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25ー3 2人の関係

「何ぃぃぃぃぃっ!?まだ何もしてないぃぃぃぃぃっ!?」

「しぃっ!!声が大きいよ、ユウタ!!」


地球の外まで聞こえるかの様な大声を張り上げたユウタを、必死で止めようとするアユムであった。地球の外は真空だなどという無粋な事は、この際言ってはならない。


「でもよぉ…お前ら、一緒に住んでんだろ…!?」

「一緒に住んでるけどしてない。」


「恋人同士なんだろう…!?」

「恋人同士だけどしてない!!」


ユウタはアユムをじーーーーーっ、と見つめ、指先と指先が触れ合っている事に気づき、慌てて飛び退き、


「お前まさか………!?」


「違〜〜〜〜〜うっ!!」


     ※     ※     ※


同時刻、ユウタの家…


ベビーベッドの中で眠る赤ん坊…黒部ユウイチを、優しげな目で見つめるカナコ。かつては男勝りな女子高生だったとは思えない表情だ。


「カナコさん、洗濯物干して来たわよ。」

表から入ってきたカオリが、ユウイチを起こさない様に小声で言う。


「カオリさん…ありがとうございます。」

そう言ってカナコがこっちへ向き直る。その瞬間、キっ、と、車輪の音がする。

「本当に助かってますよ。頻繁に手伝いに来てくれて。もちろんアユムにも感謝しないと…」

カナコが座っているのは、アユムが造った車椅子だ。郡山のおやっさんに師事し、長旅の間に技術を磨き、ついに完成させて、仙台へ帰った直後、カナコの手に渡ったのだ。この車椅子によってカナコは、わずかではあるが、行動の自由を得た。この車椅子のためにユウタとアユムが、家の中や周りの段差にスロープを付けて回ったのも記憶に新しい。

「全くすごいね、アユムは…うちのユータもアユムの爪の垢煎じて飲むべきだよ…」


カナコもルリのアユムへの思慕は知っていた。ただのクラスメートで友達という訳では無かったが、ルリが死んでいた事と、アユムがカオリを選んだ事には当初、複雑な思いを抱いていた。しかし、本人達が納得している事と、カオリが良い人だった事から、受け入れられる様になったのだ。


「それにしても…かわいいわねぇ、赤ちゃん…」

ベビーベッドの中のユウイチの寝顔を覗き込みながらカオリが言うと、カナコが、


「カオリさんも、じきに出来るんじゃないんですか!?」


そう言われて、赤くなりながらモジモジと俯くカオリに、カナコは、


「え………カオリさんまさか………」


     ※     ※     ※


同時刻、アユムの工房…


「告白して恋人同士になるって、時々互いの家に遊びに行って…ってくらいだと思ってたんだ。」

アユムは言った。

「でもカオリさんは僕と一緒に住みだして…急に距離感を縮められて、カオリさんとどう接していいのか分からなくなったんだ…」


「ま………お前、人付き合いとか苦手っぽいもんな…」


     ※     ※     ※


同時刻、ユウタの家…


「よく考えたら当たり前だったのよね…あの人は気が弱い子だから、いきなり距離を詰めたら戸惑うって…」

カオリは言った。


「…まぁ、あいつならそうだろうな…」

相槌を打つカナコ。


「あの旅を通じて、いくら逞しくなったって言っても、あの子の芯は、あまり変わってないのよね…」

「え…!?」

「………どうかした!?」

「い、いえ、何でも…」

高校時代のアユムのイメージと『逞しい』という表現とが、どうしても結びつかないカオリであった。


「とにかく…あの子はまだ子供なんだから、あたしがちゃんとリードしてあげないとね。今度こそちゃんと…」

「え…!?」

カオリの言葉に再び声を上げるカナコ。

「カナコさん!?さっきからどうしたの!?」

「な…何でもない…」


     ※     ※     ※


同時刻、アユムの工房…


「でもお前、一緒に住んでんだろ!?あの美人のお姉さんと…ムラムラっとかしねぇのか!?」


ユウタに言われてアユムは真っ赤になって俯く。


「あ………ムラムラとはしてんのね…」


     ※     ※     ※


同時刻、ユウタの家…


「以前、お風呂場で事故で鉢合わせた時、あの子、あたしの裸を二度見してたのよ。今朝もあたしのミニスカートの奥を、ベッドから落ちてひっくり返った拍子とはいえ、覗き込んでたし、そういう目で見てるとは思うのんだけど…」


「裸見られた男と、よく付き合う気になったわね…あと、出来れば同級生の男の赤裸々な性的欲求なんか聞きたくなかった様な…」


「でも…あの子、キスはおろか、手もつなごうとしないんですよ!?」


「え………それはさすがに…」


     ※     ※     ※


同時刻、アユムの工房…


「じゃあお前、いつまでも今みたいなただの同居人みたいな関係続けんのかよ!?」


「簡単に言うなよ!!それじゃあ…お前とカナコはどうだったんだ!?幼馴染の腐れ縁が長かったのに、どうしてあんな関係に…!?」


     ※     ※     ※


同時刻、ユウタの家…


「あのさ、カナコさん…年下のあなたにこんな事聞くのも何だけど…あなた達はどうやって、その…そういう関係になったんですか…!?」


     ※     ※     ※

     ※     ※     ※


西暦2053年、9月、SWDからさほど経っていない頃の仙台…


とあるボロ家に、パンパンに膨らんだリュックを背負ったユウタが入って行く。


「おーいカナー、今日も食い物いっぱいもらって来たぞー…」

『もらって来た』と言ってるが、あちこちの公園に出来た畑で、ユウタが野良仕事を手伝ってその報酬でもらって来たのだ。


「カナー!?寝てるのかー………」


電気の通っていない夕方の薄暗い部屋へ入って行くユウタだったが…部屋の中の光景を見たユウタは大声を張り上げる。


「な………何やってんだよーーーーーっ!!」


そこにいたのは床に座り込むカナコ。座り込むと言っても、ズボンの両太腿から下が膨らんでいない。1ヶ月前のSWDで失ったのだ。陸上部エースを嘱望された健脚は、もう、無い。そして…彼女の手首からはダラダラと赤黒い血が流れている。


「は、早く止血しないと…」

慌てて駆け寄ってカナコの手首を押さえようとするユウタを、カナコは振り払おうとする。

「止めて!離して!!私もお父さんとお母さんの所へ行くの!!」

「バカな事言うなよ!!そんな事したっておじさん達だって喜ばねぇって!!」

「こんな足で生きてたって、もうどうにもなんない!!」


     ※     ※     ※


30分後…


カナコの両手首には包帯が巻かれていた。


「バカな事すんじゃないよ!!このご時世、命が残ってただけまだましなんだからね!!」

治療してくれたヤブ医者ババァが怒鳴る。

「良かった…傷が浅くて本当に良かった…」

向こうで富士野先生も泣いている。ヤブ医者ババァはユウタに、

「あんた、このバカ女をちゃんと見張ってな。あんたも1人になったんだろう!?もうあんた等が支え合って生きてくしかないよ!!あと、今回の治療費はツケとくから!!」


ヤブ医者ババァと富士野先生が去って行った後、流石に自分がバカな事をしたと気付き、ユウタの胸で泣きじゃくるカナコ。その小さな背中を抱きしめながら、ユウタは………


     ※     ※     ※


「何すんだ!!離せ!!はーなーせー!!どこ触ってんだ!!このスケベ!!」


カナコをお姫様だっこされて、長町復興村の通りを歩くユウタ。みんな見てる。


「行き先は、俺の家だ。」

ユウタが言った。

「あんたの、家!?」


     ※     ※     ※


元いたのとあまり変わらないボロ家に連れてこられたカナコ。


「俺が外出て働くからさぁ、お前、家でメシ作ってくれよ。」


「な、何よそれ!!勝手に決めないで!!」


「お前、料理出来んだろ!?俺は出来ねぇから、食い物もらって来ても生でかじるしかねぇから、このままだと腹こわすか、飢え死にしちまうかもなぁ…」


「な、何言ってんのよ、あんた…」


「じゃ、俺は畑手伝って来る。家の中はお前でも家事しやすい様に色々整えといたから、頼むぜ。夕方には帰っから。」


そう言ってユウタは出ていってしまった…


あとに残されたのはカナコ1人。入り口入ってすぐの部屋に、台所やら何やらが集約されており、汲み置かれた水やら燃料の薪やらが周囲に置かれている。急ごしらえのかまどもまな板を置いた台も背が低く、今のカナコでも作業しやすい様だ。そして…


まな板の側に置かれた包丁に目が止まり…カナコはそれをどのくらい凝視していだろうか。ゆっくりと包丁の柄に手を伸ばし…


「小田君!!」


不意に後ろから声がして、カナコは咄嗟に手を引っ込める。振り向くと、玄関に立っていたのは富士野先生だった。


「せ…先生…どうされたんですか!?いきなり大声出して…」


「あ、いや、何でもないんだ。すまなかったね、びっくりさせて…あ、そ、そうだ!!君達これから一緒に住むんだったら何かと物要りだろう。後で色々見繕って持ってくるから、待っててくれないか!?」


「いいですよ…先生も大変でしょうし…」


「私の事より自分の事を大事にしたまえ。後でまた来るから、ちゃんと待ってるんだよ。いいね!?」


強引にそう言って、富士野先生は行ってしまった。再び1人取り残されたカナコは、さっき手を伸ばしかけた包丁を右手に取り、左手の手首に………


スっ!! 不意にそれは右手から離れ、宙に浮く。後ろにはヤブ医者ババァが包丁の刃を抓んで立っていた。


「…だからバカな事考えんじゃないよ。これもツケとくからね…」


そう言ってババァは去って行った。


     ※     ※     ※


西暦2053年、春の夜…


床に直置きされた布団に2人で寝るユウタとカナコ。カナコは言う。


「…あんたバカなの…!?こんな私になんで…同情とか、一時の気まぐれでこんな事して、後悔するわよ…」


ユウタはあっけらかんと言う。


「…俺はお前の事、前から好きだったぜ。」


「…何それ…」


「…お前を追いかけて丁度共学化された同じ高校へ入って、それを認めたくなくて他の彼女作ろうとして、確かにバカだよな、俺…」


「………ホント、バカ…」


「…で、お前はどうなんだ!?」


「…え!?」


「俺はお前の事好きだぜ。もちろん女として…じゃなきゃ()()()()しねぇって…お前はどうなんだ!?俺の事、どう思ってんだ…!?」


カナコは天井を見上げながら、


「私………生理が来てないの。お腹に赤ちゃんがいるわ…あなたの子よ。私とユータ、2人の…」


     ※     ※     ※

     ※     ※     ※


時は再び巻き戻り、西暦2054年春、


アユムの工房…


「…って感じ。」

ユウタに2人の経緯を聞かされたアユムは、


「…何かいろいろ、ごめん…」


     ※     ※     ※


同時刻、ユウタの家…


「…って感じ。」

カナコに2人の経緯を聞かされたカオリは、


「ごめん…あんまり参考にならなかった…」

すみません、ユウタのカナコへの呼び名が『カナコ』になっていました。『カナ』に修正しました。

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