もしもの落星機兵ALLETS・2
西暦2053年、夏、旧岩手県平泉…
ガァン!『ぐぁ!?』『酒田!?』『た、タイチョー!?』「ひ………退けーーーっ!!」
遥か虚空の敵に狙撃され、ほうほうの体で撤退する5機のグリーン迷彩アレッツ。
『こっちに山形が...自分の故郷があります。そこで体制を整えましょう、最上隊長!!』
「あ、ああ…米沢…」
※ ※ ※
2時間後、旧山形県山形市…
「米沢タイインと寒河江タイインは家族と再会できて良かったっスね、最上タイチョー。ま、酒田タイインの機体は修理中っスけど…」
「あ…ああ…」
牛乳瓶メガネの女性隊員、久野シノブを連れて、廃墟を歩く最上エイジ。だが、彼の心は晴れなかった。
(宇宙人が破壊したこの日本に秩序と平和を。その思いから、宇宙人のロボット兵器…アレッツに乗ってまで東北各地の野盗と戦って来たが…『ホワイトドワーフ』…視認も出来ぬまま、撤退させられるとは…酒田機を超える射程を持つ敵をどうやって…クッ!!)
「…チョー…タイチョー!!」
シノブの声は耳に入って来なかった。考え事でそこかしこを彷徨っていたエイジの視線が、ある一点に釘付けになっていたのだ。跡形もなく崩れた廃屋の片隅に転がる、ロボットの完成品フィギュアの様な物…
「タイチョー!!何してるんスか!?」
エイジはふらふらとそれに近寄り、手を伸ばし、掴む。頭頂部が円形に凹み、両肩のアーマーが翼の様に大きくせり出し、3対6本の腕を持ち、非常に細い両足が尻尾の様にまとめられている、天使の様な、悪魔の様なフィギュア。いや、これは…むしろアレッツのブリスターバッグに似ている…カチッ!どこか触れた所にスイッチがあったらしい。
次の瞬間、フィギュアはアレッツを超える全高10m大に膨れ上がり、エイジの姿は消える。
「た…タイチョー!?」
エイジは光る空間に浮かんでいた。グサグサグサっ!!「ぐわあああぁぁぁっ!!」見えない無数の針が脳に直接突き刺さる様な激痛が走り、苦悶の悲鳴を上げるエイジ。だがそれが止むと、目の前の光る空間に、こちらを見上げるシノブの姿が浮かんだ。
「久野…君!?」
次の瞬間、エイジの脳裏に勝手に情報が流れ込んで来た。『久野忍、西暦203※年、※月※日生まれ、※※県※※市出身…』
(これは…久野君の個人情報…!?)
慌てて目を逸らすと、周囲の廃墟の情報が入って来る。
『山形市 人口約20万人…』
(宇宙人に破壊されたこの街に20万人もいる訳無いだろう!?情報が間違ってる…いや、古いのか…!?)
このアレッツもどきは、あらゆる情報を取得出来るらしい。まるでスマートフォンやモバイル回線のいらないネット検索だ。時々情報が間違っている点も含めて…それに、このアレッツの戦闘力自体も凄まじい。ブレード兼用のパーティクルキャノンが、それぞれの腕に、合計6機も…各々の腕を干渉させないように気を付けさえすれば…なら、
(平泉のホワイトドワーフの弱点を教えろ…!!)
情報は何も入って来なかった。地球上の情報でなければ駄目なのか、同じ宇宙人由来のため、アクセスを拒絶されたのか…なら、
(平泉のホワイトドワーフの行動履歴を教えろ!!)
情報が入って来た。平泉周辺から山形近郊までの広い範囲を飛行ユニットで飛び回り、地上を行く物を遠方からでもレドームで捉えると、左腕の遠距離狙撃用のパーティクルキャノンで撃ち、右腕と、足に擬態した2対目の腕のパーティクルブレードで斬りつけ…死角無しだ。だが…
(定期的に長期間行動していない時があるな…まさか、エネルギー切れ!?予測される次の休止期間は…)
ヒュン!!不意に『天使』の側にエイジが現れ、『天使』をフィギュア大に縮める。
「た、タイチョー…!?」
エイジの異変に戸惑うシノブだったが、エイジは言う。
「久野君…今すぐ平泉に戻るぞ。今、奴は動けん。」
※ ※ ※
同日、夜、平泉近辺の荒野に立ちすくむホワイトドワーフ。
いつからこうしていたのだろう…だが、そんな『彼』の思索は中断させられた。遥か山の中に、正体不明の機影…『天使』があったのだ。その6本の腕を全てこちらに向けている。
『天使』のコクピットの中で、エイジは呟いた。
「私達はこの先に行く、邪魔をするな!!」
タタタタタタァン!! 『天使』に全身を撃ち抜かれてホワイトドワーフは機能停止する。
※ ※ ※
翌日…
「タイチョー、みんな喜んでましたよ。あのホワイトドワーフのせいで、ここの人達は山を越えられず困ってたみたいっスからね…」
シノブの言葉に、エイジはフィギュア化した『天使』を操作しながら言った。
「軽井沢に暫定政府を名乗る者がいるらしいが、少年問題担当大臣と、青年問題担当大臣が生き残っているだけらしい。」
「その偉いさんに日本全土を再統治する事は...!?」
「出来ないだろうし、本人にもその意思は無いだろうな。つまり、もう日本全土を統治出来る者はいないと言う事だ。」
「それも、その『天使』様のお告げっスか?」
「後半は私見だよ。まあ、もっと現実的に、我々の目と手の届く範囲に、秩序と平和をもたらすしか無いと思う。それに、ホワイトドワーフは倒せたが、どんなに強力なアレッツがあっても、我々6人だけでは出来る事に限界がある。だから…」
エイジは窓の外を見つめる。遥か向こうには青葉山、手前に流れる広瀬川。ここは旧宮城県仙台市長町に造られた、生き残った市民の村…
「ここから、始めよう。」




