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24ー5 丘の上の虚人

ほぼ同時刻、旧栃木県宇都宮市南西部…


そこには『ユニバレス連合』自警団の一隊と対峙して立つ、数機のアレッツと、その後ろに1人の男がいた。男は叫ぶ。


『「ユニバレス連合」を自称する簒奪者どもぉ!!私は栃木全土を領有する「マロニエ共和国」大統領だぁ!!今日こそ貴様等の不当占拠に終止符を打つ!!東京から来てくれた精鋭達が、私に力を貸してくれるぅぅ!!』


『マロニエ共和国』…もとい、『マロニエ村』村長だった。


一方、それと対峙する自警団の福田団長は、

「あの人、『ジョシュア』に去られて大人しくしてたと思ってたら、またあんな事始めちゃったの!?」

「極めて遺憾だ………」

『ユニバレス連合』の宮部国王も苦虫を噛み潰した様な顔になった。


『さあ先生方、お願いします!!』

得意げな『マロニエ村』村長が右手を振り下ろす。だが周囲のアレッツ達…東京からの難民達は、動こうとしない。それどころか、彼等は口々に言う。


『「マロニエ村」は「ユニバレス連合」の一部だって言ってたから身を寄せる事にしたのに…』

『話が違うじゃねぇか!!』

『栃木は宮部って仁徳に溢れる聡明な王が穏やかに治めてるって聞いたから来たのに…』

『なんでその王様に反乱起こす片棒かつがされなきゃならんのだ!!』


口々に言う東京からのアレッツ乗り達。東京を焼かれて難民として北へ流れて来て、『マロニエ村』の村長に利用されたのだろう。


『な、何言ってるんだお前達………ヒっ!!』

ジャキっ!!東京のアレッツ達に銃口を向けられ、『マロニエ村』村長は悲鳴を上げた。


茶番劇の一部始終を見ていた福田団長は、

「どうされますかぁ!?()()()国王陛下!?」

この場の反乱を治めたところで、次は難民の受け入れ問題が発生するし、反乱を起こした『マロニエ村』の処分も、お咎め無しでは他への示しがつかない。宮部国王は唸る様に、


「………極めて遺憾だ………」


…こうして、南で起こった騒動のせいで、自警団も国王もみんな出払ってしまい、宇都宮本土で起きた騒動は、当事者達で解決するしかなくなった…


     ※     ※     ※


一方、突然現れたダイダのアレッツに捕らえられたカオリは、抵抗もできずに丘の上に連れてこられた。


ダイダ機の左手に両腕を掴まれて、身動きが取れなくなったカオリは、怯えるような目でダイダ機の金色の単眼カメラアイを睨んだ。


『まるで北海道の時みてぇだな。もっとも、2人の手下は、もういねぇがな…安心しろ。お前は渡会を呼び出すための人質だ。あいつが来るまで何もしねぇ。大体、前にも言ったろう!?俺はお前みたいな気の強い女は好みじゃねぇんだ…それに………俺はもう、お前をどうこう出来ないんだ………』


ここでカオリはようやく、ダイダ機の腹部…普通のアレッツなら球と立方体が組み合わさった様な形のコクピットが着いているはずの箇所に何もなく、腰から伸びる4本のパイプだけで胸部から上を支えている事に気づいた。もちろんプロトアレッツの様に背中にむき出しのコクピットがある訳ではない。


ダイダ機はカオリを自身のカメラアイに近づける。ダイダ機の単眼カメラアイの色は、いつの間にか金色になっていた。そして…カメラアイの中にあったのは、


生気の失せたダイダの生首。しかも頭蓋が割れて脳が半分欠けており、そこから光の筋が何本も伸びていた。


「ヒっ!!」

カオリが悲鳴を上げる。


『「生きたおもちゃ」の野郎にやられたんだ…戦闘バックレて、用足ししようと苦労してコクピットから這い出た所で、あいつが宇宙船乗っ取ってビームを東京目がけて撃ちやがって………俺の体が、燃えちまったぁ………それで、神経で繋がってたアレッツに、「何とかしやがれ」って命令したら………こんなになっちまったぁ………!!』


そう言ってダイダ機は自身の右腕を動かしてみせた。ダイダの脳から伸びる光の筋は、このアレッツと繋がっているのだろうか…


『機械は眠らねぇから、眠れねぇ苦しみからも解放されたぜぇ。もっとも、『永遠の眠り』って奴にも、もうつけねぇんだろうけどよぉ…ともあれ、これで俺は正真正銘の不死身だぁぁぁ…』

自嘲気味に言うダイダ機…いや、ダイダ・ホワイトドワーフ。

『俺の脳みそは、半分欠けちまったから、アレッツのコンピュータが、生前の俺をエミュレートして補ってる…でもその際、俺が生まれつき持ってなかった物まで勝手に仕込みやがったらしい。ここへ来るのだって、地形情報とお前等との遭遇記録から、帰りにお前等が通るであろう場所を推測したんだ。どれ一つとっても、昔の俺じゃあ思いもつかない事だ。俺は今、確かにここにいて、こうして考えてる。でも、今ここにいる俺のどこまでが俺で、どこからが俺じゃあないのか…どんなに考えても分かんねぇんだ…しまいにゃ俺は渡会にずっとひどい事してたんじゃねぇかって………こんなの俺じゃねぇ!!』


ダイダの口調には、彼らしからぬ知性と、狂気が入り混じっていた。


『でも、半分残った俺の脳みその中に燻る、「渡会をぶっ殺したい」って気持ち………これは俺だ。これだけは俺だ。断じて譲れねぇ。だから………お前を人質に、渡会を呼び出して、ブっ殺して、全部、しまいにする………』


あまりの浅ましさにカオリが声も出ないでいると、


『お前、俺の事を頭おかしいって思ったろう…!?違うね。俺は正常だ。今までがおかしかったんだ………』


それからダイダは自嘲気味に、


『ああ…やっぱり、今のがおかしいや………』

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