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25ー12 生まれて初めての感情

アレッツにはパイロットの生命維持の一環として、負傷したパイロットを機体内に取り込む機能がある。もっとも、負傷の悪化を止めるだけで、負傷を治癒する事までは出来ないそうだが、その際、アレッツのカメラアイの色は金色になる。


そして、パイロットが脳を含む全身に重傷を負い、パイロット自身もそれを望んだ時、アレッツの機体は永遠にパイロット自身の物となり、その証としてコクピットブロックは消失する。この状態を『ホワイトドワーフ』と呼ぶ。『ALLETS(アレッツ)』の由来が一説には『STELLA()』の逆さ読みであり、『ホワイトドワーフ』が星の死骸である『白色矮星』の事であるが、地球におけるこれらの命名者であるハンスにどの様な意図があったのかは分からない。またこれがアレッツの本来想定済みの機能なのか、一種の暴走状態なのかはアミキソープ人達にも分からないらしい。

その際、損傷した脳の機能をアレッツのコンピュータでエミュレートするため、知能が低下し、多くの場合最終的に狂気に陥るが、ダイダの場合、元々の頭があまり良くなかったため、ホワイトドワーフ化によって、却って頭が良くなったらしい。


宇都宮でカオリを人質に取ってアユムとの決着をつけようとして、無人の『スーパーノヴァ』に蹴落とされた後、ダイダは良くなった頭で考えた。


『今の俺では何度渡会と戦っても勝てない』と…


アレッツのコンピュータによるエミュレートの際、ダイダが生まれつき持っていなかった物まで勝手に仕込まれた。生まれて初めて手に入れた論理的思考と理性によって、ダイダは先に述べた屈辱的な結論にたどり着き、それを認めた。


ダイダは宇都宮を離れ、東京を目指して再び南下した。ダイダにとってアレッツで強くなる方法は1つしか無かった。誰かの強い機体を奪う事。彼が知っている中で最も強い機体…新宿に墜落した『天使アルゴ』を手に入れるために…


人間だった頃は方角の概念すら知らず、内地へ渡ったまま北海道へ帰れずに出鱈目に放浪して東京まで行き着いてしまったダイダだったが、生まれて初めて手に入れた知性によって、地図データと地形情報から、難なく東京へたどり着く事が出来た。『生きたおもちゃ』によって廃墟にされ、生き残った者達も東京を離れた上、冬に入って人々の様々な活動が鈍化した事も手伝って、ダイダは誰にも見留められずに新宿入りし、副都心に散らばる『天使アルゴ』の残骸に接触し………長い長い、誰も来ない冬の間を、最強のアレッツの機能解析に費やした。人間だった頃のダイダだったら早々に投げ出していたはずだったが、アユムへの恨みと、生まれて初めて手に入れた継続力は、それを成し遂げた。もっとも、『天使アルゴ』の機能の大部分は、高度すぎてダイダには手に負えない物ばかりだったが…ダイダは何とか、『ある機能』を身につける事が出来た。彼はその成果に満足すると、春の足音が聞こえてくるある日、新宿を離れ、再び北上した。


アユムと戦い、殺すために………


あと少しで仙台に入れる大きな橋の下で一休みしていると、上の橋に誰か人が歩いて来る足音がした。見つかると面倒だと思っていると、南の方から自動車の走行音と、「カオリさん!!」というアユムの声が聞こえ、ダイダは内心ほくそ笑んだ。という事は、今橋の上にいるのは、カオリってあの女か!!


ダイダは橋の下から飛び出し、呆然と立ち竦むカオリをつまみ上げた。ダイダに人の心は分からない。だが、人の一番嫌がる所を見つけ、そこを的確に突く事に関してダイダは天才的だった。


渡会アユムの一番嫌がる所、それはいつも彼の側にいるカオリだ。


     ※     ※     ※


グシャっ!!


ダイダに地面に叩きつけられたカオリは、横たわったままピクリとも動かなくなった。


「………っ!!」

アユムはその光景が理解できなかった。何が起きたのか理解したくなかった。脳が理解するのを拒んだのだ…だが、


『グェーーーーーッフッフッFUFUFU(フッフッフ)!!』

動かないカオリと呆然と立ち竦むアユム機を嘲る様に声を上げるダイダ機を見て、もう一度倒れたままのカオリを見つめ………カっ!! 瞬時にアユムの脳の奥の一番原始的な部分が発熱し、体中の血が煮えたぎるのを感じる。

(ああ…ダイダ………お前はいつだってそうだ…いつもいつもいつも、僕の大事な物を傷つけ、壊し、殺す………)

アユムが射殺すような目でモニターの黒いホワイトドワーフを睨みつけると、呼応するかの様にアユム機の色違いのカメラアイがギン!!と輝いた!!


「許さんぞぉぉぉっ!!ダイダぁぁぁぁぁ!!!!!」


…生まれて初めてだった。アユムがここまで激しく激昂するのも、誰かを殺したいくらいに怒るのも………

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