が楽なんじゃない!?」
「あ…あれはアレッツ乗りの常識を越えた物で…」
「だとしても、どうして、あんな前とあんまり変わらない改造したの!?」
「違うんですよ全然!!全パーツ、下から3番めの汎用型で…」
「そんな言い方されたって、全然すごい様に聞こえないんだけど!!」
「全パーツ、セミキューブの汎用型 R」
「だから分かんないって!!」
「………分かんないんだったら口出ししないで下さいよ…」
ボソっと言ってからしまったと思った。カオリには当然聞こえてしまった。
「ええそうよね…あたしには分かんないもんね…あのアレッツだってあんたのだし………」
……口調が怖いくらいに冷静だけど…怒らせてしまった…よね!?
「…あぁもう、この話はよしましょう…さっさと青森へ行きましょう。そこの図書館なり本屋なりで、資料を探すのよね!?」
カオリはゆらり、と立ち上がる。
「ああそれなんですけど………カオリさん…」
「何!?」ギロリ
「そ…その…この近くに温泉があるんです。SWD後に復興された村もあると思うんですけど、しばらくそこで過ごしませんか!?」
「はぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!?」
第五話 陸の奥




