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4ー2 歩兵の歩みに 香車が追い付く

「カオリさん…何で!?どうやってこんな所まで…」


「それ、あんたが言う!?」


カオリは自分の押しているスクーターを指した。あの村の近くの街の廃墟で見つけた、壊れたスクーターを、勝手に直して置いて行ったのだ。あれに乗ってきたのか…


「ま、あの村だとこれに乗ってどこか行く所なんて無いし、みんな快く譲ってくれたわ。ところで…元気だった!?」


返事の代わりにアユムのお腹がグーー、と鳴る。


「…お腹空かしてるみたいね。あの村を出る時、たくさん食料を持たせてもらったはずだけど…」


「………もうなくなりました。」


「ふぅん…ところで、あんたが出ていった2日後くらいに、父子連れが、村にやって来たのよ。なんと父親の方はアレッツ乗りだって言ってて、自分が乗ってる機体も見せてくれたわ。『何でもするから、アレッツを重機代わりにした作業もするから』って…みんなで議論した上で、子供もいるみたいだからって、村に迎える事にしたのよ。あんた何か知らない!?」


「べ…別に…」そうか、あの2人…


「…その2人が持ってた食料が…まぁいいわ。」


「カオリさんこそ、どうしてここにいるんですか!?」


「あの村を出て来たの。」


「えーーーっ!?」


そう言えばカオリさん、大きなリュックサックを背負って、スクーターの荷台にも荷物を積んでいる。旅支度だ…


「あたし、元々、あの村の人間じゃないの。」


そう言えば、ダイダ達にカオリさんが攫われた時も、『村の者じゃないから見捨てよう』って意見が出たっけ…


「だとしても、どうして村を出たんです!?どこへ行く気なんです!?」



「あー、それなんだけど…


記憶喪失なの、あたし…


自分が何者で、どこから来たのか、全然分からないの…」


     ※     ※     ※


「SWDの時、気づいたら廃墟の街をフラフラさまよってて、その前の記憶が…特に、自分がどこから来たのか、全く覚えていないの。辛うじて覚えてたのは、『カオリ』って名前だけで…」


そう言えばあの村で、カオリさんを誰も苗字で呼ばなかった。


「あたしがスターゲイザーなのも、そのせいなの。星が落ちてきた時の事を、全然覚えて無いから。あたしも大概よねー…星空のトラウマを、記憶を焼き切る事で乗り切るなんて…」


カオリは自嘲気味に言った。


「スマホとか、身分を示す物を、何も持ってなかったんですか!?」


「うん…スマホはあったけど、これ…」


そう言ってカオリはスマートフォンを差し出す。今じゃスマートフォンが免許証も身分証明証も兼ねている。背面の指紋認証を開けると、画面に出て来たのは…


「これ…生体認証と質問回答の二重ロックなのか…」


画面に出て来た質問は、『あなたの出身地(市町村)は?』という文字。そもそもそれを忘れてしまっている。


「これのせいで、スマホの込み入った機能は全然使えないのよ。辛うじて見れたのは、これだけ…」


「これ…画面のキャプチャですか?交通系アプリだな…」


多分、無人改札にかざす時に、うっかりキャプチャボタンを押してしまったのだろう。北海道新幹線の電子チケットで、新青森駅乗車、新函館北斗駅下車。この時代には北海道新幹線は、元いた村の近くにあった、旭川まで伸びているというのに、この一区間だけの新幹線乗車。


「うーん…カオリさんは青森から来たと言うより、津軽海峡を越えるために新幹線に乗ったって感じですよね…飛行機に乗らなかったという事は、関東より向こうじゃないと思うけど、少なくとも東北地方のどこかかな…!?」


「うん…そして、あたしが朧げながら覚えているのは、『山が会って、川があって、碁盤の目の様な道があって、お城があった』事くらいなの…」


あの質問は、そういう意味か…

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