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もしもの落星機兵ALLETS・1

後れ馳せながら、こういう物を考えてみました。

もしもあの時、こうなっていたら…!?

アユム中3の秋…


バキッ!!ダイダが指にほんの少し力をこめただけで、理科準備室の薬品棚の鍵は留め金ごと外れた。その中から目当ての物を見つけると、

「グェフフフフフっ…」

ダイダは醜悪な笑みを浮かべた。棚の奥から取り出したのは、グラスウール。砕いたら無数のガラスの針の様な物になる危険な代物だ。

「こるるぇを、渡会(わたるるぁい)の背中に入れ(いるるぇ)て、バンバン叩けば…グェフフフフフっ!!」

その時、グラスウールの尖った先端が、ダイダの指先に刺さる。チクッ!!

(いて)っ!!」

思わずダイダが振った腕が、薬品棚に当たり、その衝撃で耐震用の留め具を吹っ飛ばし、グラッ!!危険な薬品が大量に並んだ薬品棚が、ダイダの上に倒れて来る。

「グェ…」 ガラガラガラガラ…ガチャーーーン!!


「い、今の音は何だ!?」「理科準備室からだぞ…」

音を聞き付けた教師が駆けつけるが、

「う………っ!!」

異臭に教師は袖口で鼻と口元を覆う。そこにあったのは、倒れた薬品棚と、割れた薬瓶の破片と、辺り一面に撒かれた危険な薬品と、それらを残らず全身に被ったであろう、学生服の児童の、薬品で焼けただれた腕…


     ※     ※     ※


教室の一番後ろの席には、花瓶が置かれていた。まるで大昔のいじめの手段だが、実際にこの席の主は死んだのだ。その席を囲むようにクラスメート達がヒソヒソ話している。


「倒れて来た薬品棚の下敷きになったんだって…」「事故!?んな訳無いだろう!?ダイダだぜ!?良くない事を考えてたに決まってる。」「渡会をいじめる小道具を見つけたんだろう。何か知らんけど…」


教室の一番前の席では、そんなクラスメートのやり取りに興味も示さず、アユムは机の中の教科書を鞄に詰めていた。


「…渡会をいじめてた罰が当たったのかなぁ…」

誰かがボソッと言った。

「お前、道徳の教科書かよ!?」

「じゃあお前、今すぐ渡会を殴って来いよ。」

阿部が言ったが、言われた男子は何も言わずに俯いた。

「お前で無くてもいい。誰か、渡会を殴って来てみろよ。」

誰も、行動に移る者はいなかった。


ガタン! 椅子を引いて、アユムは黙って教室を出て行った。


それ以降、アユムへのいじめは無くなった。軽い無視もいじめに該当するのかもしれないが、物心ついてからずっと、他人から攻撃され続けてきたアユムにとって、周りの人から何もされない新たな現状の方が平穏を感じられた。


     ※     ※     ※


校長室…


「最後に薬品棚を触ったのは君だね…!?」

校長はアユムとダイダの担任の女教師を咎めた。


「ちゃ…ちゃんと施錠しました!!」

女教師は反論したが、


「鍵の留め具は釘から抜けてたそうじゃ無いか!閉めた時に気づかなかったのかね!?」

「被害者の児童が壊したんです!!あの児童なら、素手で引き抜けます!!」

「そんな非常識な話が信じられる訳無いだろう!?」

「ですが…!!」

「仮にそれが事実だとしても、そんな問題のある児童を君はずっと放置していたんだね………!?」

言われて女教師は俯いた。


「今後の事は追って通達する。今日はもう、帰りなさい…」


女教師は教壇を追われた。


     ※     ※     ※


裁判所は学校側の監督不行き届きを認め、管轄する市に賠償金の支払いを命じ、それを受け取ったダイダの母親は街を出て行った。

自分の腹から産み落とした猛獣の飼育に疲れ果てていた彼女の去り際の表情は晴れやかだったらしい…


     ※     ※     ※


渡会アユムの中学生活最後の数ヵ月は穏やかに過ぎて行った。アユムの父親は会社からの仙台支社転勤辞令に単身赴任を選び、アユムは地元の高校に進学する。


お盆休みで父親が一時帰宅していた際にSWDに被災、内地との(ゆかり)の無いアユムは無茶な旅を行う動機が無く、アユムと出会わなかったカオリは記憶を失ったまま、旭川郊外に出来た村で生きて行く。


     ※     ※     ※


西暦2052年、SWD当日、山形県山形市郊外…


窓の外が、赤く燃えていた。ネットによると、突如現れた宇宙人が、地球周辺で艦隊戦をやらかし、その流れ弾で地球全土が火の海になっているらしい。


薄暗い部屋の主である、引きこもりの青年は、諦観したように、クッションのとうにへたれた椅子に座り込んだ。幼稚園から退学した高校まで、いじめられ続けた人生だった。だが、それもようやく…


『グラスウール事件』が起きなかった事で、『ウォーク・ストレンジャーの手記』はネットに上げられる事はなく、山形の引きこもりは『生きたおもちゃ』になることも無かった。


彼は目を閉じる。火か、煙か、熱か、大量の瓦礫か、あるいは宇宙人の宇宙船とやらが直接落ちてくるか…何であれ、次に訪れる死神が、彼にとっての天使だ…


     ※     ※     ※


翌西暦2053年、春、旧栃木県宇都宮市…


薄暗い廃墟の片隅で、少女は老人に言った。


「お願いです!どうか、私と一緒に来て下さい!!」

老人の傍らには、彼の孫とおぼしき小学生くらいの女児が、不安そうな顔で見つめていた。


「…ワシはこの通りの身体じゃ…あんた等の所に行っても、畑仕事なんか出来ん。無駄飯食いにゃなりとうない…ゴホゴホっ!!」最後は咳き込む老人。


「あの日…生き残っただけでも有難い事なんです…命を粗末にしないで下さい…」

少女…佐藤ルリは言った。あの日…SWDでも彼女は幸運にも、家族全員生き残れた。あの夜は星が綺麗な夜だったから、例えばもし、ルリが星でも見に家を出ていたら、彼女は死んでいたかも知れないのだ。だから…ルリは老人に深々と頭を下げた。

「どうか…私にあなた達を助けさせて下さい…。」

だから今、彼女は定期的に廃墟を巡っている。未だこの過酷な環境に留まっている人達を説得して、村に入ってもらうために…


気まずい沈黙がどれくらい流れただろうか…老人が弱々しい声で言った。


「ワシはもう自分の事は諦めとる。じゃが………この子を連れて行ってくれんか………!?」

側の孫娘を指差す。


逡巡も判断も一瞬だった。ルリは女児に向き直り、

「あなた、名前は…!?」


「は…ハジメ。小鳥遊ハジメ。」

ためらいがちに女児…ハジメは答える。


「ハジメちゃん…私は佐藤ルリ。埼玉から仙台に引っ越して、ここ宇都宮にはおばあちゃんの家があるだけで、1人も知り合いがいないの。だから、ハジメちゃん…あなたが私の友達…いえ、」


ルリは自分の名前と同じラピスラズリの原石の入ったお守り袋を取り出し、ハジメの両手にぎゅっと握らせ、


「妹になってくれたら嬉しいんだけど…」


     ※     ※     ※


同年、夏、北海道、墜落した宇宙船内…


右のカメラアイが金色のプロトアレッツを前に、身長2mの大男…『網木ソラ』と呼ばれる筈だったアミキソープ人、『南軍主流派』の調査員は言った。


「あなたヲ探してたのヨ!あの事件ノ数少ない生き残り!!一緒にアミキソープに帰りマショウ!!」


するとプロトアレッツの金の右目から腹に大怪我を負った男が現れ、


「私は何がなんでも生きてアミキソープに…配偶者の下へ帰らなければならない。彼女の身の安全を保証してくれるなら、君に着いていく事にしよう。」


東日本最強のアレッツとなる筈だったその機体は、アミキソープへと帰って行った…


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