24ー3 告白
佐藤さんに連れられて2人がやって来たのは、街外れの丘の上。そこには街を見下ろすように建てられた、小さな十字架があった。
「………へ!?」
アユムは最初、それが何なのか、どういう意味なのか、自分と何の関係があるのか、理解できなかった。いや、頭が理解するのを拒んでいたのだろう…
「ルリは………あの夜に…」
佐藤さんは言った。あの夜…スペースウォーズ・デイの事だろう…
「そ………んな………」
ガックリと膝をつくアユム。これまで彼がして来た旅は、冒険は、全部、最初から無駄だったのだ…
「でも………どうしてルリさんは…あの家は無事だったのに………」
アユムが言ったが、佐藤さんは、
「『織姫星と彦星を見に行く。ここは仙台より南だから、向こうでは見えない星座も見えるかもしれない』って、1人で出かけていったの。あの子いつの間に、星や星座を見分けられる様になってたのかしら…」
(僕の………せいだ…)
アユムは思った。そして、
「でも………佐藤さん仰ってたじゃないですか!?『あの家に家族3人で住んでいる』って………」
「私と主人と、私の母ですわ………」
「………………」
無言で涙を流すアユム。彼がルリに会うためにどれだけの苦難を乗り越えてきたのかを察した佐藤さんは、「しばらく席を外すわね…」と言って、丘を降りていってしまった。
「アユム………」
カオリもアユムを心配そうに見つめた。
「ルリさんが………死んでしまった………とうに死んでしまっていた………旅を始める、ずっと前から………」
「アユム………」
「僕を好きだと言ってくれた人が、死んでしまった………」
彼が好きだった『生きたおもちゃ』が惨たらしく死んだ事に加えて、ルリを失った事で、アユムはようやく持ちこたえていた心の堤防が壊れてしまった。そう言えば、『生きたおもちゃ』は、ルリの居場所を言うのを拒んでいた様だった。『全知』の機能でルリの死を知っていたのかもしれない。
「僕が好きになったから…僕を好きになったから…死んでしまった…」
「アユム、それは違う…」
「やっぱり僕に、人を好きになる事なんて出来なかったんだ…」
「アユム…」
「僕に人に好きになってもらう資格なんて無かったんだ…」
「何、言ってるの!?」
カオリが思わず大声を上げた。ビクっと震えるアユムに、カオリは続けた。
「あたしは、昔のあんたがどんなだったか知らないわ。でも、今のあんたは、十分に人に好きになってもらえる資格はあると思うわ!!」
「………気休めはよして下さい…」
「ユウタ君やカナコさんは、あなたの友達なんでしょう!?」
「あの2人はどんな奴とでも仲良くなれる気がするからなぁ…」
「ハジメちゃんは!?明らかにあんたの事好きでしょう!?」
「…年上の男性への憧れだよ…」
「ソラさんや最上さんは!?レオ君は!?」
「…最後はほぼ喧嘩別れでしたけどね…」
際限なく落ち込むアユムに、カオリはボソっと、
「………あたし…」
「…何です!?」
「あたし………あんたの事、好きよ。」
カオリの口から、自然とその言葉が出た。しかしアユムは、
「………ありがとうございます…」
「ああもうそうじゃなくて………」
カオリは項垂れていたアユムを無理やりひきずり起こして、泣きはらしたアユムの顔に自分の顔を近づけ、
ガ チ ン!! 前歯がぶつかった音がした。
「………」
「……………」
アユムの目が大きく見開かれる。
柔らかい、暖かい感覚が、唇に押し付けられている…
カオリも初めてだったので、どれだけ合わせていればいいのか分からなかった。十秒、二十秒………どれだけ合わせていたのか、分からなかった。息が段々続かなくなり………
「ぷはっ!!」
カオリはようやく、アユムを離した。
「はぁ…はぁ………」
「はぁ………はぁ………」
ルリの墓前で、荒い息をつく2人………そして、カオリを驚きの目で見つめるアユムに、彼女は、
「これで分かったか………この鈍感!!」
「カオリ………さん…」
アユムは3ヶ月を共にした旅の道連れの変貌が信じられなかった。
「あたし………ずっとルリさんに嫉妬してた!!」
ヒュン………一塵の風が丘の上を吹き抜け、カオリの長い髪を一瞬揺らす。
「う………」
そしてアユムは………
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!」
………悲鳴を上げて、逃げるように丘を駆け下りていった………




