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25ー1 春の訪れ

「あたし、あなたの事が好きです。

よろしかったら、私と…お付き合いして下さい。」

彼女が言う。


「はい、喜んで。」

アユムが答えると、驚いた彼女の目から一筋の涙が流れる。


彼女はアユムと向かい合って立ち、目を閉じ、少しだけ背伸びし、


すぼめた桜貝の様な唇が段々近づいてきて………


     ※     ※     ※


ガ ン ! 「ぐぁっ!?」


気がついたらアユムは自室で逆さになっていた。


「………!?」


後頭部が痛い。パジャマの裾がめくれ上がる。ベッドから逆さに転げ落ちたらしい。周りには逆さになった汚い部屋。色々な物が無造作に置かれていて、足の踏み場()()無い。


「………夢!?」


「………やっと起きたか、この寝ぼすけ!!」


部屋のわずかな足の踏み場に、細く白い足が2本。目の前に逆さに立っているのは、勝ち気で快活な美女。


「カオリ………さん!?」

さっきアユムの夢に出て来た彼女…相川カオリだ。顔も良いがスタイルも良い。胸も大きいが腰もくびれていて脚もすらりと長い。そして彼女は今…エプロンの下に………ミニスカートを履いている。そしてアユムは逆さになって、ほぼ床と同じ高さから、彼女を見上げている。


「全く…あたしに触って欲しくないんだったら、自分で片付けなさいよね、この部屋…」


「今度やりますよ。もう少し寝かせておいて欲しかったんですけど…昨日は仕事で遅かったし…」


アユムの視線がカオリの顔から段々下がって行く。


「うん知ってる。お陰であたしも寝不足。」


カオリの大きな胸から腰へと下がって行き…


「だったら何故…」

「お客さん、来てるのよ。」


短いスカートの裾に至り、


「何ですって!?それを早く言ってくださいよ!」

「だから早く支度して、アユム!」


格闘技をしていたとは思えないスラリとした太腿の、付け根へとズームアップして行き…


「分かった。すぐ行くから待ってもらう様に言って。」


スカートの中の暗闇の奥へと進んで行き…


「その前に軽く食べれる物用意しといたから食べてって。明日は臨時休業にするってみんなに言ってあるから、今日は大勢来るわよ。あとアユム、」

「何ですか!?」


アユムの視界にカオリの23センチの足の裏がいっぱいになり、


ゲ シ っ!!「むぎゅ!?」「いつまで覗き込んでんだこのスケベ!!」


カオリに顔面を踏みつけられるアユム。


     ※     ※     ※


数分後…


いつものツナギ姿に着替えたアユム。顔面のカオリの足型も、もちろん忘れてない。キッチンに置かれているラジオが告げていた。


『皆さん、おはようございます。時刻は朝7時。本日も台原、勾当台、榴ヶ岡、五橋、西公園の各地公園跡の農場では、土作り、種蒔き等の作業が予定されており、各々若干名を募集しております。ご希望の方は8時までに現地へ集合して下さい…』


「いつも言ってるけど、報酬交渉になったら、あたしも呼びなさいよ。」

「…はい(もぐもぐ…)」

「あと、車は新規の注文があるまで新しいの作っちゃダメよ。せめてあの4号車を売ってからにしなさい。」

「…あれは初回ロットで…(もぐもぐ…)」

「…口答えはいらない。返事は!?」

「………はい(もしゃもしゃ…)」


カオリが作っておいてくれたおにぎりを、頬張りながら答えるアユム。あなたは僕のお母さんですか。言ったら激怒するの分かってるから言わない。


「じゃ、行ってきます、カオリさん。」

「あ、アユム、ちょっと待って…」


不意にカオリはアユムの頬に細く長い指を伸ばし、米粒を取ると、指ごと口に含んだ。


「…もう…こんな物付けて、お客さんの前に出るつもり!?」


カオリの唇は夢で見た物よりずっと艷やかだった。


「い…行ってきます!!」

真っ赤になって、そそくさと外へと出て行くアユム。


「………もう…」

その姿にため息をつくカオリ。


     ※     ※     ※


西暦2053年、11月末、


東京への旅から帰って来た渡会アユムは、仙台の廃工場を貰い受けて小さなジャンク屋を作り、相川カオリと一緒に住む事になった。


本格的な雪の冬が来るまでの僅かな時間と、冬の間の氷と雪の合間を見つけては、少しずつバグダッド電池やアレッツジェネレータの仕事を行って報酬をもらい、足りない分は夏から冬にかけて東北から関東を旅しながら仕事をして得た食料で食いつなぎながら、仙台の人々にエンジニアとして認知されて行きながら、アユムとカオリは冬を越した。


そこから時は流れて、西暦2054年、春…


アユムの工房は、仙台の人々に支えられて何とか運営出来ていた。もちろんそこには、陰でアユムの生活を支えるカオリの尽力もあった。


カオリはアユムが朝起きたら、おはようと言ってくれる。朝ご飯を用意してくれている。廃墟へジャンク集めに行く時やお客さんの元へ行く時はいってらっしゃいと言ってくれ、帰って来るとおかえりなさい、お疲れ様と言ってくれる。昼になるとお昼ごはんを用意してくれ、日が暮れると夕ご飯を用意してくれ、アユムは今日あった事を話しながら2人でご飯を食べ、夜がふけるとおやすみなさいを言って、それぞれの寝床へ入って行く…


アユムはカオリが好き、そして、カオリもアユムが好きだ。長い長い旅といくつもの回り道の末に結ばれた2人。だが…


アユムは、ようやく手に入れたこの『好き』という感情を持て余していた…



第25話 ささやかな事件


     ※     ※     ※


「はーい、今行きまーす…」


そう言いながら工場建屋の入口をバタバタと出て行くアユム。入口の玄関には、一辺が30cmくらいの、前面が透明な、小さなカバンの様な物が飾られていた。異星人のロボット兵器である『アレッツ』、その輸送手段である『ブリスターバッグ』と呼ばれるオーバーテクノロジーの産物である。アユムとカオリはアレッツで戦いながら旅を続けていた。だが…


玄関に飾られているブリスターバッグの中には、ロボットは何も入っていなかった…

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