もしもの落星機兵ALLETS・3
それからエイジは、仙台近郊の野盗をあるいは討伐し、あるいは己が配下に加えて行った。山形と、福島に出来た村と友好関係を結ぶと、米沢と、寒河江を自身の代官に赴かせ、南東北一帯は急速に安定を取り戻して行った。
※ ※ ※
「いささか不似合いの気もするが…」
エイジは言った。今や『天使』は、元の彼の愛機と同じく、グリーン迷彩塗装が施されていた。しかも両肩のアーマーは可動式とし、3対の腕も1対を胸部、1対を背面に配置して各々の動きが干渉しない様にし、肩に残した1対を一般的なマニピュレーターに置換、背面の1対を遠距離狙撃用、胸の1対を近距離用にした。更に…
『似合ってるっスよ、その前立て。』
シノブの提案で、額に三日月型の前立てを着けたのだ。
「私は伊達家の関係者じゃ無いし、名字だけならむしろ政宗公に敵対した側なのだが…」
『仙台…いや、「ミレニアム王国」国民には、こう言う分かりやすいヒーローが必要なんスよ。』
ヒーロー…だがその重責を背負う気概が、今のエイジにはあった。
エイジの眼前には東北一帯から集められた、数十機のアレッツ、そして、『天使』アレッツに関東の様子を検索させたところ、郡山と、宇都宮と、群馬に、気になる動きが見られた。だから…乱が東北に及ぶ前に、排除しなければならない!
「これより、遠征に向かう!!」
高潔な志を持つ大人がそれを実現する力を手に入れた時、その効果は凄まじかった。
※ ※ ※
旧福島県郡山市…
バキっ!!『ぐぁ!?』
オレンジのライオン型アレッツは『天使』に狩られた。だがその前に立ちはだかる人影があった。
「お待ちくださいぃぃ!!」『お…親父!?』
ライオン型アレッツのパイロット…野盗団『パンサーズ』のヘッド、兵藤レオの父親の、郡山復興村の村長、氷山コタロウ氏だった。
「愚息は私が必ず更正させます!ですから、命ばかりはお助けを!!」
言われてエイジの『天使』は背中を向けた。
「この期にちゃんと話し合うといい。この時代に、父子共に生き残れただけで奇跡だからな。」
(野盗団のボスと村の村長が親子なのは分かっていた。だからコタロウ氏に根回しをして、2人を向かい合わせるお膳立てをした。これでここは大丈夫だろう。)
こうして郡山復興村…『アイスバーグ共和国』は氷山レオを団長とした自警団を迎え入れた。
※ ※ ※
旧栃木県宇都宮市…
バキっ!!『ぐっ…!!』
舞鶴アカネの深紅のアレッツは『天使』によって左腕を斬られた。
「舞鶴元教官、いくらあなたでも、侵略行為は看過できません。」
エイジがそういい放つと、アカネは、
『あい解った。我々は引き揚げよう。』
30機近い『ジョシュア王国』自警団と、まだグダグダ言ってる王様を連れて、群馬へと帰って行った。
それからエイジは周囲の青系のアレッツ達に向き直り、
「またこんな事が起きない様に、君達もまとまった方がいい。」
『私達の方が規模は小さいんだ。宇田川さん、あんたが頭になってくれ。』
『パレス村』村長の宮部氏が言うと、『ユニヴァース村』村長の宇田川氏が、
『分かった…だが、そっちの事はそっちに任せる。外からの侵略に対してだけ、足並みを揃えてくれれば…』
こうして、『ユニヴァース及びパレス連合王国』は、緩い連邦国家となった。
(宇都宮の2つの村には本来争う理由が無いし、群馬の舞鶴元教官も、内心では栃木進攻に反対している。これで北関東は安定するだろう…)
乱の種を排除したエイジ達は、北へと帰って行った。
※ ※ ※
再構成された『ユニバレス連合』自警団詰所では、民間人から事務員に志願した者達で溢れていた。その片隅に、賑やかしい人物がいた。ふくよかな体型の佐藤夫人だ。
「久しぶりね、スイちゃん!また一緒にやれるなんて、女学生時代に戻ったみたいだわ!」
「女学生時代じゃ無いんだから、『スイちゃん』は止めてよ…」
スイちゃん…佐藤ヒスイは眉をひそめた。
「しょうがないじゃ無い。お互い結婚して、2人とも『佐藤さん』になっちゃったんだから...ところで…」ふくよかな佐藤夫人は、ヒスイの隣の2人の少女を見つめる。「以前、仙台に旅行して、あんたの所に遊びに行った時は、娘は1人だけだった筈だけど…」
そう言われてヒスイはルリとハジメの肩を抱き寄せ、
「2人とも娘です!」
次にルリがハジメの腕に抱き付き、
「妹です!」
ハジメは真っ赤になり、
「よ…よろしくお願いします…」
※ ※ ※
"An Angel is in his Heaven!"(天使は天におわす!)
"by Watcher"
派手な煽り文句の付いた動画が、頼り無く繋がっていたインターネット回線を通じて東日本全土に拡散され、『ミレニアム王国』の『天使』アレッツの活躍と、そのパイロットである最上エイジの名は知れ渡って行った。彼の率いる『ミレニアム王国』自警団が、東日本最大かつ最強の勢力となったある日…
とある人物が、エイジに面会を求めて来た。
しかも…とんでもない物を携えて…
「初めまして。ハンス・シュミットといいます…」
明らかに日本人では無い男はそう名乗った。
「『ミレニアム王国』自警団団長の、最上エイジだ、よろしく。ところで…本当なのかね…!?」
挨拶しながらエイジは『天使』の機能でハンスの情報を検索する。
「ええ…私は宇宙人の宇宙船の鹵獲に成功しました…」
「ほう…」
この男の情報が出て来ないな…
「この宇宙船を、あなたに託します。どうか宇宙人への復讐にお役立て下さい…」
『天使』の能力は地球上の全ての情報を閲覧出来る。それでも情報が見えないという事は、このハンスという男は、地球の外から来た、という事だろう。だが…
「宇宙船を…我々に、か…!?」
「はい…これでどうか、憎き宇宙人への恨みをお晴らし下さい…」
ハンスの言動からは、宇宙人への明確な敵意を感じる。これはどういう事だろうか…




