エピローグ
時は北斗七星作戦の後の夜まで遡る。
「離せ!!はなせ〜〜〜っ!!」
「こら!!暴れるな!!」「面倒かけんなよ!!」
酒田と新庄に両脇を抱えられて引きずられるハンス・シュミット。ついさっき、自身がアミキソープ人であり、『アルゴ』をアドミラルに譲渡し、自身の同朋であるアミキソープ人への復讐をそそのかした張本人だ。
「…で、どうする、こいつ!?」「始末するにしても、銃か、ロープか…」
不穏な話をしていると、
「お兄さん達」
と、後ろから声をかけられる。そこにいたのは、2m近いマッチョな大男。
「後はワタシに任せテ。」
そう言われ、顔を見合わせる酒田と新庄。実をいうと2人とも、手を汚したくない。じゃあ頼むと言い残して、2人はエイジ達のいる天幕へと帰って行った。
「お前か…」
後ろ手に縛られたハンスは大男…ソラを見上げる。ひと目見て分かった。こいつは、同郷だ。
「…第三勢力人は南と北に嬲り殺される運命か………」
妙に諦観した様なハンス。
「いいぜ…さっさとやってくれよ。さっきも言ったように、どうせ故郷には家族も友人も恋人もいない…」
言われてソラは片手に持っていたナイフを振り上げ、ハンスが両目を閉じ、矢の様な素早さでナイフは振り下ろされ、
ジャキっ!! ハンスの両腕を縛るロープは切られた。
「………!?」
自分に何が起きたか理解出来ないハンスに、物陰からフランシーヌ…ハンスとともにアドミラルの部下だった女性が飛び出し、ハンスに抱きつき、叫ぶ。
「誰もいないなんてそんな、悲しい事言わないで!!私達がいるでしょ!?」
ハンスはためらいがちに、しかししっかりと、フランシーヌの背中を抱き返す。そしてソラは言った。
「行きなサイ。」
「…いいのか!?」
「ワタシ達がメチャクチャにしちゃった地球だけド、アナタ1人くらい余計ニ養う余力はあるデショウ。」
互いに顔を見合わせたハンスとフランシーヌだったが、ソラに何度も頭を下げながら、宵闇の中に去って行った。その後ろ姿を見送りつつ、
「アナタがアミキソープへ帰るト、色々面倒なのヨ。」
そう呟くと、ソラはエイジ達の天幕へ戻っていった。
※ ※ ※
アユムと『生きたおもちゃ』の戦いの後…
ソラの目の前には、片手を手錠で柱に拘束された1人の男…『ウォッチャー』だ。
「…俺の名は落合…しがない配信者だ。あの動画を配信した理由なんて、登山家に何故山に登るのかって聞くようなもんだぜ…」
白々しく言う『ウォッチャー』に、ソラは苦々しく、
「アンタそういう声だったノネ…本当の名前は何なノ!?」
すると『ウォッチャー』は嘲る様に、
「名前!?『網木ソプ』、かもなぁ!!あーっはっはっは!!」
ケラケラ笑う『ウォッチャー』に、苦々しい顔をしながら、ソラはコップを差し出す。自然な流れで『ウォッチャー』がそれを受け取ると、ソラはコップに、ビンに入った液体を注ぐ。『おかみさんメモ』を下に作ったそれを、『ウォッチャー』は飲み干す。
「…ひっく!」
途端に『ウォッチャー』は出来上がった。
「それで…もう一度聞くワネ。アナタは誰!?」
ソラに問われて、焦点の合わない目でわめき始める。
「俺は北軍の工作員だぁ!!この、大陸から遠からず近からずの弧状列島を、将来、北軍が本格侵攻した際の橋頭堡にするために、この列島をカオスな状態に保つために、あの動画を流してたんだぁ!!」
「アンタねぇ…その割にハ、色々余計なこともたくさんしてたみたいだけド!?」
「そりゃてめぇだって同じだろう!!」
「あんたこの地球デ、ワタシ達の同胞ガした蛮行ヲ見てきたはずヨネ!?何とも思わなかったノ!?」
「見たさ、思ったさ。最高のショーだってなあ!ひゃぁははははは!!」
「『パンサーズ』は!?アンタの事、仲間ダト思ってくれてたみたいヨ!?」
「大人に騙された馬鹿なガキ共だ!!青臭ぇくせに全然思うように動いてくれねぇ使えねぇ奴等だったぜ!!」
ドスっ!!半ば怒りに身を任せたソラに腹を殴られ、『ウォッチャー』は正気に戻り、自分が何を口走ったのかを思い出す。
「…自白剤を飲まされた発言なんか、法廷で通るかよ!!」
さらにふてぶてしく言う『ウォッチャー』だったが、ソラは『ウォッチャー』の胸ぐらを掴み、
「いい事教えてアゲル。この地球ニハ、ワタシ達のエネルギー問題ヲ解決する鍵トナル技術があったノ。北軍モ南軍ヤ第三勢力ト足並み揃えて技術解析に挑む事ニナルワ。アンタはマトモな裁判にかけられルどころカ、この弧状列島で言う、『トカゲの尻尾切り』になるワネ。」
そう言われて『ウォッチャー』はがっくりと項垂れた。
※ ※ ※
地球から宇宙へ上がる魚型可変アレッツのコクピットの中…
「…小さな子供ガ、おぼつかない足取りデ歩こうトしてたノヨ。確かニ、子供が持ってるアナタが目的だったケド、手を差し伸べ、見守ってる内ニ、情が移っちゃったワ…」
(もがもが…)
ソラは自機にしがみつく濃紺色のアレッツに言うと、アレッツも、
『…まあ、私も似た様なものだ。ところで、日本語には男言葉と女言葉があって、君は男性だが、君が使っているのは女言葉の方なのだが…』
(もがもが…)
そう言われてソラはぶすっとして、
「…途中で知ったケド。もう引き返せなくなってたノヨ。」
(もがー!!もがー!!)
やがて、ソラ機は地球の衛星軌道上に停まる船にたどり着き、収容される。船の先端から光線が発射されると、それは真空の空間に巨大な空間の歪み…『穴』を開ける。船はその『穴』めがけて突入し、消えていく。やがてその『穴』も小さくなって閉じ、後にはただ静寂のみが残った。
ビッグ・ディッパーの紫、網木ソラ(本名不詳)、アミキソープへ帰還。
なお、彼が提出した報告資料の中では、『アルゴ事変』に関する記載は無かった。地球人がアミキソープ人への復讐を企てようとした事実も、第三勢力が南軍と北軍を全面戦争の末に共倒れさせようとしていた事実も、闇に葬られた。
※ ※ ※
アユム機の中の人(同じく本名不詳)、ソラと共にアミキソープに帰還、南軍主流派の医療施設に入院、そのまま彼の配偶者と、彼女との間に産まれていた第一子と共に、南軍主流派の国へ亡命。
なお、数年後に産まれた第二子、第三子(男女の双子)には、『アユム』『カオリ』と名付けられた。アミキソープ風ではないそれらの名前の由来を知る者は誰もいない…
※ ※ ※
『ウォッチャー』(同じく本名不詳)、ソラ機の後部座席で手足を縛られ猿ぐつわを噛ませられ、モガモガ呻きながらアミキソープに帰還、その後の消息については記録が無い。
※ ※ ※
※ ※ ※
『ジョシュア王国』…
「我が『ジョシュア』の若人諸君!!よくぞ私達の招集に応じてくれた!!」
数日前に東京から帰って来た舞鶴アカネ自警団長は、大勢の男女の前で演説する。
「我が『ジョシュア王国』は、沼田の地を『ヴェーダ公国』に侵略され、沼田の住民達は、逃れて『ジョシュア』本土までやって来た者も、侵略者の手に渡った彼の地に残った者も、皆、不自由な思いを味わっている!!」
アカネの目の前の若者達は皆、『ビッグ・ディッパー』の英雄の言葉に聞き惚れている。
「だが、我々は必ず、沼田を取り戻す!!そのための戦力に、君等にはなってもらう!!君等には明日から『ジョシュア』の精鋭となるための地獄の特訓が待っているが、乗り越えて欲しい。以上!!」
ビシっ!!! アカネの演説が終わると、若者達は揃って敬礼を返す。
演壇を降りるアカネに、自警団員の1人が話しかける。
「お疲れ様です…こちらをご覧ください。」
そう言って自警団員は自身のスマートフォンを見せる。そこにはグリーン迷彩のアレッツが映っていた。彼は言う。
『…私は、「ヴェーダ公国」自警団副長、最上エイジである!!「ヴェーダ公国」は、私の力で、信濃四平の覇者となろう!!』
周囲の自警団員達は皆、不安そうな顔をしている。かつて沼田盆地を切り取っていった『ヴェーダ公国』に、『ビッグ・ディッパー』の最上エイジが、正式に加入したのだ。これから沼田奪還作戦に立ちはだかって来るかもしれない。だがアカネはその動画を一瞥して、
「アレッツの細部が違う、声も違う、第一、パイロットの顔が全く出ていない。」
そう言ってアカネはスマートフォンを自警団員に突き返し、
「偽物だ!!どうせエイジ隊の他の隊員の誰かだろう。第一こいつは、沼田奪還を阻止するとは一言も言ってない。心を惑わされてはならん!!他の団員達にも、相手にしないように通達しろ!!」
アカネの言葉に団員は敬礼を返す。そこへ別の団員がやって来て、
「舞鶴団長!!国王陛下がお呼びです!!」
やれやれ、きっと『これ』だな…アカネはさっきの団員からスマートフォンを再び借り受け、国王執務室へと向かう。
失礼します…執務室に入ると、北条王は自身が手に持ったスマートフォンを指さした。そこに映っている配信動画には、さっきの動画とは別のグリーン迷彩アレッツが映っており、こう告げていた。
『我々、軽井沢暫定政府は、「ヴェーダ公国」と袂を分かち、私こと最上エイジを軍事顧問に迎えた。来たれ全国のアレッツ乗り達よ!!日本の正当なる統治者達をお守りするのだ!!』
アカネは北条王に、無言で自身が持つスマートフォンを差し出す。いかに愚鈍な人物であっても、これで両方とも偽物だと分かるだろう。
『お前は誰だ!?偽物が!!』『そっちこそ誰だ!?偽物が!!』
どうやら、動画の中の2人の偽エイジが、互いの配信に気づいたらしい。
『お、お前、酒田か!?(ブツっ!!)』『お前新庄か!?(ブツっ!!)』
2件の配信は、配信者自身によって中断された。後には、呆然とする北条王とアカネが残された。
※ ※ ※
※ ※ ※
郡山…
『豹の檻』の片隅の墓地では、根古田が根津の墓に祈りを捧げていた。用事があって復興村の通りを歩いていた氷山レオは、向こうで犬飼が誰か見知らぬ男と話しているのを見つける。
「よう!犬飼…」
レオが声をかけると、見知らぬ男は、
「じゃ…さっきの話し、よく考えてみてね。」
そう言い残して、そそくさと去って行った。
※ ※ ※
「『ジョシュア王国』からの引き抜きぃ!?」
レオは叫ぶと、犬飼は、
「しーーーーっ!!声がデカいですよ、レオ君!!」
それから犬飼は声を潜めて、
「実は俺だけじゃ無いんですよ。俺の他にも、おやっさんの下でエンジニアを目指してる連中に、『ジョシュア』や『ユニバレス』から、青田買いに会ってる奴らがいるんですよ…」
アレッツジェネレータとバグダッド電池との類似性を見出した渡会アユム、そのアユムに師事したおやっさんの更に弟子である犬飼達は、アユムの孫弟子として注目されており、未だ海のものとも山のものともつかないというのに、独り立ち後はうちの国に来て働かないかと誘われているらしいのだ。
「…で、お前はどうすんだ!?まさか…」
恐る恐る尋ねるレオに、犬飼は、
「………行ってみてもいいと思ってる…」
「お前…」
「そりゃ、おやっさんは厳しいけど俺達を思いやってくれてるし、色んな事を教えてくれてる。メシだっておかみさんが作ってくれてるし…でも、俺の他にも何人も弟子が増えて、おやっさんはそいつ等にも、同じ事をしてくれてるんですよ…こんなありがたい事無いですけど…俺達がおやっさん達の負担になってるのも間違いないんです。だから………長男は、弟たちのために、さっさと独り立ちした方がいいのかなって…」
因みに、この青田買いへの、氷山コタロウ氏をはじめとする、郡山の上層部の見解は、『黙認』。仮に彼等が一人前になったとしても、郡山だけでは彼等全員が食っていけるだけの『仕事』は無い。それに…
「それに………自業自得とはいえ、ここは『寒い』から、寒くない場所へ行くのもいいかなって…」
さっきの青田買いを黙認する理由の1つ、『パンサーズ』出身者は、この村では、あまり歓迎されていない。他所に出ていくならそれも良し、と思われているのだ。
すいません、辛気臭い事言っちゃって…そう言って、犬飼は去って行った。レオは吹く風が急に冷たくなった気がした。
トスっ…不意に背中に柔らかい物が当たる。右手を回してみると背中に触れた手に泥がついていた。土塊を投げられたのだ。振り向くとそこにいたのは、復興村のとある中年女性だった。怒りの形相でレオを睨んでいる。
「…苦労して慣れない畑仕事して、額に汗して、手に豆を作って、暑い日も、雨の日も、風の日も、太陽に晒され、雨に打たれ、風に吹かれ、毎日、毎日、毎日、一生懸命育てて、ようやく収穫出来た作物を、横から奪われた悔しさが、あんたに分かるかい!?」
周りに人が集まってきた。ほとんどの人が、レオではなくその中年女性に同情的だった。
「私達は腹をすかして、お乳が出なくて赤ん坊に飲ませられない母親もいたし、あんたらに襲われた時に転んだ私の主人は、今でも足を引きずってる!!」
まあまあ…知人と思われる女性に宥められ、喚く中年女性は腕を引っ張られて行った。去り際に彼女は、
「何が自警団だい!!盗人稼業が立ち行かなくなったからって今更更生なんてすんじゃないよ!!あんた等の正体が畜生だって事は、みいんな知ってんだよ!!!」
レオはその女性の姿が見えなくなるまで、深々とお辞儀をしたまま頭を上げなかった。人間になった虎達の贖罪の日々に、終わりは無い…
※ ※ ※
※ ※ ※
『ユニバレス連合』、自警団、団長室…
福田団長のデスクの前に立つハジメ。東京遠征の報告だ。
「…地球の平穏を乱す者達を協力して討伐し、脱走した元自警団長を捕縛。いやあ、見事な成果だよ、小鳥遊。これで誰も君が自警団にいても文句は言わないだろうね。」
「ありがとうございます!!」
ハジメの報告を聞いた福田団長は、ふと、東京から来た難民達の、宮部国王への評価が不自然に高い事に疑問を抱く。
「小鳥遊…東京の方で、『ユニバレス連合』の事について、何か聞かなかった!?」
「いえ、何も…」
「そう…じゃあさ、向こうで、何かうちの話をしたかな!?」
「えーっと…そう言えば、ボクみたいな子供が何でアレッツ乗りをしてるんだって聞かれて、SWDで親を失って、生きていくためだって答えました。」
「ほう…それで…」
「それから、余所の村では、ボクより小さな子供がアレッツ乗りをさせられてたけど、宮部って王様が、その子達をみんな引き取って、大人たちの手伝いをして生きて行ける様にしてくれたって話をしたかな…」
なるほど…その話に尾ひれがついたかな…福田団長は思った。
「あのー…ボク、何かまずい事言いました!?」
「いいや、何も…」
この際国王陛下には頑張ってもらおう。新しい人が来れば国力も上がるし…
「それで…小鳥遊、俺が言ってたもう1つの宿題の、答えは出た!?」
もう1つの宿題…ハジメの今後の進路について考えろという物である。
「はい…」
ハジメははっきりとそう答えた。
「…聞かせてもらおうか。」
「…春から出来る学校へ通いながら、自警団でも働きます。」
「まあ、それがいいだろうね…」
「…学校を卒業したら、自警団を辞めて、この国を出ます。その時、アレッツもお返しします。」
「…どこへ行って、何をするつもりなんだい!?」
「エンジニアになる勉強をしに行きます。」
「そうかい…寂しくなるねぇ…」
その言葉が自然と出て来た事に、福田団長自身驚いた。かつては廃墟に暮らしていた孤児の少女に…福田団長はコホンと咳払いをして、
「君は頭がいいって佐藤さんも言ってたから、合ってるかもしれないね…でも、勉強をしにって、どこへ!?郡山のおやっさんとやらの所へかい!?」
ハジメは遥か遠くを見つめるような目で、言った。
「仙台へ………アユムお兄ちゃんに、弟子入りします!!」
※ ※ ※
小鳥遊ハジメ、後に佐藤ヒスイ夫妻の養女となり、佐藤ハジメとなる。
いずれ巣立っていくとしても、その間に親子の時間は十分に取れるだろう…
※ ※ ※
※ ※ ※
西暦2053年11月末、旧宮城県仙台市長町…
昼過ぎからチラチラと雪が舞っていた。早すぎる季節外れの雪である。積もることはあるまいが、また冬が近づいている事を、住人達は実感させられた。
村はずれで2人の人物…黒部ユウタと富士野先生が、立ち話をしていた。この季節外れの雪についてだ。
「この季節に珍しい雪は瑞兆かもしれないね。」
富士野先生がそう言うと、ユウタは、
「ずいちょうって何ですか!?」
「何かおめでたい事が起きる前触れかもしれないと言ってるんだよ。」
その時、2人は南の方に、2つの人影が立っているのに気づいた。舞う雪の中に並んで立つ男女に、ユウタも富士野先生も見覚えがあった。
「アユム………」「相川さん………」
渡会アユムと相川カオリ。2か月前に北から帰ってきて、南に旅立っていった、ユウタの親友であり、富士野先生の教え子達だ。果たして季節外れの初雪は瑞兆だった。アユムは並び立つカオリの手をしっかりと握って、懐かしい人々に言った。
「ただいま………」
完
※ ※ ※
※ ※ ※
※ ※ ※
数日後、旧宮城県仙台市青葉区匂宮…
かつてアユムが家族で暮らしていたマンションに程近い廃工場跡に、アユムはいた。ここの所有者はもういない。好きに使っていい。そう言われた。
「中々広くていい感じね。」
隣にいつの間にか立っていたカオリが言った。
「そうですね。」
カオリに気に入ってもらえて良かった。僕達は恋人同士なんだから、これからカオリさんが遊びに来る事も多いだろうから、居住空間の広い場所を選んだのだ。
次の瞬間、カオリは無遠慮に工場の敷地内へと足を踏み入れる。
「カオリさん…!?」
その行動の意味を測りかねていたアユムに、カオリは笑みを浮かべ、
「何してるの、アユム!?早く中を見せてよ…私達の家を。」
「え………!?」
戸惑うアユムに、カオリは男を蕩かす笑みを浮かべたまま、
「私達、恋人同士なんだもん、一緒に住むのは当たり前よね!?」
カァーっ…アユムの顔が一瞬で真っ赤になった。
…こうして、渡会アユムは、これまでの旅で培った技術とノウハウを利用して、街外れの廃工場でジャンク屋を開業し、相川カオリもそこに住み着いた。しかもアユムが自室にと目をつけていた、一番良い部屋を、カオリの部屋に取られてしまった…
※ ※ ※
※ ※ ※
西暦2053年12月某日、深夜…
ドーーーーーン!!
仙台の廃墟に轟音が響き、アユムは何事かと起きてしまったが、連日働き詰めの疲労から、すぐに再び眠りに落ちてしまった…
※ ※ ※
翌朝…
「ふぁ…」
生あくびをかみ殺しながら、階段を降りるアユム。「おはよう、アユム…」台所からカオリが声をかける。「おはようございます、カオリさん…」言いながらアユムは、工場の前庭…現在はジャンク山置き場や完成品の展示に使っている駐車場跡を歩いて行く。それにしても、今日は寒い朝だ…コケっ!「うぁ!?」何も無い所で転ぶアユム。いかんいかん…昨夜途中で起きちゃったから寝不足なのかな…
「あ………」
敷地の出入り口まで来たアユムは、敷地の外が、一面雪に覆われているのに気づく。このせいで寒かったのか…敷地内の雪は、カオリさんがよけてくれたのかな。お礼を言わないと…再び前庭を歩いて工場の中へ入るアユム。
「カオリさん、ありがとう…」
「ああアユム、先に起きて前庭の雪よけをしてくれたのね、ありがとう。でも、出来れば敷地の外もやっといて欲しかったわね…」
え………!?
前庭の雪をどかしたのはカオリさんじゃない!?じゃあ誰が雪を…よく見ると前庭の雪は丸くよけられている。まるでクレーターの様に、大きな輪の様に雪の山が出来ている。円の中心には銀色の丸い布の様な物が落ちていて、その中心がこんもりと膨らんでいる。さっきはあれに転んだのか…
布は材質不明で、めくってみると、外周に等間隔で糸の様な物が着いており、中心の何かへと伸びていた。まるでパラシュートだ。昨夜の轟音はこれが落ちた時の物で、その時の衝撃で、昨夜降り積もった雪は吹っ飛ばされた…!?
これは空から落とされた物だ。でも誰が、どうやって…!?このご時世、空を飛ぶ手段自体限られている。これは空から落とされた物、ソラから落とされた物…という事は、僕に届けられた物だ。どうやって僕がここに住んでるのを知ったのか知らないが、恐らく大気圏外からこの工場へ落とされ、謎技術で地上へのダメージを最低限に留め、それでも夜中の爆音を起こし、積もった雪を吹き飛ばした。でも、何を…!?
パラシュートが結び付けられていた物は、白い球体だ。外を探ってみると、スイッチの様な物が見つかった。カチっ!押してみると球体は開いた。中に入っていたのは、一辺が30cmくらいの、小さなカバンの様な物だが、前面が透明になっている。これはブリスターバッグだ。そして透明な前面越しに見える中身は、
全身濃紺色に金の差し色が入った、額の三日月の前立てを着けた、鎧武者の様なロボット………




