25ー11 平穏と安寧のために
同時刻、福島…
「アユム君を仙台に帰した!?」
ようやく会談が終わってアユムと話をしようとしたエイジは、レオから会談中にアユムを福島から去らせた事を聞かされて声を荒げた。
「悪いな。今のあいつは本調子じゃ無かった。同窓会なら日を改めてやろうぜ。大体、自警団でもアレッツ乗りでも無いアユムは、この会合に呼ばれる謂れは無いはずだ。」
エイジは顔を強張らせ、
「…アユム君のアレッツ…『「スーパーノヴァ」は、ソラさんと一緒に自分達の星へ帰った』『今はもう、自分の手元にスーパーノヴァは無い』これが12月初め、私達が山形で定住を決めた直後、その報告の際に、アユム君とビデオ会議で聞かされた事だ。」
「ほら見ろ!!」
「…山形の私達の住み家には、ブリスターバッグの機能を利用して、常時監視システムを稼働させていた。いつまた宇宙人が攻めてくるとも限らないからな。そのシステムが12月のとある深夜…午前1時頃、東の方に大きな流れ星を感知したんだ…」
「山形の東って………仙台か!?」
「システムの算出した落下地点は、旧仙台市街地だった。翌日アユム君にビデオ会議で訊ねてみたみたんだ。そしたらアユム君は、『ここからも東の方に見えた』と言っていた。あんな夜遅くに起きて一体何をしてたと言うのか…私はシノブ君と変装してこっそり仙台入りし、聴き込んで回った…」
「アユムが嘘をついてると…!?」
「そしたら出たんだ。多くの人から、『真夜中に何かが落ちた様な轟音が響き渡った』という証言が。そして、早朝散歩していた老人から、『アユム君の工房の前庭の雪が、クレーターの様に丸く除けられていた』、と…」
エイジとレオのいる天幕の外では、会談を終えて一息つく者と、次の会談への準備をする者でごった返していた。だがレオには、外の雑音など入ってくる余裕は無かった。
「流れ星はアユムの工場に落ちて、アユムはそれを隠している…!?」
「『落ちた』のではなく、『落とされた』のだろうな。だとしたらそれを落としたのが誰かも、何を落とした…いや、アユム君に届けたのかも、容易に想像がつく。」
「網木ソラ…そして、『スーパーノヴァ』、か…」
まだ春早い福島の空気は数度下がった様な気がした。
「今回、アユム君を首脳会談に呼んだ理由の1つは、その事実の確認だ。『スーパーノヴァ』が、彼の手に戻っているのか否かを、な…」
「でもどうしてアユムはそれを黙って………」
「レオ君…君の前に現れた頃のアユム君はどんなだったか知らないが、彼は本来、戦う事に向いていない大人しい青年だ。だから、平和に暮らしていくために、彼は隠したかったのだろうな。東日本最強のアレッツが、自分の手元にある事を………」
※ ※ ※
アユムは2つのブリスターバッグを持っていた。
1つは北海道で手に入れた、後に『スーパーノヴァ』と呼ばれる事になるアレッツの入ったバッグだ。
もう1つは東京で手に入れた、アレッツの入っていない空のバッグ。『生きたおもちゃ』との最終決戦前にカオリと別れた際、これまでの旅で手に入れた食料を全て詰め込んで彼女に渡すために使用した。
そして、1つ目のバッグは、『スーパーノヴァ』が自分の星に帰った時に失われ、仙台で工房を開いた後、玄関には2つ目の空のバッグを飾っていた。
12月のとある夜に『スーパーノヴァ』が戻ってきた後も、アユムは空のバッグを玄関に飾り続け、『スーパーノヴァ』のバッグは自身のベッドの下に隠してきた。『スーパーノヴァ』は失われたという体裁を保つために…
※ ※ ※
ブリスターバッグを前に構えるアユム。天板を通して透けて見える中には、人型の何かが入っている。アユムは叫ぶ。
「ブリスターバッグ、オープン!!」
次の瞬間、アユムの前に現れたのは、全長約7mの、夜空の様に深い蒼に、各所に星のような金の差し色が入った、鎧武者の様な巨人。額には三日月を象った前立てを着け、左右のカメラアイの色が違う。左側がグリーン、右側がゴールド…中に入っていた人はいなくなったので、両目がグリーンに戻っていたが、アユムはカラーエディットで右目をゴールドにした。
「すげぇ…あれがアユムのアレッツ………ようやく見れた………」
自動車の運転席でユウタが興奮して言った。アユムはコクピットに消える。
ピ、ピ、ピ…アレッツを起動させながら、アユムは思う。
(戻ってきた『スーパーノヴァ』のブリスターバッグには、メッセージが入っていた。
『ワタシ達はアミキソープのエネルギー問題の解決ヲ必ずや自分達だけデ成し遂げる。
もうアナタ達に迷惑はかけナイ。
デモ悲しい事に、邪な野望を抱く者は必ず現れる。
なるべくコチラだけで解決するケド、万一そっちに行ってしまったラ、後はお願いネ。』)
ギン!!アユム機の左右色違いのカメラアイが輝き、ホワイトドワーフを睨みつける。コクピットのアユムは叫ぶ。
「平穏に安寧に生きていくために、僕は戦う力を封印した。だが、カオリさんと2人、平穏に安寧に生きていくためなら、僕は何度でも、誰とでも戦ってやる!!」
渡会アユム機 セミキューブ 動作追随性重視型 『スーパーノヴァEX』
しかし、黒いホワイトドワーフは、カオリを掴むと、ドンゲンドンゲン足音を立てて、川沿いに山間へと逃げて行った。
「ま…待てっ!!」
アユム機は飛行ユニットを展開させて、それを追いかける。地上を走るホワイトドワーフの足は遅く、川をいくらか上った所で追いつき、そこでホワイトドワーフは立ち止まった。
「な…何だ…!?」
コクピットのアユムは訝しんだが、振り返ったホワイトドワーフは、片手でカオリの体を高々と掲げる。腕が血で真っ赤に染まっている。
「アユ…ム………」
ホワイトドワーフの手に掴まれたカオリは呻き、ホワイトドワーフは金色の単眼カメラアイを鈍く光らせて、
『グェフフフFUFUFUFUFU…』
笑い声の様な不気味な音を立て、
グシャっ!! カオリを地面に叩きつける。
「カオリさ〜〜〜〜〜ん!!!!!」




