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25ー7 北斗七星の同窓会

再び村はずれに戻ってきたアユム。ハンスは…いつの間にかどこかへ行ってしまった様だ。周囲には、今回の首脳会談の参加者の天幕たたくさん張られている。確か仙台の他、郡山と、山形…不意に、目の前の天幕の入口が開き、そこから緑色の迷彩服を着た青年が出て来る。半年前に見覚えのある顔だった。


「おや………アユム君!久しぶりだね!!」

青年は言った。


「最上さん………お久しぶりです…久しぶりという気がしませんが…」

「まあ、あの後もビデオ会議で何度か顔を合わせてたからな…」


最上エイジ…半年前の旅で出会った、『プロの軍人』。宇宙人が滅茶苦茶にした世の中に秩序と安定を取り戻すために、自ら宇宙人のロボット…アレッツで武装して、北東北各地の野盗を倒して回っていた、『最上エイジ隊』のリーダーだ。アレッツを所持していたアユムにも、アレッツを手放す様に迫っていたが、最後には和解して、宇宙人へ復讐しようとするアドミラル一味と共に戦った、いわば戦友だ。


彼は最後の戦いの後、寄る辺を一切失って、山形…仙台とは奥羽山脈を隔てた山向こう…に居を定めたのだそうだ。山形は『生きたおもちゃ』が生まれ育った街で、あいつが自身へのいじめへの復讐としてSWD当日に焼いた街で、それまでずっと復興村すら出来ていなかった。また、『生きたおもちゃ』に殺された『エイジ隊』の隊員、寒河江と米沢の故郷でもあり、エイジ達によって2人の墓もそこに作られていた。エイジはそこに家を立て、寒河江と米沢の墓を弔いながら、周りを整備していると、冬から春にかけてあちこちから人が集まり、村と呼べる規模になったのだそうだ。アユムへは昨年末に、エイジから『山形に定住する』事がビデオ会議で告げられ、アユムはエイジに、東京で別れて以降の事を話した。『「生きたおもちゃ」は死んだ。』『ソラは宇宙人だった。』『「スーパーノヴァ」はソラと共にアミキソープ星へと帰った。』そして、『僕が探していた少女は既に亡くなっていた。』『カオリさんから告白され、交際する事になった。』と…


「まあ、あの時もビデオ会議で言ったが…今度こそ私は成し遂げて見せるよ。日本に秩序と安定を、自分の目と手の届く範囲から、ね…」

エイジの口調は固い決意に満ちていたが、半年前とは違う柔和さがあった。そして今日、エイジは山形復興村の代表として、ここ福島での首脳会談に赴いたのだろう。


「あなたならきっとなれますよ。立派な村長に…いや、大統領!?それとも王様ですか!?」

アユムは山形復興村の統治体制をよく知らなかった。するとエイジが何故か言いにくそうに、


「ああ、それなんだか村長は私ではなく…」


その時、エイジが出て来た天幕の入口が再びバサっ!と勢いよく開くと、中から1人の若い女性が出て来た。このご時世にどこで用立てたのか、ビシっとスーツを着込み、これまたどこで用立てたのか、『女帝』とデカデカと書かれたたすきをかけた、ショートボブに牛乳瓶眼鏡の女性…


「けーっへっへっへ!!自らの姓名は、姓を久野、名をシノブ、字をメガネと申せしが、嫁いで後、これを改め、ヤマガッタ帝国エンプレス、最上・エカテリーナ・マリーアントワネット・エリザベス・シノブと申し侍るなり〜〜〜!!」


ハイテンションな笑い声を上げる彼女は久野シノブ。エイジ隊の隊員でエイジのオペレーターで恋人だが、堅物なエイジとは正反対の、ブッ飛んだ女だ。エイジは声を潜めてアユムに、

「…私はあくまで軍事防衛の責任者で、村の代表には彼女になってもらったんだ。一人に権力を集中しないために…」

「…さっき名乗ったミドルネームに、ギロチン台に消えた人も混じってましたけど…」

「あれで外面はいい上に柔軟だから、村人たちからは文字通り女王と崇められている。万が一にもそれは無いだろう…」

先も述べた様に、シノブはエイジの恋人でもある。従ってエイジが山形で定住すると、シノブもそれについて行って、一緒に住んでいるそうだ。アユムはその事もエイジとのビデオ会議で聞いた。次の瞬間、シノブは牛乳瓶眼鏡を外すと、清楚な表情になり、

「それでは、私は他国の代表の方々と顔見せに行って来ますね。」

にっこり微笑んで去っていく。アユムもシノブの女神モードを久しぶりに見た。

「最上隊長…」

ふとシノブは立ち止まり、こっちを振り向くと、両手のひらを口に当てると、


「ん〜〜〜〜〜ちゅっ!!!」


両手を勢いよくエイジに向けて離す。投げキッスされたエイジは慌てて、

「し…シノブ君!!」

だがシノブは「それじゃ、ダーリンも頑張ってねーー!!」と言い残すと、歩き去ってしまった。そんな後ろ姿を見送りながら、エイジは少し微笑んで、

「やれやれ…」

(最上さん…以前より、感じが柔らかくなった様な…そう言えば…)

「最上さん、さっきの久野さんの苗字って…」

するとエイジはこっちを振り向き、

「あ…ああ…つまり…そういう事だ…」

照れたような、それでいて余裕のある笑顔。

(最上さん、やっぱり久野さんと一緒になる決意をしたんだ…)

明らかな彼の雰囲気の変化は、そのためだろう。

「ま、まあ、何だ。首脳会談の一環とはいえ、折角久しぶりに顔を合わせたんだ。パートナー絡みで()()()愚痴を言いたいことも山程あるだろう。というより、こっちが聞いて欲しい…」

エイジの口調は最後はやや落ち込み気味だったが、その言葉にアユムの胸はちくりと痛んだ。

「大人の余裕って奴なんですかね………」


その言葉の意味をエイジは計りかねたが、エイジはすぐに気を取り戻して、


「そ、そう言えばアユム君、『天使アルゴ』を1人で倒したんだよね…」

「すみません最上さん、あなたの顔を潰す様な事をして…」

「私の面子なんてどうでもいいんだ。すごいよね、あの大砲…『コピー天使』を大量になぎ倒して、『天使アルゴ』の表面に大穴を開けて…」

「すみません…『星落とし(スターシューター)』という恥ずかしい名前があるんです…」


「そう言えば以前聞いた時もそう言ってたね。しかしあれを造るのは大変だったろう…いつから用意してたんだ!?私達と別れてから道すがらなら、郡山かね!?宇都宮かね!?」

「………すみません…」


「そんな早くから、一体どういう根拠があって、『天使』アレッツが、将来ああいう超兵器が必要な程大型化すると予想してたんだね!?鹵獲した宇宙船の存在なんて東京に行くまで知らなかったんだろう!?」


「本っっっ当にすみません!!!」


アユムは勢いよく頭を下げた。本当にすみません。

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