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4ー5 夜空に降る星 地上に黒い月

「ところで…ここは昔、有名な観光地だったのよね…」

気まずい雰囲気を払おうとしてカオリが言った。


「僕も昔、両親と一緒に来た事があったんですけど、街の南にある山にロープウェーがあって、山頂から夜景が見れたんです。」


今となってはロープウェーが動いてるとも思えないが…


「『砂州』っていうそうですよ。父と高校の先生の受け売りですけど、陸と島との間に、砂が堆積して、橋みたいに繋がって、そこに街が出来たんだそうです。」


「そう…でも…」


2人がいるのは、南に開けた半円状の湾の東側。そこから砂州が海に浮かぶ山まで延びている。目の前の海の向こうには、件の山、左手に砂州が見えるはずだが…


砂州は丸くえぐられ、山は陸と切り離されていた。


「『スペース()ウォーズ()・デイ()』の誤射か…宇宙からもこの街の夜景は見れたはずなのに…」

「あのー…カオリさん…」


「ひどいもんでしょう…全く、宇宙人ってのもとんでも無い事するよなぁ…」


不意に2人に、1人の男が、声をかけて来た。


「俺はSWDの時、あの山の展望台にいたんだ。」


男は目の前の海の向こうの、島になってしまった山を見つめた。顔の半分を覆う剛毛の髭で、表情はよく分からないが、口調は陰鬱だった。


「夜空から星が降ってきて、地上に黒い月が夜景を飲み込むのを、この目で見て…眠れず夜を過ごした翌朝…登る朝日の中、俺達のいる島が、本土から切り離されてるのを目の当たりにしたんだ…」


「た…大変でしたね…」

世界中どこでも、あの夜、この様な惨劇が起こったのだろう…


「あんた達、この辺じゃ見かけねぇが、何しに来た!?」


「あなたはこの辺の人なんですよね!?」

潮の匂いがするこの人は、昔はともかく、今は海に関わって生きている様だ。


「え!?あ、ああ、そうだが…」


「あのー、この辺で、動かせる船って、ありますか!?」

未だに気乗りしないアユムに代わってカオリが切り出す。

「この子、こう見えて、『バグダッド電池』の修理が出来るんですよ。そりゃもう、照明から調理器、インターネット、湯沸かしまで…」


「………」

顎の髭をいじりながらアユムを睨む男。道の向こうから、男の知り合いなのか、もう一人誰かやって来た。頭やら両手足やらに包帯をぐるぐる巻き付けてる。


「あなたのお住まいの電気系統を全部この子に修理させます。だから、船があるならそれで、あたし達を本州まで乗せて行っていただけませんか!?」


これが、さっきカオリがアユムにした提案だった。


「そうか…じゃあ…やってもらうか。」

隣の包帯男にツンツンと突かれて、髭の男は言った。


「本当ですか!?ありがとうございます!!」

深々とお辞儀をするカオリ。

「それで…何を…!?やっぱり照明とか…」

「それ頼む。」


「電磁調理器…」

「うん、それも…」


「お風呂…」

「ああ。」

これは大仕事だ。


「い…インターネット…」

「それもお願い。」

カオリには彼らが神様に見えてきた。


「とにかく現物を見てくれ。こっちに来てくれ…」


男に促され、着いて行く2人。上機嫌なカオリとは裏腹に、アユムの顔は注文が増える度に沈んで行った。


(何だろう…この違和感は…)


「あ…あのー…おじさん…」

「ん!?」

「こ…この辺って、海賊が襲って来ないんですか!?」


「……背に腹は変えれんからな。こういう世の中だ。どんな事をしてでも生きて行かなきゃ…」


「は…はぁ…」

どこかで聞いた言い回しだ…


「ほら、こっちへ…」

2人をどんどん路地裏に連れていく男たち。


チク


(背中が…痛い)


グラスウールを入れられた時の様に…


「ほら、ここです…」


路地の突き当たりのドアに連れて来られ、入る様に促される2人…どうせ部屋の中は空だ。



「カオリさん、後ろ!!」



カオリの背後には拳を握りしめた太い腕を振り上げる、髭の男。



ゴン!

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