Side A-8 蛇足
時は遡る、『地球侵攻派』が攻めて来て、撃退した直後…
「消えてなくなれ!この地球から!!僕達の明日から!!」
『ぐぅ…や、やかましいわ!!貴様の様な異世界のガキに何が分かる!!』
『アミキソープを救うには、地球を奪うしか無かったのだ!!』
『貴様等がおとなしく、私達に滅ぼされていれば、全て丸く収まってたのだ!!!』
『イーカゲンにしなさいヨ、アンタ達!!』
空中を飛ぶ紫の魚型アレッツから、ソラが叫んだ。
『アンタ達のしてる事ヲ、この国デハ「蛇足」って言うのヨ!!』
『だ…』『蛇足…!?』
『足の無い蛇ノ絵ニ足ヲ描いたラ、それはモウ蛇じゃ無いノ!!地球もアミキソープも復興ト問題解消へ向かって進んデ行ク!今更地球ニ侵攻したっテ、それハ完成した蛇の絵ニ足を描き足す様ナ余計な行為なのヨ!!』
『黙れ売国奴が!!私達は我慢ならんのだ!!アミキソープの愚民共の、「これで世界は平和になった」という、えへらえへらと腑抜けた笑い顔が!!』
するとソラの声が一段低くなって、
『…安心ナサイ。アンタ達ガこれから向かうのハ、法廷ト牢獄。誰ノ笑い声モ届かない場所ヨ。アー、もしかするト、13条4項案件デ、絞首台カモ…』
ピっ…!!電子音が聞こえると、空中の楕円球形宇宙船と、地上の直方体型強襲揚陸艦の表面に赤い筋が走る。
『な…!?こ、これは…』『コントロールが効かん!!』『ハックされた!?いつの間に!?』
『アミキソープに帰るわヨ、犯罪者ノ皆サン…!!』
楕円球型宇宙船が空中に消え、強襲揚陸艦が離陸する。
『待て!待ってくれ!!』『アミキソープに帰りたくな…』『こんなはずじゃ…』
地球侵攻派達の声が聞こえなくなり、強襲揚陸艦も1艘1艘と空中に消えて行く。残されたソラ機が言う。
『オホン…地球ノ皆さんニ、ワタシの国ノプレジデントカラ、伝言ヲ預かってるワ。読むワネ。
「2公転周期前の地球への我が同胞による侵略未遂及び破壊行為に対して、心から遺憾の意と謝罪を申し上げ、1日も早い復興を祈願する。なお、我がアミキソープは、地球上にある全ての物品の所有権を放棄し、地球人へと譲渡する物とする。」
以上ヨ。それジャサヨナラ。』
そう言い残して、紫の魚型アレッツは空中へと消えて行った。
残された地球人達…『ミレニアム王国』と山形の自警団員達は、数刻黙った後に、
『『『な、何じゃそりゃ〜〜〜っ!!!』』』
怒りを爆発させた。
『ふざけんな!!何が「地球の所有権を放棄」だ!!』
『地球は元から俺達のもんだ!!』
『今更宇宙人共にとやかく言われる覚えは無い!!』
『地球侵攻に反対してたって言っても、アミキソープ星人なんてみんなあんな物なのか!?』
「ねえ、アユム…ソラさんのあれ、どういう意味だと思う…!?」
リアシートのカオリの問いに、アユムは、
「正確には『地球上にある全ての物品の』ですからね…えーっと…僕達が乗ってるアレッツは、元々アミキソープ星人の物を鹵獲して使ってますから、その事なのかな…」
『だとしても、2年間も放っておかれた物を、今更許可を取る義理など無い!!』
『畜生…アミキソープ星人どもも俺達と同じ目に合わせてやろうか…』
『駄目だよ、いきなり喧嘩腰は…まず話し合いで賠償を求めないと…』
『どっちにしても、あいつらはもう行っちまった。』
『くっそー…せめてもう一つ、「アルゴ」があればなぁ…』
その時、アユムにはたと閃くものがあった。
「あのー…」
喧々囂々の論争の中でおずおずと発言するアユム。
「『地球上にある全ての物品』って、今回、アミキソープ星人が地球に持ち込んで、置いて行った物も含まれるんですかね………!?」
真意を計りかねている皆に、『スーパーノヴァEX』はゆっくりとある方向を指差す。そこにあったのは、何故か1艘だけ曳行されずに残された、アミキソープの強襲揚陸艦。
単独で大気圏突入と、再突破が可能で、恐らく宇宙の航行も可能で、大量のアレッツを搭載していたという事は、大量の人員を乗せる事も可能な、アミキソープへ行って帰って来れる手段。
一同は再び数刻黙った後に、叫んだ。
『『『あ!!!』』』
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それから、1年半の時が駆け足で流れた。
アミキソープ人の残した強襲揚陸艦は、『アルゴⅡ』と名付けられ、『ミレニアム王国』と山形の共同で内部の解析が行われ、一通りの航行法が判明すると、一旦仙台湾へ移動させられ、そこから更なる解析が進められた。そして、乗組員の選抜と訓練と、宇宙人と戦争をするか話し合うか、友好を求めるか賠償を求めるかの、長い長い議論が行われた。何せ相手は、地球侵攻派の蜂起にかこつけて内部反乱分子を一掃し、地球人とのコンタクトと謝罪を成し遂げ、『文句があるならこっちまで言いに来い』と暗に言ってのけるしたたかな人物なのだ。対応を間違える訳には行かない…
そして、年が明けた西暦2056年初頭、
『アルゴⅡ』は乗組員を乗せて、仙台湾からアミキソープへと出航したのだった。
だが、その乗組員名簿の中に、渡会アユムの名前は無かった…
※ ※ ※
※ ※ ※
ヤブ医者ババァの病院の待合室に、アユムはユウタと、富士野先生と共にいた。
椅子から立ち上がったり、座ったり、部屋の中をウロウロ歩き回ったり…
「落ち着け。」
ユウタが言った。何だかいつもと立場が逆である。
「あ”あ”あ”…っ!!」
奥から聞こえるカオリの叫び声に、アユムは思わず奥へ走って行こうとして、ユウタに止められる。
「だから落ち着けって!!」
「でも………」
「お前が行っても何にもならねえだろう!!」
病院の奥の方からは相変わらずカオリの苦しそうな声が聞こえる。もう何時間も、カオリさんは戦っている。待合室のラジオからは、『アルゴⅡ』の出航のニュースが聞こえるが、アユムにはもう、それどころでは無い。
「う”う”う”う”う”………あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”〜〜〜〜〜っ!!!!!」
カオリの叫び声が一段大きく響き、一瞬の静寂の後、オギャァ、オギャァ…微かな、だがどこか力強い泣き声…産声が聞こえる。
アユムと、ユウタと富士野先生が、固唾をのんで奥の方を見つめる中、ガチャ…ドアが開く音がして、ヤブ医者ババァが歩いて来る。
「入っていいよ。」
ババァに促されて、アユムは奥の部屋…分娩室に入って行くと、そこにはベッドに寝かされたカオリ。疲労困憊の様子だが、入って来たアユムを見て、誇らしげな笑顔を見せ、
「アユム…やったよ………」
両腕に抱きかかえていた、布に包まれた何かを、アユムに差し出す。
「産まれて来てくれたよ!!」
アユムはそれをこわごわと受け取ると、布の中にいたのは、オギャァ、オギャァと無く、真っ赤でしわくちゃなサルの様な顔の、文字通りの赤ん坊。この世で最も愛しい存在。
名前はもう、2人で話し合って決めていた。アユムは赤ん坊を抱き上げると、
「ようやくまた会えたね………桂。」




