4ー4 ぼくのかんがえた うみごえそうび
「海峡越えには僕のアレッツを使います。」
そう言うアユムに、カオリも、
「いいわね。あれで、空を、ピューーーーっ、て…」
「飛べません。」
「あら…」
ガクっとコケるカオリ。
「じゃ…じゃあ、海を…」
「まぁ、そういう事になりますね。」
そう言いながら、アユムはタブレットのアレッツ改造アプリを起動させる。そしてさも自信ありげに、
「見てください…僕自身、この旅の序盤の難所は、津軽海峡越えだと考えていました。だから、以前からずっと準備して来ました。アレッツ改造サイトであれこれ調べて、マテリアルを貯めて、海峡越えのためのオプションパーツを造ったんです。」
先日の魚型可変アレッツとの戦闘で、倒した相手の脚を手に入れる事が出来たのが幸いだった。あれを改造して、ジェネレータ付きの水中用推進機を造ったのだ。流線型の、後ろにスクリューが付いている物だ。アレッツをうつ伏せに寝かせて、その下に舟形のフロートを敷き、そのまた下に、件の水中用推進機を取り付けた。
ただし、そうやって自信満々にプレゼンした画面の中のアユム機は………先に述べた形態を、まっすぐ立たせた状態で写されていた。
前から見えるのは、ほぼ、フロートと推進機だけ。
「…見えないんだけど…」
「ああっ、すみません。フロート外しますね。」
画面を操作してフロートを消して見せる。
…以前にも述べたが、アレッツの移動系は下半身に集約されている。従って、水中用推進機も、下半身…股間に着けられていた。股間から太くて長い水中用推進機が…
「ねぇ、アユム、これっておち…」
「違いますからーーーっ!!」
結局、股間に棒状の物を付ける運命から逃れられなかったアユム機であった。
「ほら、これを、こうやって、海に浮かべて進むんです。船みたいに…」
そう言って画面の中のアユム機をうつ伏せに寝かせ、透明化させたフロートを戻す。
「今回は長距離移動だけなので、胸のコンバータや腕へのエネルギー供給をカットして、全エネルギーを移動に使います。」
だが、それを見たカオリの顔はどんどん曇っていった。
「ねぇ、アユム、これ…人型をしてる意味無いんじゃない!?」
「まぁそうですね。腕も足も動かさず、フロートの上に乗せるだけですから…」
「なんか…ロボットって、思ったよりすごくない。空も飛べない、海も泳げないなんて…」
だがアユムはカオリの意を解せず、
「そこがいいんですよ。リアルロボットアニメは…」
カラカラ笑いながらアユムが言う。カオリは画面上の浮き具の上に寝そべるロボットを見ながら、
(だめだ…これ、絶対上手く行かない…)
「ね…ねぇ、アユム…あなた、アレッツ持ってるけど移動にスクーターを使ってるわよね…同じ様に、津軽海峡も、船で越える気は無いの!?」
ここは海が近い。使わなくなった漁船があるかもしれない。
「僕は船の修理も操縦も出来ませんよ。廃墟のジャンクとは元の値段が違うんですから、たとえ壊れてても、船まで譲ってくれる人はいないと思います。」
「青函トンネルを行くとか…」
「途中で崩落してる危険性も、トンネル内を進んでる最中に崩落する危険性もあります。」
「………っ」
さすがに言葉が出てこなくなるカオリ。
「大丈夫です。津軽海峡の幅は下北半島側とも津軽半島側とも約20km。もしここに舗装された橋があったら、スクーターの法定速度でも40分で渡り切れます。実際、泳いで渡った人も何人かいるそうです。アレッツはエネルギー消費の問題で、長距離移動には向いてませんが、これくらいなら何とかなりますし、これしか方法はありません。」
カオリは理解した。この子が無能なのでも無謀なのでも無い。課題そのものがこの子の…というより、今、この地上にいる誰の手にも余る物なのだ…
「これから南西へ向かい、渡島半島の南端から、対岸の津軽半島へ渡ります。ちょっと待ってて下さい。カオリさんも乗るんだから、コクピットを複座にしますね…」
タブレットをいじりながら言うアユムに、
「ね…ねぇ、アユム、それもいいんだけど…」
※ ※ ※
10分後、カオリからのある提案から、廃墟を歩く2人…
「………アレッツ改造サイトにも水陸両用魚型可変アレッツのレシピは掲載されてて、この辺を荒らし回ってる海賊もそういうの使ってて、海岸線沿いの水中移動には実績があるんです。僕の作ったオプションパーツも、そのパーツを使ってるんです。僕の計画は完璧なんです…それなのに…ブツブツ…」
…アユムはそのカオリの提案に不満な様だ。
「…じゃあなんで、あんたのアレッツをその魚型に改造しないのよ!?その方が確実でしょ!?」
「…人がもう一度イルカに進化しなおすくらいコストがかかるんです。それに海峡を越えた後はずっと陸上の移動になりますから、意味が無いんです…何より水陸両用可変機は水中移動にウェイトを置いてて戦闘には不向き…」
「ああもういい!!とにかく…だったら尚更、アレッツは戦闘用に割り切って、海を渡る方法は別に考えましょう!」
「でも…」
カオリは、はぁーーー、とため息をついて、それから幼子を諭すかの様に、
「ねぇ、アユム…あんたの観てたロボットアニメでは、どうやって海を渡ってたの!?」
「………主人公は大抵軍隊に所属してるので、戦艦や空母で渡ってます。水中戦をしない作品も多かったです。日本では海洋ものはヒットしないというジンクスもあるから…」
「ロボットで戦う場合はどうしてたの!?」
「水陸両用機が敵として出てました。主人公機はそのままで…中には空を飛べるのもあるから、空から海中を攻撃したり…唯一あった水中戦用オプションを着けた事例を参考に作ったのが、『あれ』で…」
「…じゃあ、もう答えは出てるんじゃない。船で渡る手段を探しましょう。アレッツを使うのは最後の手段という事で…」
「でも……」
「…何でも自分だけで解決しようとするのは止めなさい。」
(この子は人付き合いが苦手って言ってたけど…だからなのか、そういう傾向があるのよね…)
ピシャリと言い放つカオリに、
「……う…うん…」
(ううう…色々と思い通りに行かない…やっぱり一緒に行こうなんて誘うんじゃなかったかな…)
言い返せないアユムであった。はっきり言って苦手なタイプだ…




