Side A-3 アミキソープの危険な異端者
広瀬川の河原に不時着した魚型可変アレッツ。その側にアユムとフィリップ、そして疲労困憊でへたり込むソラ。
「…わ、ワタシ達アミキソープ人ハ、あれカラアユム君達にもらったバグダッド電池の研究を進めテ、量産化に漕ぎ着けたノ。」
2年前の夏、アミキソープ人は突如地球周辺に大艦隊を率いて現れ、地球全土を攻撃し、焦土と化した。その背景には地球の石油を奪うという目的があり、アミキソープ人は古代人の遺産でロボット兵器や宇宙船を有するだけで、それ以外のテクノロジー水準は地球と同程度かそれ以下で、地球人が到達した石油代価エネルギーにすら達していなかった。だがその問題も、アユムが造り、ソラがもたらしたバグダッド電池のサンプルによって解消されつつあった。
「北も南モ無く、世界一丸トなって、バグダット電池の改良ト増産に突き進んで行った。長年ワタシ達ヲ苦しめてきた呪いカラ解放されタ喜びに、今のアミキソープハ満ち溢れているワ…」
「…その物言いは無神経なんじゃないかな…君等のお仲間のせいで、地球はこんなに滅茶苦茶になったんだろう…」
フィリップが怒鳴った。アユムと共に広瀬川の河原まで走ってくる間に、彼も見てきた。廃墟となった仙台の街並みを。自分達の世界よりも遥かに高度なテクノロジーを有した上で、徹底的に破壊された繁栄の残骸を…
「…ゴメンナサイ。無神経だとハ思ったワ。デモ、事実トシテ、アミキソープの現状ヲ知って欲しかったノ。」
「フィリップさん…僕は気にしてませんから…」
ソラの謝罪に、アユムがそう続けた。
「アユム君アリガトウ。とにかく、アミキソープは自分達の力デエネルギー問題ヲ解決出来る。モウ地球ニ迷惑ハかけない…デモ………私達ノ輪の中ニ加われナイ者達…私達と同じ喜びヲ感じられナイ者達ガいたノ…」
「『地球侵攻派』………地球の石油じゃなく、最初から地球の征服そのものが目的だった人達ですね…!?」
アユムがそう言ったその時…
青い空に、地上からでも見える無数の白い点が現れた!!
※ ※ ※
同時刻、地球衛星軌道上…
宇宙船のブリッジで、複数の男達が、忌々しそうに青い地球を見下ろしていた。
「地球人が余計な事をしてくれたせいで、救世の英雄となるはずだった私達は、地球人皆殺しの極悪人扱いだ…」
「地球征服後の開拓の利権のために投資した莫大な資金が回収出来ん。あいつらのせいで…」
「あの星では子供でさえ扱える化石燃料代価エネルギーを、大の大人が何百人も揃ってたどり着けなかったのかと、私達科学者は良い笑い者だ!!」
「石油代価エネルギーのせいで、アミキソープ最大の油田を有していた我が国の地位は地に落ちた!!」
「温室効果で我が国は遠からぬ未来に海に沈む。我々には地球が…沈まぬ大地が必要なのだ!!」
「聞けば地球人は我々アミキソープ人にそっくりだそうじゃないか。若い美女を連れ帰って金持ちのヒヒジジイに売りつければ大儲けだ!!」
あるいは激昂し、あるいは邪な野望を吐露した後、彼等は再び地球を見下ろし、睨む。
「最早我々はアミキソープに居場所は無い。我々にはもう、地球という新天地を手に入れるしか無いのだ…!!」
※ ※ ※
同時刻、アユムの工場…
「ゴメンナサイ、こんな事シカ出来なくテ…気付いた時にハ奴等ハもう地球へ向かった後デ、アイツ等より先回りシテ、アナタ達に地球の危機ヲ知らせに来たノ。」
そこには既に、フィリップの子供のスティーブ達と、孫のウィル達も合流していた。
「大丈夫ですよ、ソラさん…僕に加えて、『ミレニアム』自警団の皆さんも、山形の最上さんも来てくれました。みんなで地球を守りますよ…」
アユムが見上げる青い空には、無数の真昼の流星雨。アミキソープ『地球侵攻派』が、地上へと降下しているのだ。
※ ※ ※
同時刻、地球降下中の宇宙船内…
「我々は2公転周期前の野蛮人どもとは違う。地球へのダメージは最低限にし、未開のサルだけ駆逐してくれる!!」
『旦那ぁ…皆殺しの時間はまだですかぁい!?』
艦内通信で明らかにまともでは無さそうな男の声がする。
「…今、大気圏突入中だ。分かってるだろう!?」
ブリッジの男が忌々しそうに言うと、
『…早く暴れさせろよなぁ…でないとてめぇ等をブっ殺しちまうぜぇ…』
そう言い残して通信は切れた。ブリッジの男は、はぁ、とため息をつくと、
「奴はホワイトドワーフ化しても狂気に陥らなかった貴重なサンプルだと聞いたが…!?」
「…彼の精神状態は生前のまま保たれています…」
隣に座った男の言葉に、再び、はぁ…と、ため息をつく。
「コードネーム『WD-BH』…あんな奴しか戦力が無いのか…だが使い潰すには丁度良い。」
大気圏突入中のメインモニターには、地球表面の地図が映され、日本の東北地方…仙台の辺りにマーカーが置かれている。
「あの大陸に程近い弧状列島を橋頭堡とするために、余計な事をしたアユム・ワタライを始末するために、最も大きな島の北東部を占拠する!!」
※ ※ ※
同時刻、アユムの工房…
「行って来ます、カオリさん!!」
自室のベッドの下から取り出したブリスターバッグを片手に、はるか上空から降下中の宇宙船を見やり、アユムは叫ぶ。
「待って、アユム!!あたしも行く!!」
カオリが呼び止める。
「カオリさん…今度こそ命の保証は出来ないんですよ!?」
だがカオリは、
「2人で戦って、2人で生きて帰ろう。だからアユム…戦いが終わってからでいいから、ここ数日、あんたが何をしてたのか教えて!!」
「カオリさん………」
彼女の声音に不安を感じ取ったアユムは、カオリをぎゅっと抱きしめる。
「あ、アユム!?」
狼狽するカオリに、アユムは、
「……分かりました。戦いが終わったらちゃんと話します。だから…2人で戦って、2人で生きて帰りましょう!!」
アユムの匂いと温もりに、彼に後ろ暗い理由が無いと感じたカオリは、戸惑いながらも、その背中を抱き返した。
※ ※ ※
同時刻、降下する宇宙船ブリッジ内…
ボ ン ! はるか下の方から爆音と振動があった。
「な、何だ!?」
男達の中のリーダー格が叫ぶ。
「『WDーBH』です!!中からハッチのロックを開けて、飛び出して行った様です!!」
それを聞いて、リーダー格の男は歯噛みする。
「あの狂犬が…堪え性が無いのか…!!」
※ ※ ※
同時刻、『ミレニアム王国』郊外…
集結したアユムやエイジを始めとする『ミレニアム王国』、山形自警団の連合軍は、降下する宇宙船群の中から不意に一本の白線が枝分かれし、それが段々大きくなっている事に気づいた。こっちに向かって来る!!
『な、何だあれは!?迎撃体制!!』
『ミレニアム王国』自警団の隊長機が叫び、何機かのアレッツがスナイパーライフルを構えようとする。が…
ス っ…!! こちらに急接近するそれからゆっくり伸びた黒い線は、スナイパーライフルを持った『ミレニアム王国』のアレッツに近づいて来て…次の瞬間、その機体の上半身が消える!ややあって崩れ落ちる残された下半身。
『か、片倉隊長〜〜〜!!さ、佐竹が!!』『ひ、怯むな〜〜!!迎え撃て〜〜〜!!』
片倉と呼ばれた自警団長の号令で、アレッツの長銃身からパーティクルの弾が降下体に発せられる。だがそれは、お返しとばかりに降下体から伸びた黒い線に触れた途端に消え、そのまま伸びた黒い線は、長銃身持ちアレッツの左膝下を打ち抜き、消滅させる。
『た………隊長…』
ジェネレータロストの警告が鳴り響くコクピット内で呻くパイロット、その意識も次の瞬間消えた。降下体の第二射で、コクピットが消えたのだ。第三射は、後方にいた蒼いアレッツに伸びる!!
「あ、アンブレラウェポン、シールドモード…!!」
蒼いアレッツ…『スーパーノヴァEX 』はアンブレラウェポンの先端から傘の様な半透明なパーティクルのシールドを展開する。が…段々迫って来る黒い線に、さっき撃たれた2機の状況が脳裏に浮かぶ。あの黒い線は…パーティクルを消していた!相互干渉せずに、一方的に!!
「だめだ!これでは防げない!!」
咄嗟に『スーパーノヴァEX』はシールドを持つ腕を伸ばしたまま両膝を折り、のけぞる!やはりパーティクルのシールドは黒い線の当たった箇所が消え、そのまま『スーパーノヴァEX』の上半身があった場所を通過し、のけぞった上半身と頭部をぎりぎりかすめる。
ガチャン!! 連合軍のアレッツ部隊の前に降下体が降り立つ。アレッツの様だが、全身真っ黒のカラーリングで、胴体のコクピットブロックが無く、代わりにカメラアイは金色………
『いよぅ………手前ぇが「スーパーノヴァ」かぁ!?』
仰け反った姿勢を戻そうとする『スーパーノヴァEX』のコクピットに、その黒いアレッツ…黒いホワイトドワーフから全回線で通信が入る。
『手前ぇ強ぇんだろう………いたぶり甲斐がありそうだぁ…言っとくけど何やろうが俺にゃ無意味だぜぇ…俺にやられりゃぁ、誰も彼も消えちまうんだからよぉ…あぁ自己紹介がまだだったなぁ…俺の名前は………人間だった頃のは忘れちまったがぁ…』
ギ ン!! 黒いホワイトドワーフのカメラアイが金色に輝く。
『コードネーム「WDーBH」…てめぇ風に言やぁ、「ブラックホール」ってぇんだぁ!!!』




