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25ー16 星降る夜に

同日、夜…


ベッドに横たわるカオリ。まるで眠っているかの様な、穏やかな表情だ。


「カオリさん………」


ベッドの横で俯いたまま立ってカオリを見つめるアユム。ピピピ…不意にスマートフォンの着信音が鳴る。相手は…エイジだ。ピッ!電話に出る。

「…はい…」

『もしもし、アユム君!?君に聞きたい事があるんだが、今いいか!?』

関を切ったかの様に、アユムの両目からボロボロと涙が零れる。

「最上さぁん…カオリさんが…カオリさんがぁ………!!」

電話の向こうのエイジも異変に気付く。

『アユム君!?か、カオリ君がどうした!?』

「ホワイトドワーフに襲われて…うっ…ううっ………」

後は、言葉にならなかった。電話の向こうのエイジも、画像で見た『星落とし(スターシューター)』を射出する『スーパーノヴァ』からおおよその事情を察し、

『そ…そうか…では改めてお悔やみに行くよ。今日はこれで失礼する。アユム君もゆっくり休むといい…』

…通話、終了。再びベッドの上のカオリに向き直るアユム。お悔やみ、か…視界が段々潤んできた。僕のせいで、僕のせいでカオリさんが………


「カオリさぁぁぁぁぁん!!!」

ガバっ!!カオリの胸にすがりついて号泣するアユム。ダイダを倒し、世界は平和になったはずなのに、この虚しさは何だ………


ゲシっ!! 何者かに後頭部を掴まれるアユム。


「…どこに顔埋めてんだ、このスケベ!!」


後頭部を掴む謎の手に引っ張られて、カオリの胸から引き剥がされるアユム。痛い痛い痛い!!掴んでいたのは、シーツの下から伸びたカオリの右手だった。


「…ったく!何泣いてんだ、アユム!!」


カオリが目を開いて、ゆっくりと起き上がる。滝の涙を流すアユムは、


「だってカオリさん…もう少しで死ぬ所だったんですよ………」


     ※     ※     ※


数十分前…


ドンドンドン!! ヤブ医者ババァの病院のドアを乱暴に叩く音が響く。


「………うるさいねぇ…うちはそろそろ休診だよ…」

「ヤブ医者ババァさん!!!」

ババァが入口のドアを開けると、そこにはぐったりしたカオリを背負ったアユムの慌てた姿があった。

「…あたしがそう呼ばれてるの知ってるけど、面と向かって呼んだのはあんたが初めてだよ…」

「お願いですヤブ医者ババァさん!!カオリさんが死んじゃったんです!!何とかして下さい!!」

「…それじゃ連れて来る場所が違うよ。医者じゃなく坊さんの所に行きな。」

「カオリさん、ホワイトドワーフに地面に叩きつけられて、いっぱい血を出して死んじゃったんです!!」

「…だから死人は医者には治せないよ!!」

「カオリさん死んじゃったんです!!こんなに温かいのに死んじゃったんです!!」

「………そりゃ死後しばらくは体温もある程度あるだろうけど…」

「カオリさん温かいし、息もしてるのに死んじゃったんです!!」

「そりゃ死人でも体温や呼吸が…ん!?」

「温かいし息もしてるし脈もあるのに死んじゃったんです!!お願いします治して下さい!!」

「体温も呼吸も脈もあるって…」

「お願いします!!ヤブ医者ババァさん!!」


「アユム君………あんたそりゃあ、カオリちゃん、生きてるんじゃないのかい…!?」


「へ………!?」


呆けるアユム。しばらく黙った後、


「で…でも、ホワイトドワーフに地面に叩きつけられてぐったりして…」

「地面に落とされたなら、ショックで気を失う事もあるだろうね…」

「いっぱい血が出て…」

「…この子の体にも服にも血の跡なんて無いよ。」

「ホワイトドワーフの腕が、カオリさんの血で真っ赤に………元々あんな色だっけ、あいつの腕は…」


つまり………ダイダがカオリを殺したと思ったのは、全部、アユムの勘違いだった。


「………………ま、いいか。あいつ悪い奴だし…」


ようやく落ち着きを取り戻したアユムに、呆れたヤブ医者ババァは、


「…一応、カオリちゃんの身体は検査しとくよ。あとアユム君、あんたも頭の検査が必要なんじゃないかい!?」

「ぼ…僕は正常ですよ!!」

慌てて後ずさるアユムに、ヤブ医者ババァは、

「…さっき言ったホワイトドワーフって、アレッツみたいなロボットの事だろう!?アレッツを無くしたあんたがどうやってそんな物から逃げられたんだい!?あと、あたしゃ見たんだよね…名取川の方で、空に伸びる光の柱みたいなの…」

「ぎくぅっ!!」

ヤブ医者ババァはニヤァと笑い、

「安心しな、あたしは口が固いんだ。でもこの機会にあんたへのツケをまとめて精算しとこうかねぇ…カオリちゃんとあんたを診察して、診察2回分のツケをチャラにしてもらおうか…」


     ※     ※     ※


こうして、カオリはヤブ医者ババァの診察を受ける事になった。診察の結果は『身体にどこも外傷は無し』。ホワイトドワーフの腕から落とされたはずなのだが、『武術の達人だそうだから、咄嗟に受け身でも取って、落下の衝撃を全身に分散させたんじゃないか』とババァは言っていた。そして最後にこう付け加えた。『あと、あんたの頭の中はあたしにゃ計り知れないよ。だからくれぐれも悪用すんじゃないよ。』


診察が終わって病院のベッドに寝かされ、気絶している割には、まるで寝ているかの様な安らかな顔のカオリにアユムが泣きついた時、カオリの意識がようやく回復したのだ。


「ホワイトドワーフからあたしを助けてくれたんだね、ありがとうアユム!!」

「カオリさん!!」


ひっしと抱き合う2人。そして少し離れ、互いに見つめ合う事数秒。ゆっくりと目を閉じ、どちらからともなく顔が近づき………


「…そのベッドはギックリ腰のじいさんばあさんも寝てたんだけどいいの!?」

ヤブ医者ババァが入ってきて、2人は慌てて離れる。

「うちは病院だよ。元気な奴は出て行きな!!今日は大変だったみたいだから、家帰って早く休みな!!」


…こうして、アユムとカオリは、ヤブ医者ババァの病院を追い出された。辺りはすっかり夜。2人並んで仙台の廃墟を北へ歩く2人。

「あれが北斗七星、ひしゃくの先端を5倍に伸ばした所にあるあの星が北極星です。それから…」

アユムは天頂を指差し、

「ひしゃくの柄を伸ばした先に、うしかい座のアークトゥルス、その先におとめ座のスピカ、その隣がしし座…」

夜空の星を案内するアユムの横顔をうっとりと見つめるカオリ。アユムの腕に自分の腕を回して来る。

「カ…カオリさん…!?」

慌てるアユムだが、上目遣いに彼を見つめるカオリに、何も言えなくなる。2人は腕を組んだまま、自分達の家を目指した…


     ※     ※     ※


30分後、アユムの工房の、カオリの寝室…


パジャマ姿のアユムとカオリ。カオリはアユムに寄り添う様に並んでいる。


「カオリさん………」

「アユム…!?」

アユムはカオリの手を離すと、カオリに深々と頭を下げ、

「昨夜はごめんなさい!!いきなり夜這いなんてかけて…」

「アユム…」

頭を上げるアユムに、今度はカオリが頭を下げ、

「あたしの方こそごめん!!今朝あんなひどい事言って!!あと、ゆうべあんたを投げ飛ばして!!」

それから頭を上げたカオリは、アユムと見つめ合って苦笑する。ベッドにカオリを座らせて、

「それじゃカオリさん、お休みなさい…」

寝室を出て行こうとするアユムの手を、カオリが引っ張る。

「カオリさん…!?」

ベッドに腰掛けてアユムの手を掴んだまま、カオリは上目遣いでアユムを見つめる。瞳が潤んで、頬が上気している気がする。

「カオリさん………」

何も言わず、蠱惑的な笑みを浮かべるカオリ。アユムはゆっくりと、ベッドのカオリの隣に腰を下ろし、


窓から降り注ぐ満天の星明かりの下、瞳を閉じ、そっと互いの唇を重ねるアユムとカオリ…


そのままアユムはカオリを、大きめのベッドにゆっくりと押し倒して行った………

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